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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二節 人魂
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翼の決断

 俺、志倉翼にとって、そいつは予想外の出来事だった。

 美果の妖。【人魂】の発動。

 幽体の手を使い、触れた相手の魂を抜き取る妖。


 危険だから絶対に使うな。そう教え込んでいた。

 だから絶対使わないと安心していた。

 でも、使っちまった。


 これでこいつも抹消対象。何せ、一瞬で大量の人間を殺したんだ。

 確かに魂を抜いただけなので戻せば息を吹き返すだろうが、被害者にグレネーダーが入っているのが最もマズい。

 現行犯だ。確実に、抹消対象になる。


 俺だけならこれはチャンス。

 美果を守るためになんとか交渉してグレネーダー入隊もできないかなと思っていたんだが……


 どうする? どうすればいい?

 とっさに辺りを見回す。

 あの美果の知り合いの女に弾き飛ばされ、美果の力から逃げ延びた男と目が合う。


「……どうする少年? これでお前の考えは潰えるぞ」


「俺の考えが分かるのか!? でも、俺は美果を……助けたかっただけなのに」


「今の出来事をなかったことにできるとしたら……どうする」


「あ? どういうこったよ」


「とりあえず、私が助かったのは幸運だったな。斑鳩に感謝せねば。こちらとしても部下と上司を失うのは辛い。私の力を使え少年」


 男は黒い皮手袋を外し手を差し出してくる。

 こいつの力? どういうことだ?


「私に触れて変えたい過去を強く願え。そして行動しろ。さすれば未来は一度だけ形を変える」


 それがこの男の力?

 信じられるわけが……いや、でも、信じなくても、もし変られるなら……

 魅惑的過ぎる言葉にふらふらと近づく俺は、つい男の手を両手で握る。


 祈るように、願う。

 美果が力を使う前に、美果が暴走しないように。

 身体に稲妻が走る。


 身体がぶれるような衝撃に驚いた瞬間、目の前の風景が変わっていた。

 気がつくと、俺は片手で横にいる女を制していた。

 空には殺したはずの男が旋回している。


 そうか……これは俺が妖を発動する前の過去だ。

 不思議な感覚だがわかる。

 本当に過去に飛ばされたのだ。


 大丈夫、今はもう冷静だ。

 アレを殺せば俺は抹消対象。連れて行かれる。

 そして美果は妖を発動させる。最悪の結末だ。


 ならどうするか?

 横の女はグレネーダー。美果の拾った免許証を見せてもらったので知っている。

 なら、この女にアレを倒させるのが一番だ。


 俺の助けであの変態を捕らえた。

 つまり、グレネーダーに恩を売ったことになる。

 それでグレネーダーに入って、美果に普通の生活をさせてやる。


 もう怯えて暮らさなくてもいい。

 美果の妖は危険だから、俺が守らねぇといけないんだ。

 冷静になれば簡単な事だった。これ程安全な方法はないだろう。

 別に俺が一度犯罪者になる必要すらないのだから。

 さて、どうやってこの女に捕まえさせるか。


「なあ、アンタ、あれを落とすことはできるか?」


「え? あ、うん。相手が止まっていればだけど」


 なんだ、つまり俺が倒さなくても楽にあいつを倒せたってことかよ。

 あの時は頭が怒りでパンクしてて考えが回らなかった。

 この女も対抗策ぐらいあるって事か。伊達に抹消を行っちゃいねぇか。


「俺の妖であいつの動きを止める。あいつの後ろになんか現れたら迷わず倒せ。どうせ幽体だ。一緒に落としてくれてかまわねぇぜ」


「妖使い? ……オッケイ。やってみましょ」


 女の言葉に俺は先ほどと同じように妖の能力を発動させる。

 俺の妖は【テケテケ】。

 背後に気配を現し、振り向いた相手の首や胴を【自動的】に狩る。

 当然相手が振り向かなけりゃ全く無駄な妖だ。


 集中、そして開放。

 旋回する変態男の背後に出現する下半身のない女。

 俺の横にいた女が空に向かって地を蹴った。

 そのまま男に向かって走りだす。

 って、おいおい。空を駆け上がってるぞ。あれも妖能力かよ。


 男は女に気付かない。

 自分の背後の気配に気を取られている。

 ただ、振り向かれると自動発動で首を切り落とすのでクソ野郎の行動を凝視しておかなけりゃならないのは苦痛だ。見たくも無いモノを見なけりゃいけないからな。


 女は無言で駆け上がる。

 まるで坂を走っているように、なにもない空を翔けてゆく。

 その姿はどこか絵を見ているような感動を覚える光景だった。

 空にいる敵があの変態野郎じゃなければ周囲の観客は彼女に見入っていたかもしれない。


 男が振り向く。ここだっ! 俺は即座に妖能力を止める。

 消失する気配。男が完全に後ろを向いた時には、そこには何も存在していなかった。


 後ろを向いた男の前で、女は思いっきり反動をつけ、握った拳を全力で打ちつけた。

 バグンッとここまで響いた強力な一撃。


 堪らず男は墜落する。

 多分、男は何が起こったかすら理解していないだろう。

 地面に激突する男。死んだか?

 ああ、いや、生きてるな。痙攣してやがる。


 沸き起こる歓声。

 周囲の民衆にタコ殴りにされる裸の男。

 女は降りて、俺の元にやってくる。


「ご協力感謝します。ええと……美果ちゃんの彼?」


 女は爽やかに笑って握手を求めた。俺も仕方なしに握手する。


「志倉翼だ。何度も言うが彼氏じゃねェ、従兄妹だ」


 たぶん、この結果が、一番いい方法なんだろう。

 美果も俺も犯罪を起こしていない未来。

 そして、あいつ等がやってくる。

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