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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二節 人魂
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最悪の結末

 レストランに向かう私たちは、人がごった返す中を突き進む。

 鈴が私の腕に纏わりついているので離れ離れになることはないだろうけど、進みにくいことこの上ない。


 幸いにもレストランは空き待ちというほど込み合ってはなかった。

 席に通そうとする店員さんに人を探していると伝えて、美果ちゃんの特徴を挙げてみる。

 今日の出掛けに出会っているので、たぶん服装自体は変わってないと思う。


「そちらのお客様でしたら……」


 店員の目線を追って……見つけたッ!

 窓際の席であの少年と一緒に隣り合って遅めの昼食。

 一つのお子様ランチを仲良く食べている。


 どうして一つだけ? という疑問はあるけど、取りあえず声をかけるのが先だよね。

 私は二人の席に近づいて、目の前に立ちはだかる。


「そこのカップル今朝ぶりぃッ!」


 んあ? という声と共に少年がお子様ランチから顔を上げ、美果ちゃんもつられるように顔を上げる。


「あれ? お姉ちゃん?」


「ああ、どっかで見たと思ったら今朝の信号機にぶつかった人」


 そうね……そのインパクト強かったからその程度でしか覚えてくれてないよね。


「どうしたのお姉ちゃん?」


「うん。ちょっとね。嫌ぁなお話というか、辛いお話というか。なんにせよまだ被害に会ってなくて良かったわ」


「うん?」


 意味が分からず首を捻る。まぁ無理もないんだけどね。


「単刀直入に言うね。昨日の夜の……思い出したくないけど覚えてるよね」


 途端に嫌~な顔になる美果ちゃん。


「覚えてるけど……それがどうしたの?」


「なんかね、手違いがあって逃げだしちゃったみたいなの」


 あ、今物凄く気の毒そうな顔した。


「それは大変ですね」


「そうね。でね……上司の言う話じゃ、アレが報復に来るかもしれないらしいのよ」


「そうなんですか、大変ですね」


 他人事のように呟く美果ちゃん、オレンジジュースを飲みながら私の話を聞く。


「あの場に居た人全員が報復対象になるだあぶッ!?」


 ぶふうぅうぅうぅッ

 途端に美果ちゃんが吹きだしたオレンジジュースが私に襲い掛かる。

 真正面に座ってたもんだから避ける暇もありゃしない。

 鈴はちゃっかり逃げてるし。


「あ、ご、ごめんなさいお姉ちゃんっ」


「い、いいけどね……別に……」


 甘い雫が落ちているけど気にしない。

 取りあえず話をしておかないと。


「と、とにかく、そういうわけで、美果ちゃんも入っちゃってる可能性があるの。どうせだから護衛しといた方がいいかなって思って……でも、彼氏とんぶッ!?」


 今度は少年が吹きだす番だった。

 再び咄嗟に鈴が私から飛ぶように逃げた。

 その一瞬後に私に襲い掛かるジンジャーエール。

 うがぁぁぁぁ目が、目がしみるぅぅッ!?


「俺は従兄妹だッ! 彼氏じゃねェっ……って、わりぃ」


 謝るのを先にして欲しかった……


「お、お姉さま、とりあえず洗ってきた方がよろしいのでは?」


 なおも話を続けようとした私に、鈴が気の毒そうに声をかけてくる。


「俺らももうしばらくここにいるし、洗ってきなよ」


「そうだよお姉ちゃん」


「そ、そうね。悪いねデート中……じゃないんだっけ」


 彼氏……じゃなくて従兄妹に睨まれて途中で言葉を変える。

 どう見てもラブラブバカップルなんだけどなぁ。

 私は店員に洗面所の場所を聞いて、濡れた身体を拭くことにした。




「それじゃあ、その変態野郎に美果が狙われてるってことかよ」


 濡れた服を全部脱いだらブラウス一枚というこの冬には似合わない服装に。

 まぁレストラン内は暖かいので、これだけでもなんとか……なるよね。

 風引かないように気をつけないと。

 でも、たった二日で制服ダメにするって……どうよ自分?


「そうなるかもね。確証はないけど確率は高いのですよ」


「嫌だなぁ。あの人とまた会うなんて。すでにトラウマになりかけてるんだよアレ」


「それは同感。昨日は悪夢にうなされたわ。絶対に抹消するからね、美果ちゃん」


「お願いねお姉ちゃん。頼りにしてる」


 ガシリと互いの手を取り合う私と美果ちゃん。

 残された二人が呆れているけど、この際無視の方向……あれ?

 なんだろう? 急に日の光がなくなって?

 私は不審に思って窓を見る、そして見た。

 この世で見てはいけないものパート2。


「あ……ああ……」


 もう、トラウマは確定物だった。

 周囲に悲鳴が巻き起こる。

 口に入れていたものを吐きだす客。

 運んでいた品物をお盆ごと落としてしまう店員。

 阿鼻叫喚の地獄絵図とはこのことか?


 窓に張り付く一人の男。

 水かきのような皮膚膜が奇妙な怪人に思わせる化け物。

 身体を覆うものはなく、窓にべったり張り付く冴えない全裸の中年男。

 野衾がそこにいた。


「こ、こいつ……白昼堂々なんて格好でっ」


「もしかしてお姉さまのターゲットって、コレ?」


 後ろで誰かがなにかを言う。私の耳を素通りしていった。

 頭の中で楽しかった思い出が回りだす。

 それは走馬灯。現実逃避。

 でも、それをしていても意味はない。今やるべきこと、それは……


「……抹殺」


 私から漏れた言葉にも似た呪詛は、人の耳では聞き取れないくらいに恐ろしいものだった。

 窓をぶち割って野衾の喉元に手を伸ばす。

 が、一瞬、野衾が飛翔する方が早い。


「畜生ッ! クソジジイッ! 降りて来いッ!」


 さも愉快そうな笑い声。

 不快感と殺意が募る。

 その私を押しやる手。


「美果になんてもん見せやがる……」


 怒りの形相で私を制したのは、少年だった。


「つ、翼お兄ちゃんッ!?」


「テメェッ! 地獄の先に送ってやるッ」


 ギンと睨みつけた少年の目の先。

 空を飛ぶ野衾の背後に人影が現れる。

 え? ちょっと待った。

 ナニコレ? 妖反応が……現れた?

 背後の気配に振り向く野衾。


「翼お兄ちゃん止めてッ! 妖を使っちゃダメッ! 止めてェェッ!」


 叫び虚しく、野衾が後ろのナニかを見てしまう。

 途端に具現化する背後の少女。

 口に鎌を咥え、両手で野衾の肩を掴んで。

 でも、下半身だけは見えなかった。

 いや、彼女には存在していなかった。


 ――――ほら、捕まえた――――


 野衾の後ろの少女の唇が動く。

 少年の口も同じように動いて言葉を紡ぎだす。

 少女が首を振る。

 走る銀光。飛び散る紅。

 消えた命がドサリと落ちて……それで全てが終わりを告げた。


「死んで詫びろよクソッタレ」


 転がる丸いなにかを蹴ってそう呟く。

 衝撃的な現実に眼をそむけたくなる。

 私は……私は、でも、言わなければ……いけないと思う。


「あなた……自分がなにをしたか分かってるの?」


「あ? クソ野郎を倒した。それだけだ。あんただって似たようなことするつもりだったんだろ? 誰がトドメ刺そうが同じじゃねぇか」


 そう……じゃない。そうじゃないんだ。

 確かにグレネーダーの私の仕事は抹消が主だ。

 抹消は即ち相手を殺すこと。でも……


「あなたは一般人よ。人を殺せばどうなるか……例え相手が犯罪者でも、妖使いであったとしても、立派な殺人よ。そして妖を使って殺したのなら、次に狙われるのは……あなたなのよッ! 分かってるのっ!」


 私の言葉に美果ちゃんがはっと息を呑む。


「かも知れねェ。でもよ、やっぱ許せねェもんは許せねぇだろ?」


 ふっと息を吐く少年は妙にすがすがしい顔で答えた。

 私はなにも言えなくなる。彼の気持ちが痛いほど分かる。

 でも、このことで彼は抹消対象に指定されるのだ。

 本当なら、押しのけてでも私が野衾を捕獲すべきだった。

 これは……どう報告すればいいのだろう?

 この場にいた人は確実にあの妖を見ている。庇うことは不可能だ。


「斑鳩ッ!」


 騒ぎを聞きつけたらしい小金川隊長が駆けつけてくる。

 ……あれ? なんで副隊長と黛さんが一緒なの?


「小金川隊長……あの……」


「この騒ぎはなんだ? なにがあった」


「野衾が現れて……」


「奴が!? どこに居る」


 私に詰め寄る小金川隊長の横で副隊長がなにかを拾い上げる。


「ここにいるようだ僧栄」


「ここ……おわっ!? な、生首ッ!?」


 副隊長は手にしたものを小金川隊長に渡す。

 それを真近で見た小金川隊長は慌ててポイと放り投げる。


「副隊長たちはどうしてここに?」


「うむ、僧栄からお荷物がはぐれたと連絡が入ってな。捜索していた」


 お荷物って私のことですか。


「で、誰が野衾をやった?」


「そ、それは……」


 つい口籠ってしまう。


「俺だ。俺がやった」


 でも、私の想い虚しく少年が自白する。


「ただの刃物というわけではあるまい。妖使いか?」


「ああ、その通りだ」


「あのっ隊長、副隊長……」


 二人とも、私の言いたいことは分かっているはずだ。

 顔を見合わせ、頷きあう。


「悪いが拘束させてもらうぞ」


「隊長ッ!?」


 私を押しのけ、小金川隊長と副隊長が少年を両脇から拘束する。


「ま、待ってください、その子は……」


「妖犯罪における第十七条、妖使いはいかなる理由であれ妖による殺人を禁じる。また警察職員はこれを除外するが、正当な理由がない場合、いかなる身分であろうと之に順ずるものとする」


 小金川隊長の言葉に、駆けだそうとした足が止まる。


「翼お兄ちゃんッ!? 待って、翼お兄ちゃんを連れてかないでッ!」


「いいんだよ、これは俺の決めた結果だ。お前を守れたんだからな」


 少年の言葉に美果ちゃんはぐっと耐える。でも……


「連れてかないで……私から翼お兄ちゃんを取らないで……」


 呟きは次第に深く、暗く、憎悪に変わる。


「翼お兄ちゃんを連れてく奴なんて……」


 唐突に出現する妖の反応。

 まさかこの二人……この従兄妹は、妖の発動中のみに妖反応が現れるタイプの……


「翼お兄ちゃんを連れて行く奴なんて……大ッ嫌いッ!」


 ブワリと嫌な風が巻き起こる。

 美果ちゃんから現れる無数の幽体の手。

 隊長と副隊長に襲い掛かる。


「副隊長ッ!?」


 迷うことも躊躇うこともなかった。

 とっさに体が走りだす。

 無意識に副隊長を突き飛ばし、替わりに私が……


 ドクンッと体から飛びだす大切なもの。

 私の意識が消えていく。

 なにが……起こっ…………――――

名前:  出雲いずも 美果みか

 特性:  猫を殺す好奇心

 妖名:  人魂

 【欲】: 怪談を聞かせ怖がらせる

 能力:  【霊体触手】

       身体から霊体で出来た触手を無数に出現させる。

       これで人の身体に触れると魂を取りだせる。

       また、地中や障害物をすり抜ける。

       精神体相手に戦うと精神ダメージを受ける。

      【幽霊交信】

       霊体と会話することができる。

      【霊魂■■】

       ???

      【同族感知】

       妖使い同士を認識する感覚器。

       個人によって範囲は異なる。

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