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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二節 人魂
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近況報告

「ああ、その。なんて言うかな。両成敗ってことで許してくれ」


 制服に着替え、作戦会議室に来た私に、三嘉凪支部長は苦笑いしながらそう言ってくれた。

 もちろん寝坊した私も悪い。だから素直に受け入れておく。


「はい……すいませんでした」


 謝る私を見て副隊長が日記をつける。

 どう書かれてるか気になるんですけど。


「さて、もう昼になってしまったが、全員揃ったので今日の報告をしようか」


 三嘉凪支部長が表情を切り替え、全員を見回した。


「まず始めに朝来てから近況報告を始めてもらう。仕事の途中なら今までの経過報告。なければその時までに得た情報などだな。昨日はどんな仕事をした。などでも構わない。本来は書類にして提出した方がいいのだが、時間的に無駄ができるのでな。国原支部では口頭のみという制度を取っている。ただしだ。仕事してましたとか簡潔すぎるのは始末書適用だからな。具体的にどんな仕事をしていたのかを報告すること」


 定例報告を実際にやって見せると、三嘉凪支部長が小金川隊長に促す。


「では、定例報告を始める。まず、俺と小林とでポイントBの見張りをやっていたのだが……全くもって誰も通らなかった。戦果もない」


 そんなんでいいのか近況報告……って、副隊長、日記に書いてる!? 書記係!?


「それから、小林がいきなりシャドーボクシングを始めて塀を一部損壊させたのでその処理を行っていた。白瀧の報告で野衾の処理に向って、新人歓迎会の後は小林と始末書を書いていた。以上だ」


 なぜにシャドーボクシング? いや、まぁ腕力見せるのが欲なのは分かるけどさ。

 続いて副隊長が口を開く。


「私と斑鳩はポイントCを見張っていた。相手の目撃報告が夜間に集中していたので日が落ちた辺りにポイントに移動。その後出雲美果という少女に斑鳩が接触、共に転倒した」


 ふ、副隊長、もしかして包み隠さず私の赤っ恥報告する気ですか!?


「数分後にターゲットと接触、斑鳩が飛行中のターゲットを捕獲して犯人捕獲を全員に報告した。……以上だ」


 私を一瞥してそこで口をつぐむ副隊長。ありがとうございます……


「ポイントAを見張っていた三嘉凪だ。黛は食べてばっかりでせっかく恥ずかしい偽制服用意したってのに、イジリがいがなくて虚しかった。白瀧君の報告で現場到着後に野衾を捉えて後始末。午後九時以降は引き上げて書類整理をしていた」


 いや、偽制服って……なにがしたいんですか三嘉凪支部長。

 そういえば確かに私のと違って布面積少なかった気もする。

 スカートもミニスカだったし。

 可愛らしくてよかったと思うけどな。

 私はあっちの制服の方が好きだったよ。


「俺らの報告は以上。次は黛から順番に、今のような感じで報告してくれ」


「了解です。支部長と共にポイントAの見張りをしていました。国原第一小学校横のケーキ屋さんのエクレアと、黄塚書店前の和菓子店の最中がおいしかったです」


 ターゲット違うッ!?


「商店街のラーメン屋はそろそろ潰れますね。断言できます。この寒いのに冷やし中華始めてましたから」


 すでに報告が別方向に脱線してしまっていた。


「そ、そうか……ま、まぁ今回はそれでいい。でも次からは仕事についてのことを報告してくれると助かる」


「はい。でも、今回はなんの成果もありませんでしたので、せめて近隣のめぼしい場所の報告をと」


 気が利くのか利かないのか。


「つ、次、小林君」


「はい。と言いましても小金川指揮官と差して変わりません。寒空の中震えながら缶コーヒー片手に男二人で空しく六時間以上待機していたくらいです。途中、欲望に身を任せてシャドーボクシングしてました。横で指揮官が裸で走り回っていた記憶も無きにしも非ずですが、たぶん幻でしょう」


 走ってたんだ。

 いいのかグレネーダー? それこそ猥褻物陳列罪に相当するぞ。

 んでも、ご愁傷様です小林隊員。寒空の中お疲れ様。


「それじゃ、斑鳩……」


 そう、小金川隊長が口にした瞬間、三嘉凪支部長の目がギラリと輝いた。


「斑鳩、白瀧と同じ様な報告をするのもつまらんよなぁ」


 うっわぁ……嫌な予感。


「そういえばあの後新人歓迎会で居酒屋に入っていっていただろう? その辺りを詳しく聞きたいなぁ」


 私は拗ねたように副隊長を見た。

 副隊長は小さく手を合わせてすまんと意思表示している。

 既に支部長知っちゃってるんですね。

 そして私自身に全員の前で告白しろとおっしゃるのですね。


「野衾捕まえた後で、副隊長と黛隊員と小林隊員と美果ちゃ……出雲美果と一緒に【来やり】に入りました」


 半ばヤケクソに話しだす。


「副隊長との話の中で入鹿の能力についての話になって、ジャッキー君を具現化。ハプニングが起こりコップが倒れ、店員を含めた大惨事に発展。とにかく平謝りで許してもらいました」


「今朝遅れた理由は? 道中のハプニングもどうせあったんだろうからそれを含めて報告してくれぃ」


 ……絶対目ェ付けられた。

 なんか俄然元気になってるよ三嘉凪支部長。


「野衾による精神的後遺症により寝るに寝られず午前四時ようやく就寝。九時過ぎになんとか起床。全力で走る途中出雲美果に遭遇し、挨拶。これによる不注意で信号機と正面衝突。支部に十時前に到着後、カードが使えず十三時五十分まで門前待機してました。信号機の始末書は追って提出致します」


 報告の後、三嘉凪支部長以外が同情の眼差しを私に向ける。

 三嘉凪支部長だけニヤニヤと笑ってるし。

 泣きません。入鹿は強い子ですから。


「良くできました。では最後に支部長からのありがたい報告だ」


 一呼吸おいて私たちを見回す。


「……の前に、斑鳩に謝っておく。すまん」


 は?

 両手を合わせて謝る三嘉凪支部長。

 なんのことやら全くわかんないし。

 なにを? ってかなにに対してすまんですか?


「昨日捕まえた野衾な。逃げた」


 あっさりと、とんでもないことを言ってくれた。


「はぁっ!?」


「いや、だからな。護送中に護送係がちょいとヘマッてな。逃げた」


 逃げたってあんた、それごめんで済む問題じゃないですよね!?


「それでな、皆に報告。緊急の仕事が二件入った。一つは引き続き野衾の捕獲、または抹消。もう、政治家連中も自分の手でなくてもいいそうだ。昨日お怒りの言葉を受け取ってしまった。今日中に始末しないと私の首が飛ぶ」


 私には全く関係ないですね。どうでもいいや。


「そこ、今どうでもいいとか思っただろ」


「いえいえいえ、思ってない。思ってないですよ。一つも、これっぽっちも、全くも!」


 三嘉凪支部長に指摘されて、私は首がもげるかと思うくらいに横に振った。

 自分でもめちゃくちゃ怪しいと思えるくらい動揺してしまっていた。

 なぜわかった?


「とりあえず、それが一つ。野衾は一週間くらい前から家に帰っていないようだ。家に乗り込んでも無駄だろう。なんとしてでも今日中に奴を見つけてくれ。頼む」


 さして困っていなさそうに頼む三嘉凪支部長。

 果たして彼を支部長の座に留めておく理由と利益はあるのだろうか?


「それからもう一つ。こっちはさらに緊急だ。見つけ次第消せ。躊躇うことも許さん。死にたくなければ全力で倒せ。相手が死ぬまで確実にだ。気を抜くことも許さん。発砲も許可する。警察署側の保管庫から持って行け。遠慮せず撃て」


 と、今まで見せたこともない真剣な顔付きで話しだす。

 昨日のように三枚綴りの資料が配られる。

 あれ? 写真が貼ってない?


「ターゲットは川辺鈴。妖の名は……【鵺】だ」


 妖の名称を聞いた瞬間、小金川隊長と副隊長に戦慄が走る。


「鵺……と言えば声はトラツグミ、頭がサルで胴がタヌキ、肢が虎で尻尾が蛇の化け物の名前ですね」


 小林隊員、物知りです。

 私も少しなら聞いたことがある。

 確かそいつの声を聞いてしまうと寿命が縮まるんだとか。


「新種……だな。今までにいなかった妖使いだ。クラスは?」


「現在調査中だ。だが、少なくともAAAはいくだろう」


 AAA……ってことは、私よりクラスが上ってことか。

 しかも、少なくとも?

 超危険でないですか?


「あの、AAAとか、クラスってなんですか?」


 今まで食べるのに夢中。じゃなくて沈黙を守っていた黛隊員が質問する。一応副隊長から聞いてはいるはずだけど、まぁ支部長からの方がより詳しいか。


「そういえば説明していなかったな。グレネーダー本部から通達される妖の危険度のことだ。クラスSがもっとも強力で特別災害指定されている。それでラ……」


 言いかけて小金川隊長の視線に気付く。


「ガシャドクロの事件は知っているな。一人の妖使いの欲望で、死傷者800人を越えたというあの大阪城の惨劇だ。そのガシャドクロのような超強力な力を持った妖使いだな。並みの妖使いでも集団でかからないと倒せん。分かりやすく言うと一人で第二次世界大戦中のアメリカ軍全兵力に匹敵する。原爆抜きでな。そんな感じだ」


 分かるような分からんような。


「その下がAAA、AA、A。後はアルファベット順に並んでいて最弱はクラスEの妖使いだな。この辺りはほぼ人畜無害だ。まぁつまりだ。今回のターゲットは最強クラスというわけだな。手を抜けば死ぬ。遭遇したら全力を持って倒せ。そりゃあ発砲の許可も本部からでるっつうわけだ」


「でも、そんな強力な妖使いなら他支部や他課からの応援も当然ありますよね」


 眼鏡に手をやりながら小林隊員が質問。

 確かにそうだ。そんなに危険なら他支部から……だけど……


「ない。我々だけだ」


「そんなっ。軍隊相手に一人で勝つ奴を僕たちだけで倒せるはずないでしょうッ!?」


「いいか。これは命令だ。鵺は遭遇次第我々だけで倒す。逃げることも逃がすことも、まして負けることも許されん」


「なんでですか、それは?」


「理不尽だがこれが組織だ。我々はただ命令をこなせばいい。そしてその命令は我々のみで鵺を抹消すること。いいな」


 それは有無を言わさぬ鶴の一声。

 支部長の気迫に飲まれ、小林隊員は二の句が告げなくなる。


「さて、この鵺だが、野衾の護送中に護送係と戦闘になっている。で、結果は護送係員の妖使い全員が重症。野衾は騒ぎに紛れてそのまま逃走。鵺も逃走。我々の戦果はパァというわけだ」


 我々っていうか主に私の?


「私と小林君がパーティーを組む。小金川君は斑鳩君と、白瀧君は黛君とだ

。どちらを追うかは各自決めてくれ。ちなみに私たちは鵺を追う」


 自分の首かかってるのにそっち優先?

 というか、そういえば一回一回別の人と研修だっけ。

 私としては副隊長とずっと二人きりの方がよかったんですが。


 やっぱ運の無さがなせる業か?

 告白するにもきっかけが無いしねぇ。

 ああ、昨日のうちに進展させておけば……


「では時間も少ないし、早速行くぞ小林君」


「はぁ……あまり気乗りはしませんが、行きます」


 揃って出て行く二人。三嘉凪支部長の目が爛々と輝いていたのは気のせいだろう。


「黛、どちらがいい?」


「お任せします」


「ふむ、では道中で考えるか」


 という会話と共に副隊長と黛隊員がでて行った。

 で、またも最後まで残った私。


「さってと、俺らも行くか」


「どうするんですか?」


「どっちかって? まぁ、俺としちゃどちらでもいいんだけどな。犯人の顔が分からないよりは……犯罪心理その一。捕まった犯人が思うことは?」


「はい? いきなりなんですか?」


「お勉強さ。だから答えてくれ。捕まった犯人が思うことは?」


「ええと……」


 犯罪者でもないのに分からないし。


「質問を変えよう」


 難しそうに頭を捻る私を見て、小金川隊長がさらに質問する。


「君が突然訳もなく殴られたとしよう。なにを思う?」


「なにって? まぁ相手を殴り返そう。ですかね」


「だろうな。ではそれを踏まえて三度質問だ。捕まった犯人が逃走できた。彼はなにを思うだろうか?」


 いや、だからなにをって……待って。今までの質問を踏まえると、小金川隊長の言いたいことは……


「野衾が報復にやってくると言いたいんですか?」


「半分当りだ。五十点。では聞こう。ボクシングチャンピオンと赤ん坊、戦うならどっち……って極端すぎて簡単だな」


「赤ちゃんですね。当然。簡単に勝てる方に行きますよ誰だっ……もしかしてっ」


「そうだ。もしかするともしかするかもしれない」


 そう言ってニヤリと笑う小金川隊長。

 つまり、彼が言いたかったのは、野衾が報復に来るということ。

 それも自分よりも力の弱いだろう人物に。

 あの場にいたもっとも弱そうな人物。出雲美果。


「美果ちゃんが危ない!?」


「こちらを優先。でいいな? 正直支部長の首を繋げるのは気が進まんが仕方なかろう」


 小金川隊長も支部長のイジメに嫌気さしてたんですね。

 今露骨に本音がでてました。

 意気揚々と作戦会議室をでる小金川隊長の後を追う。そして、今日もドアに挟まれる私だった。

 名前:  小金川こがねかわ 僧栄そうえい

 特性:  ■■■信仰者

 妖名:  天狗

 【欲】: 全裸で外を走る

 能力:  【天狗礫】

       礫を飛ばすことができる。

      【天狗の軟膏】

       欠損すらも回復させる軟膏を作れる。

      【風感知】

       風の臭いを感知することで特定の人物を探すことが可能。

       範囲は一都市分。

      【天狗団扇】

       風を熾す楓型の団扇を生成、建物すら倒壊させられる。

      【飛行】

       翼を生成できる。

      【神通力】

       特殊な能力が扱える。

      【自尊心強化】

       自画自賛すると鼻が伸びて徐々に顔が赤くなる。

      【走力強化】

       野山を自由に駆けまわれる程度の脚力になる。

      【同族感知】

       妖使い同士を認識する感覚器。

       個人によって範囲は異なる。

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