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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二節 人魂
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扉の前でお約束

「ああああああああああああああああああああああああああああッ!?」


 次の日、私は目覚まし時計くんを見て絶叫していた。

 ただいまの時刻、9時20分。

 遅刻だ。

 大遅刻だ。


 八時半までに出勤のグレネーダーにあるまじき行為。

 ってかそんなに目覚まし時計が鳴り響いていたのに気付かない私って!?

 二日連続遅刻ってヤバイよね?

 しかも初めての職場で。


 パジャマを乱雑に脱ぎ捨てて洗面台に向かう。

 寝癖は……オッケイ。

 内跳ね型の強力癖ッ毛セミロングの髪は括る必要もなければ櫛で揃える必要もない。

 すでに個性豊かな髪型に変形している。

 だから乱暴に顔を洗って、タオルで拭いて、朝の調整終わり。

 私服に着替えてバッグを片手にさぁ、しゅっぱ~つ!


「折鹿、行ってきま~すッ」


 昨日通った道を今日もダッシュで直進する。

 もちろん身体能力が強化された肉体だ。

 ただの走ってる女の人と思うなかれ。

 今、私の横を車が併走してる。


 いや、別に競争してるわけじゃないんですけど、だいたい今の時速は60km毎秒くらい。

 普通の人間の加速限界が50kmだから肉体無視で全力出したって今の私にゃ敵わないのだ。


 そうして車が信号で止まる。

 赤信号だけど、私は止まっちゃいられない。

 公務員がなんだってんだ!

 華麗なフットワーク(自称)で横断歩道を渡ろうと動き出した人の波を抜けていく。


「あ、昨日のお姉ちゃん」


 流れる視界の中で、不意に聞こえた知ってる声。

 目線を向けると、お兄さんだろうか?

 中学生くらいの男の子と一緒にいる少女。出雲美果。

 楽しそうに手を振ってくれていた。

 私は笑顔で手を振りながら、人の波に消えてい……


「お姉ちゃん、前ッ!」


「え? ぶらぁッ!?」


 ドンッとなにかと正面衝突。

 私は押し返されることなくそれと共に前のめり。

 私の進行方向に倒れ始める信号機。


「お、お姉ちゃ~んッ」


 慌てた美果ちゃんが私の元に駆け寄ってくる。

 連れの男の子も一緒だ。

 金髪の男の子はなぜか頬に絆創膏を付けている。一生消えない傷でも受けてるのだろうか?


「お、おい、あんた大丈夫か?」


 幸いにも、信号機に押しつぶされたものはなく、ちょっと車の進行に邪魔になる程度。

 私は苦笑いを浮かべて体を起こし、美果ちゃんに向き直る。


「だいじょぶ、だいじょぶ。入鹿は強い子ですから」


「お姉ちゃんっ、頭から血がでてるんだけど……」


「ぬあッ!?」


 バッグからハンカチを取りだして傷口を押さえつつ、空いた手で折れ曲がった信号機をむんずと掴む。


「つぇいッ!」


 ぐいっと起こすと、バギンッと音を立てて信号機が支え棒ごと取れた。

 …………

 私は邪魔にならないように近くのビルとビルの合間に立てかけて、美果ちゃんたちに改めて向き直る。


「いや、はは。恥ずかしいとこ見られちゃったね」


「いえ、その……朝から大変ですね」


 引きつった作り笑いで小学生に同情される。

 しばらく落ち込みそうだ。


「でも、今日は遅いね。グレネーダーのお仕事大丈夫?」


「……あ」


 いかん、忘れてた。


「んじゃ、美果ちゃん。入鹿は急いでいるのです。ばいならぁ~」


 私の言葉に目をパチクリさせてる二人に背を向け、全力疾走再開。


「ば、ばい? ……あ、お姉ちゃん、さよなら~」


 背中で美果ちゃんの声を聞きながら、グレネーダー国原支部へと直進するのだった。




 グレネーダー国原支部の玄関口で、カードリーダーに私のカードを通す。

 昨日美果ちゃんに返してもらったので、今日は無くさないようにバッグに入れておいた。ちゃんと入っててよかったよ。


 シュッと音を立ててカードがリーダーを通り抜け……

 ……

 …………

 ………………?


 あれ? ドアが開かない。

 もう一度。

 …………

 ドアは沈黙を保ったままだ。


 なして? ……おかしいなぁ?

 しばらく腕組みをして考える。そこで……


「……あ」


 思いだした。

 私のカードで誰かがここに入ってこれないように設定しておくと副隊長が言っていたような気がする。


 なに? 間に合ってても結局は入れなかったとか?

 いや、っていうか昨日のうちに見つかったんだから設定し直していてくれても。


「誰かいませんか~」


 もう、みんなそろって中で待ってるんだろうなぁ。


「誰でもいいから開けてくださ~い」


 ドアを叩きながら誰かが気づいて開けてくれるのを待つ。

 望み薄なのは分かってるのよ。

 でもやっぱりこうするしか手はないわけで。


「誰か気づいて~ッ。副隊長――――っ」


 ああ、もう、泣けてきた。

 結局、中に入れたのは、お昼過ぎた辺りで体育座りをして一時間ほどが経った後。

 黛隊員が食料補充の買出しに出てきたときのことだった。くすん。

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