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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第一節 野衾
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変質者は空を飛ぶ

 着ている服を見る。灰色じみた警察官っぽい制服。

 可愛らしさや美しさなんてのはこの際追求してはいけないようだ。

 婦警さんっぽいようでそれっぽくない制服は、特徴として帽子が付いていなかった。


 つまり制服とズボンだけ。警棒すらなかった。

 任務内容が抹消を主にしているためか手錠も付いてない。

 捕獲のときはどうすればいいのだろう?


 着替えて部屋に戻って、何時間経ったんだろうか?

 既に日は落ち、夕闇が空を覆い隠す頃のこと、不意に副隊長が日記を閉じて目を開いた。


「行くぞ」


 短く言葉を吐いて席を立つ。

 副隊長を眺めながら惚けていた私も慌てて後を追った。


「ふ、副隊長、待ってくださいよ~」


 ドアのとこで副隊長に追いつく。副隊長がでたドアを潜ろうとして、

 ウイィィィン……ガゴッ


「はぅあッ!?」


 閉じてきたドアに身体を挟む。


「なにをやっているんだお前は」


 半ば予想していたのだろう。

 私の危機に気付いた副隊長が溜息を吐いて助けてくれた。


「あ、ありがとうございます副隊長」


「なぜ二度も同じようにドアに身体を挟む?」


「さ、さぁ? 妖能力に目覚めてからよくなにもない道で蹴躓いたり、自動

ドアに挟まったりするんです。自分でも気をつけてるつもりなんですけどね

、たはは……」


 頭をかきながら笑ってみせる。


「仕事中にヘマしてもらっては困るのだがな」


「気をつけます……」


 頭を垂れて、謝る。

 でも、既に副隊長は廊下を走りぬけ、外にでようとしているところだった。慌てて後を追う。

 しばらく夜道を副隊長に続きながら走る。


「あのッ」


「どうした?」


「どうして走ってるんですかッ」


 走っているのでどうしても息が荒くなる。

 前を走る副隊長に聞こえるように大きな声をだすもんだから、さらに息が続きにくくなる。


 にしても大したもんだ。

 力を抜いてるとはいえ、妖能力で強化された私の身体能力に付いてこられるなんて。


 釣瓶火っていえばどっからともなく垂れた糸に吊るされた炎。

 別段身体能力が高まる妖ではないはずだ。

 つまり、副隊長自身が身体能力が高いことを示唆していた。


 いや、でもそんなに強いってことはやっぱり私が惚れただけはあるってことで、見る目あるね私。

 やはりいい心臓を持ってるよ。


「なに、お前の力がどの程度か実際に体験させてもらっているだけだ。パートナーがどれほど使えるか分からなければ作戦も立てられんのでな」


 なるほど。そういうことならッ!

 いいとこ見せて私に釘付けっ……になってくれるといいなぁ。


「分かりました、全力疾走しますねッ」


「なに?」


 訝しげな顔で私を振り向こうとする副隊長を一瞬で追い越していく。

 そのまま風のようにぴゅ~って……


「おい、行きすぎだ、このたわけッ!」


「な、え? は? にぎゃばッ!?」


 副隊長の声が聞こえた瞬間、私は振り向き『な』、副隊長の言葉を理解して『え?』、急に足を止めようとしてもつれたことに『は?』、んでもって盛大にスライディングヘッドをぶちかますことに『にぎゃ』、倒れた先にいた女の子を巻き添えにして『ばッ』、そのまま女の子ともども地面に倒れる。


「おい、生きてるか?」


 副隊長の声に顔を上げる。


「な、なんとか。入鹿は強い子ですから」


「違う、お前ではなく一般人だ」


 副隊長は、私の心配はしてくれてなかった。

 私は心の中で泣きながら立ち上がる。女の子は……


「うにゅ~……」


 謎の言葉を吐きながら気絶していた。

 ……あれ? この子確か、今朝会った子だ。


「お~い、生きてますか~?」


 女の子の肩を揺すってみる。


「うきゅ~……」


 私は副隊長に顔だけ向けて、


「返事が返ってくるので生きてます」


「阿呆か」


 呆れながら副隊長が女の子の背後に回る。

 阿呆って言われた。超ショック。

 副隊長は両手で女の子の肩を掴み、背中に膝を当て、


「發ッ」


 押した瞬間、女の子がビクリと跳ねた。


「うきゅあッ!? なになになに?」


 あたりを見回す少女。

 どうやら次第に自分を襲った悲劇が頭の中で再現されたらしい。


「ああ、朝のお姉ちゃんッ! さっきわたしにぶつかってきたでしょ!」


「あ、はは、ごめんね、入鹿は急には止まれないのだよ」


 苦笑いと共にぺこりとお辞儀。


「車と一緒!? もう、ほんとに痛かったんだからッ!」


 利発そうな子だった。

 私はやったことないけど、右と左にポニーテール作る奴、ポニ二つだからダブルテール? それともツイン? まぁいいや。あれのドリルバージョンは未だ健在だ。


「ごめんね。ほんと、入鹿の不注意で」


 丁寧に頭を下げて平謝り。


「う~。もう、いいけどね」


 まだ恨みがましく私を睨んでいた女の子だけれど、不意に顔を歪めて笑みを作る。


「グレネーダーって書いてあったから恐い人かと思ったけど。お姉ちゃんいい人そうだし許しちゃう」


「え? あ、ありがとう」


 いいのかそれで……って、書いてあった?


「うん。あ、そうだ、これ」


 と、ポケットから取りだされたのは黒塗りの警察手帳。

 あれ? 見覚えのある手帳のような……これ、もしかして。


「あああッ、入鹿の手帳じゃないですかッ!?」


 思わぬ再開に感涙の涙を流して膝を付く。

 手帳を両手で抱え上げ、私は運命の再会を喜んだ。


「ああああ~、会いたかったよ手帳さ~ん」


「お、お姉ちゃん?」


「……」


 二人が呆れているけど気にしない。

 今の私は長年待っていた春がようやく来てくれた開放感に満たされているのだ。

 一頻り感動して、一応中身を確認。胸ポケットに仕舞いこむ。


「ありがとうね。ええと……名前わかんないけど、必ずお礼するから」


「お礼なんていいよ。わたしは出雲美果って言うの、よろしくねお姉ちゃん」


「美果ちゃんね。斑鳩入鹿だよ、よろしく~」


 と、自己紹介をしていると、ゴホンと誰かが咳をした。

 見ると、副隊長……あっ。


「任務中……なのだがな」


「す、すいません副隊長っ」


 一瞬にして平謝り、嬉しさなんて即座に申し訳なさに押し潰される。

 なんか全然良いとこ無しだよ私。

 インパクトは残るだろうけどマイナスにしかならなそう。


「とにかくだ。この辺りが私たちの見張るポイントになる。周りの地形を覚えておけ。できれば一見で周りの特徴が私に説明できるくらいになるのがベストだ」


 無理です、それは確実に。

 言われたとおりに周りを見渡す。

 今私の左側に居酒屋がある。暖簾に【来やり】と書かれてある居酒屋だ。

 それから、右は高い壁と電信柱が等間隔に。

 後ろと前は道だね。見渡す限り。


「お仕事してるの? 邪魔しちゃ悪いし、わたしそろそろ帰るね」


 美果ちゃんがそう言って歩きだそうとしたまさにその時、不意に聞こえてきた下卑た歌声。


「ぞぉ~さん……」


 な、なに? この聞いてるだけで鳥肌立ってくるような嫌~な声は?


「斑鳩、奴だ。近くにいるぞ」


 奴!? ってことは野衾!


「ぞ~ぉさん……」


 前後の道を見る。いない? 塀の上? 違う。居酒屋の中か? そんな場所からじゃない。この声はもっと別の場所から。


「お~鼻が長いのね~」


 ……上!?


「はぅあッ!?」


 顔を上げた瞬間、石化した。

 被害者はなんて言っていたか。そう、空飛ぶ……

 私の目の前に、空中に決して見てはいけない物体がっ。


「そ~よ~かあさんも~」


 舞っていた。

 手と足を繋ぐ皮膚で出来た羽を広げた全裸の中年親父が……舞っていた。


 ブチッ


 理性が音を立てて弾け散った。

 あれは……敵だ。

 女の敵だ。

 いや、むしろ消すべき存在だ。


「あああああああああああああああああああああああああああッ!?」


 トチ狂ったままに妖の力を発動する。

 私の妖、茶吉尼天。ダーキニー。別名、空の遊歩者。

 大地を蹴り上げ、そのまま、空中の男に向かって走る。


「クタバレやッ! こんのクソジジィッ!」


 罵声を吐きながら空を駆け上がってきた私に、男は慌てて逃げだした。

 さすがはムササビと言うだけあるのか、速度がある。

 対して、私は空を自由に動けるといっても走るのが限界。

 普通なら追いつけない。

 でも、常人なら自転車相手でも勝てないだろうけど、私は茶吉尼天。体の身体能力は強化されている。だから……


 ガシッ


 必死に伸ばした手が、凧の一部を掴むことに成功する。

 そのまま力いっぱい振り上げ、地面に向かって叩きつける。

 遠慮はしない。レディに粗末なもん見せた報いはこの程度でも足りないくらいだ。


 地面に激突した野衾に手帳を見ながら副隊長が駆け寄る。

 なんとか起き上がって逃げようとする野衾に鋭い蹴りを叩き込み、沈黙させた。


「良くやった斑鳩。と言ってお……こう? おい?」


 地上に降りてきた私は、副隊長を無視して野衾の頭を掴みあげる。

 そのまま反対の手で顔を叩く。

 返しで叩く。

 叩く叩く叩く叩く。


 その間副隊長はどうしていいのかおろおろとしていた。

 副隊長、自分が考えうる以上の想定外が起こると子供みたいに右往左往するようだ。ちょっと可愛い。

 でも、それが気にならないくらい……叩く叩く叩く叩く叩く叩く(中略)叩く叩くッ!


 ぜぇぜぇと息を吐きながら、気のすんだ私はすでに原型がない顔の野衾をその場にポイと叩き捨てた。

 そのまま肩を怒らせ、私と共に被害にあってしまった美果ちゃんの元へ、放心した美果ちゃんを抱きしめ、二人して泣きだした。


「恐かったよ~ッ」


 副隊長の呆れた溜息が風に流されていった。

名前:  井上いのうえ 勇気ゆうき

 特性:  露出狂

 妖名:  野衾

 【欲】: 相手を驚かす

      (相手は人間のみ)

 能力:  【軟体化】

       相手に巻きつくことが出来る。

       このため、身体がゴムのように柔らかくなる。

      【飛行能力】

       手と足を繋ぐ皮膜が生成される。

      【トリガーハッピー】

       相手の眼に巻きつくことで混乱させる。

       (昔の人が野衾に巻きつかれ銃を乱射したことから)

      【同族感知】

       妖使い同士を認識する感覚器。

       個人のよって範囲は異なる。

      【認識妨害】

       相手の同族感知に感知されない。

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