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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第一節 野衾
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副指揮官・白瀧柳宮

 初めてグレネーダーが設立されたのは五年程前のこと。

 とある事件がきっかけだった。

 当時八歳の妖使いの女の子によって起こされた大阪城の惨劇は、今でもテレビで特番が組まれていたりする。


 大阪城に家族旅行でやってきたその少女は、姉と共に迷子になり、数人の不良に絡まれた。

 そのとき姉を守ろうとして、彼女は覚醒してしまったのだ。


 きっかけといえば私と同じ、誰かを守ろうとして不思議な力が内から込み上げてきて、それで終わり。

 後はもう、人ではなく妖使いとしての一生を送ることを余儀なくされる。


 で、少女に宿った妖能力……【ガシャドクロ】。

 人の恨みから生まれたとされるそれは、結局、人を殺すことしかできない妖。

 不良連中は瞬殺され、やがて警官がやってきて、新人警官が発砲。

 そこで死傷者800人以上もの惨劇が幕を開けた。


 妖使いは彼女一人。

 それだけで、その場の警官、自衛隊、SATはほぼ全滅。

 その後、なにかがあったようで、少女はあっけなく自首。裁判になる。


 でも、少女は八歳。未成年だった。

 よって死罪は避けられ、でも、警察側の要請や、政治家たち、各国首領まで巻き込んだ会議の結果、少女は地下数千メートルのコンクリートで囲まれた独房に監禁された。


 それはつまり、無期懲役。

 聞こえは死罪よりいいが、彼女は一生を空気穴兼食事が落ちてくる穴以外なにもない部屋で過ごすことになったのだ。私だったら発狂するね。


 ま、そんなわけで、今までただの【超能力者みたいな人間】という位置にいた妖使いたちはメディア報道などに熱烈に付け回され、【危険な化け物】という認識にされてしまった。


 でも、彼らを取り締まるには警察では手に余る。特殊な機関を作るにも、対等の人間なんて、やっぱり同じ妖使いしかいなかった。

 そこで設立されたのがグレネーダー。


 同族である危険な妖使いを倒すためにグレネーダーになる。

 グレネーダーになった妖使いは国から生存を認められるという保障があり、また、入隊時に自分の望みを一つだけ叶えてくれるというオマケつき。

 ま、さすがに相手も人間ですから、死人を生き返せぇ~とか、人類皆殺しぃ~とかの願いは却下だけどね。

 だから、グレネーダーは妖使いにとって憧れであり、恐怖となった。


 さてさて、グレネーダーっていうのは一応警察機関の一部だ。

 まぁ、半ば独立はしているものの、支部は警察署の後ろに急遽備え付けられ、なんでかは知んないけど丸い形をしていた。


 しかも警察署よりでっかいし……だから、全体的な形状はだいたい前方後円墳みたいな形になってしまう。

 いや、むしろ鍵型?


 警察署とは反対側に入り口があるので、そちらに回った私。

 ドアの横に付いているカードーリーダーを見た。

 これに警察手帳の中の免許証をスキャンすれば、ようやく憧れのグレネーダー内部へと入れるのだ!


 期待に胸を膨らませ、胸ポケットの……胸……ポケットの……中身がない?

 あ、あれ? 手帳がない?

 た、確かここに入れたはずなのに? あれ? あれ?


「なにをしているんだお前は……」


 私が全身のポケットに手を突っ込んでいると、後ろから呆れた声がかかった。振り向いたその瞬間。


 ごきゅん!


 それは雷にでも打たれた感覚。

 年頃の女の子なら一度は感じたことのあるものではあるまいか?

 赤い実が弾けたとか胸が高鳴るとか、胃が唸りを上げるとか。


 容姿は長い黒髪に黒いコートに黒皮手袋、黒いズボンに黒い革靴に……全身黒だ。

 ちょっと感性的にどうだろって思……ええい、それがどうした!


 ポケットに手を突っ込んだその人は、表現に乏しい表情で私を見ていた。

 むっとしたような顔なのは、元からというよりは眠さを我慢しているように見える。


 一目見た瞬間に、思ってしまった。

 私はこの人の……この人の心臓が食べたい。

(生唾飲んでごきゅんッ)


 ……あれ? なにか間違ってる気がしないでもないけど、まぁいいや。

 とにかく、一目見て気に入った。

 パッと見は知的な雰囲気のリーダー感漂う人。いかにも歴戦って感じで頼れそうだ。


「え、ええええええええええええええええええ、っと、ななななな中、中に入りたいんですけど……そ、その、手帳落としちゃって」


 顔は赤らみ心臓は跳ね回り、声は上ずる。

 それでもなんとかパントマイムを交えて言ったとたんに、彼の表情に変化が起こった。


 それは目の前を歩いていた人が開いていたマンホールに落ちて目の前から唐突に消えてしまった時のような表情。

 目の前で起こったことが信じられないといった顔だ。


「冗談……にしては笑えんが」


「あ、あの、冗談ではなくて……」


「ふむ。見たところ新規採用の者だな。資料は昨日見せてもらった。名前は言えるか?」


「斑鳩入鹿です」


 男の人は懐から手帳を取りだし、ぱらぱらと捲る。しばらくして、


「うむ。まぁ徽章も持ってはいるし、今日の天啓はこれだったか……良かろう」


 と、自分の免許証をリーダーに通して、私に入るように促す。

 天啓ってなんだろう?


「一応、お前のIDでは入れないように設定しておく。あのカードはそれ以外に使い道はないからな。もし見つかったなら私に言うといい。一応遺失物として上には報告しておくぞ。始末書は覚悟しろ」


「なにからなにまでありがとうございます。ええと……隊長さん?」


「副指揮官の白瀧柳宮だ。それに隊長という役職はないぞ?」


 簡潔明瞭に訂正された。落ち着いた雰囲気がリーダーっぽかったのに。


「ふくしきかんのしらたき……?」


 やば……声の渋さに意識行ってて名前覚え切れなかった。


「あ、あの、副隊長って呼んでいいですか」


「なぜ指揮官ではなく隊長なのか分からんが、呼びたければ適当に呼んでくれ」


 そっけないと思いつつも、副隊長と呼べることの感慨に浸る。

 やっぱし正義の軍隊としては隊長、副隊長よね。

 指揮官と言うよりもいいやすいし。

 この人の名前は後で自己紹介あるだろうし、確実にメモっとこう。


「で、ではでは副隊長、どこに行くんですか?」


「作戦会議室だ。今日は寝坊してしまってな、急がねば支部長や指揮官に怒鳴られる」


 副隊長も寝坊したんだ。

 どうしよう、余計親近感沸いちゃったし。

 あ~、いつかこの人とデートとかしたいな。

 そんで高まった鼓動に近づいて心臓をかぷり。きゃぁ~~~~♪


 シュッと副隊長の手前でドアが開いた。

 いつの間にか作戦会議室とやらについていたらしい。

 副隊長が入っていくので、私も後をついて……


 ウィィィィン……ガコッ


「はぅあッ!?」


 突如、ドアが凶器と化した。

 副隊長が入ったので、自動で閉まろうとしていたドアに私はおもきし挟まった。

 な、なぜ……私に反応してくれない?


 隊員たちの慌てた声に気付いた副隊長が私を助けてくれるまで、大した時間はかからなかったと思う。

 それでも、身体に痛みだけはしっかりと残ってくれた。

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