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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第六節 思兼
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間幕・焼肉愛歌

「やっきにっくやっきにっくにくをやけ~」


「やっきにっくやっきやっきやさいやけ~」


 にぎわう焼肉屋の店内で、私と真奈香の楽しい歌声が響き渡る。


「止めろよなぁ……その訳わかんねぇ歌」


 仏頂面で真奈香の向かいに座る翼。

 ぶつくさ言いながらもしっかり大きな肉をキープしている。


「え~焼肉愛歌は焼肉の時の定番テーマソングだよ~」


「マッチョな滋賀焼き肉店オーナーさんが渋い声で歌ってるんだよぉ」


「んな定番はねぇ。ぜってぇねぇ」


「翼おっくれってるぅ~、ボクたち若者世代じゃあ常識ですよこれは」


「アホか。んな歌歌ってんのはテメェらだけじゃねぇか、言ってやってくださいよ師匠」


 呆れながらも焼けた肉を自分の領地に持っていく翼。横に居る隊長に同意を求める。


「ん? 有伽も真奈香も歌が上手いな」


 話にならない。と翼は、私と隊長の真ん中、上座に座る常塚さんに助けを求める。


「やっきにっくやっき……なに? 志倉君」


 翼は力尽きた。


「みんなおかしい。おかしいッスよ……」


 うつ伏せながら器用に食べてるし。あんたも十分おかしいよ。


「やっきにっくやっきにっくいえをやけ~」


「家焼いちゃダメですよぉ、常塚さん~」


「あら? そんな歌詞じゃなかったかしら?」


 今日はグレネーダーの新人歓迎会。

 まだ正式に入隊は決まってないけれど、どうせ確定しているからと連れて来て貰ったのである。


 顔馴染みだけで焼肉パーティーって事になったんだけど、まぁ、あれだ。

 私が怪我させたってことで常塚さんも参加している。

 謝って済むとは思わないけど、常塚さんも隊長の頼みとはいえ真奈香を傷付けたということで、両成敗。

 この焼肉パーティーで仲直りしろとの隊長から慈悲深いお達しだ。


「でも、有伽ちゃん、落下したって聞いたけど大丈夫だったの? あ、店員さんすいませ~ん、ハツ追加で~」


「大丈夫もなにも……」


「アホだからなぁ高梨は」


 私が言葉に詰まっていると、翼が笑いながら横槍を入れる。


「裏のほうに勢いよく飛んでってそのまま山ん中ズドン。銀杏潰しまくってくせぇのなんの」


「言わないでぇ、思いだしたくないぃ~」


「あらら、校庭じゃなくて裏山に飛んじゃったんだ。有伽ちゃんったら可愛い~。あ、店員さ~ん、ハツさらに追加で~」


「そのおかげで今こうしてここに居るのだ。銀杏に感謝しろ有伽」


 ひたすら野菜を食べている隊長。間違いなく健康マニアだ。

 ちなみに山で朦朧とした意識の中、翼が駆け寄る横で、隊長が銀杏を拾いまくってたのを記憶している。


「とにかく、合格決まってから常塚さんに手をだして合格不意にしたのは禿げ試験官のカツラをネタに手に入ったし、一件落着ってとこですか」


「一件落着って……そんなことしたんだ有伽ちゃん」


「必要悪だな。実技試験が満点でなければ落ちていたところだ」


「仕方ないじゃないですか。筆記なんて全く勉強してないですし。ヤマカン

で五十点は奇跡だよ」


「運も実力の内。それにしても助かってよかったわ。高梨さんと二人だけで心中なんてごめんだったもの」


 笑ってるけど怒ってるのが丸分かり、常塚さん恐いです。

 かなり恐いので苦笑いで返しておく。


「とにかく、陰口がいなくなったおかげで高梨さんの無実も晴れたし、警視庁にある上層部による一週間の危険度審査期間も終わったわ」


「い、何時の間に危険度調査なんて……」


「さぁ? そこまでは私も知らされていないけど、多分家に隠しカメラでもつけたんじゃない? 高梨さんには家庭に負けず強く生きるようにって言うよう伝言頼まれたから」


 家庭に負けるなって、上層部の危険度調査に負けそうだよ私は……


「結果は二人ともグレネーダーへの入隊が許可されたわ。おめでとう、高梨さん。上下さん」


 常塚さんの言葉に、隊長と翼が続いておめでとうといってくれる。

 ハツを頼んでいた真奈香と私は、「よろしくお願いします」と、照れ笑いで返した。


 グレネーダーの人たちはとっても恐い。

 命令に忠実で、自分たちの親しい人ですら抹消してしまう。

 でも、中で働く人たちは、やっぱり人間だ。


 話し合えるし笑い合える。

 悲しむことも、涙することも忘れていない。暖かい人たちだ。

 グレネーダーに入った以上、私もこれから抹消を手伝うことになったりいろいろと大変だろう。

 でも、真奈香や隊長や翼が一緒に居てくれるから。

 私はこれからも生きてゆける。

 限りある小さな命で、人生を……

 無慈悲で残酷、でも暖かい、この世界を……

 ここがきっと、私の在処ありかだから――――

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