エピローグ
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気がつくと、私はベットの上にいた。
体中が痛い。
すでに塞がっているものの、刺された三つの傷の感触はまだあった。
ああ、そうだ。あのとき有伽ちゃんに意識を向けていて――
有伽ちゃんっ。
自分が生きているのは試験に合格しているということだ。なら、有伽ちゃんだって――
ふいに、ドアが開き、翼と呼ばれていた少年が入ってくる。私を見るなり慌ててでて行った。
そこでようやく服を着ていないことに気づく。
慌てて着替えて、ドアの向こうに呼びかける。
有伽ちゃんがここにいなくてよかった。
こほんと咳払いを一つして、入ってきた翼君は私に言った。
「とりあえず、グレネーダー仮入隊おめでとう。といっておくぜ上下」
やっぱり、私は試験には合格していた。
あとは上層部という所からの許可を待つだけ。
試験結果は上司からもたらされるらしい。
「じゃぁ、二人一緒に仮合格なんだね」
よかった。また一緒に居られるんだ。
でも、翼君は言いにくそうに顔をしかめたまま、何も答えない。
「あ、あの、有伽ちゃんは……」
「あいつは不合格だ」
躊躇うように、でも、翼君は答えた。
「なんで? 不合格ってっ」
「あのバカ、合格だってのに支部長抱えて屋上から飛び降りやがった。幸い支部長は無事だったからよかったけどよ」
……何を言ってるの?
私は信じられなかった。信じたくなかった。
有伽ちゃんがそんなことをするなんて到底信じられなかったから。
それになんでそんなことを?
そう思った瞬間、気づいた。私のせいだ。
私が有伽ちゃんを見ていて刃を受け取ることができずに当たってしまったから。
そんなことで怒ってくれるなんて思わなかった。
でも、怒り方が間違ってるよ。
私はベットを飛び降りた。ズキリと体が痛んだけど気にしない。
「お、おい、どこいくんだよ!?」
有伽ちゃんは死んでないっ!
有伽ちゃんが死ぬはずないっ!
きっとどっかのベットで寝てるはずっ!
翼君の制止を振り切り部屋をでると、通路が左右に広がっていた。
私のでてきたドアの左右にも似たようなドアがいくつも広がっている。
順々に空けていく。
ブリーフィングルーム、男子更衣室、情報管理室。
いない。いない。有伽ちゃんがいない。
最後のドアを開けるとき、男女の声が聞こえた。
人が居るんだ。それならきっとここに隊長さんと……
「有伽ちゃんッ!」
自動式の扉が開くと同時に部屋に駆け込む。
急な私の登場に、二人して振り向くその人物たちは、ベットに寝たままの常塚秋里と見知らぬメガネをかけた男の人だった。
「あら、もう傷は大丈夫なの?」
声を聴いた瞬間、体中の力が抜けた。
その場に力なく座り込む。
ここで部屋は終わり、この施設にはもう探すところはない……
ぽたり……涙がこぼれた。
一緒になろうって、言ったのに。
私にくれるって言ったのに。
嫌だ。有伽ちゃんのいない世界なんて――
こんな世界、居るだけ無駄だ。
死んで……しまおう。
神様のバカ、意地悪。人でなしッ!
罵声を浴びせながら死んでやる。
虚ろな眼差しで有伽ちゃんの名前を呟く。
涙が止まらない。
信じたくなかった。
なんで私なんかが生き残って、有伽ちゃんが……
…………でしょ、だから…………
何かが廊下から聞こえた。
聞き覚えのある、懐かしい声。
だんだんと近づいてくる。
ああ、ごめんなさい。
神様、あなたはやっぱりいい人です。
私は泣きながら立ち上がる。
心配そうに見つめる秋里さんたちを無視して駆けだした。
あの声は……あの、声はっ。
「阿呆が。だから通常試験は難しいといったろうが」
「通ったんだからいいじゃないですか。ほら、試験官のカツラ絡め取ったと
きの顔見ました? もう吹きだしそうでしたよボクは」
廊下を楽しそうに歩いてくる二人組。
一人は全身真っ黒で、とっても背の高い男の人。
もう一人は私よりは背の高い女の子。
肩にすらかからない短い髪を頭部の中心からちょっとずれた両側でまとめ、快活な笑顔で笑う私の大好きな……有伽ちゃん。
私は溢れる涙を拭って、大きく手を振り駆けだした。
ひとまず一章終了。つづきまして二章……の前に外伝挟みます。




