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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第六節 思兼
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抹消されないための戦い3

 一瞬、金山幸代の死に様が頭を掠めた。

 一瞬、のっぺらぼうの死に様が脳裏に浮かんだ。

 でも、それでもっ、私は許せない。


 許さないッ。許すもんかッ!

 この怒りは収まらない!

 こんな三文芝居、私が終わらせてやるッ。


 だから……


「あは」


 真奈香の不運に耐えるために、


 私が本当に壊れないために、


「あはは」


 辛い時は笑ってやれ。

 それが一歩を踏みだす力。


 初めの一歩を力強く踏みだす。太股から血がもれた。

 また一歩。痛みは歩みを止めるに至らない。


 真奈香は私にとって大切な人。

 恋人とかそう意味じゃない。

 私が生きるには真奈香が必要で、たぶん真奈香には私が必要不可欠な存在。

 どちらか一人が傷ついてしまったなら……それは私たち、二人の傷だ。


 もう、躊躇わない。

 そこまでして殺し合いがしたいなら……

 怒りが全ての感情を埋め尽くす。

 なのに冷静に客観的に私を見ている私も同時に存在していた。


 壊れそうで壊れない。

 ギリギリ怒りに飲み込まれることから退避した冷静な感情が、高ぶる私自身を冷ややかに見下していた。

 そうして今からやろうとしていることの無意味さを私自身に説いていた。

 それでも……


「あは……ははは……」


 俯いたまま、私は笑う。

 やがてゆっくり顔を上げ――


「あはははははははっ」


 私は笑いながら走りだす。

 常塚秋里に向かって。

 一直線に、躊躇わず。


 何者にも止めさせない。

 翼の驚いた顔も、隊長の焦った顔もしっかり見えてる。

 やめろ高梨ッって声も聞こえてる。

 冷静な自分も歯止めをかけようとする。

 慌てる秋里が刃を飛ばす。


「ははっ」


 私は真正面から受け入れる。

 トストストスッ


「あは、あはははははははははははははははははっ」


 ちょっと衝撃がきた。私の足は止まらない。

 高笑いとともに次第に速度が上がっていく。


「ま、待って高梨さ……」


 予想外の出来事に引きつった表情の秋里。

 たぶん彼女だってその気はなかった。

 茶吉尼の力なら、手の平は傷ついてもちゃんと受け止めてくれると確信していたから。


 でも、真奈香は私に意識を奪われた。

 真奈香が私を好きだったから、真奈香は自分より私を優先してしまった。

 だから――許せない。


 計算しすぎて真奈香の愛情を予想できなかった秋里を、何の力もなく真奈香に心配させてしまう私を。

 そんなに許せないのなら……私が二人まとめて抹消してやる。


 私は秋里に飛び掛る。

 がしりとホールド。そのまま隊長たちがいる屋上への入り口へ突き進む。


「あははははははははははははははッ」


「ちょ、ちょっと、高梨さん、勝負は着いたわっ。もういいのよっ。あ、あなたたちの勝ちで……」


 聞く耳なんて持ちはしない。


「あのバカ、キレやがってッ」


 翼が近づいてくるのが気配で分かる。

 遅い。もう私の射程圏に入った。


「高梨ッ! 足を止めろッ! それ以上はお前を消さなきゃならなくなるぞッ!」


 私は上を向いて舌を伸ばす。

 ありったけ。

 もっと。

 まだまだッ!


「ッ! 止めろ有伽ッ!」


 いち早く私のしようとしている事に気づいた隊長。

 私の後ろに迫るテケテケ。

 でも、私は止まらない。

 止まる気なんてさらさらない。

 止めろといって止まらなかったのは秋里なんだから。


 背後に手をかけるテケテケ。

 絡まる私の舌。

 ……どこにって?


 あはは。決まってるじゃん。

 秋里の後ろにあって頭上に存在するもの、貯水タンク。

 貯水タンクを支える鉄骨に絡ませた舌に力を入れて、私は秋里ごと宙に浮く。


「う、うそだろ、おい……」


 急に頭上へと持ち上がった私たちに、走るのを止めた翼が呟く。

 テケテケが私の後ろで振り向くのを待っている。


「高梨さん、止めましょう? 勝負はついてるのよっ」


「秋里さん言ったよね。私が死ぬか秋里さんを殺すか。二つに一つなんだって」


「ち、違……」


 泣きそうな秋里。

 今頃後悔したって遅いんだ。

 弱い鼠だって追い詰められれば猫をも噛む。

 私だって、垢舐めだって。

 友達を傷付けられたなら、心中してでも相手を倒す!


「今から、第三の選択肢を選んであげる。両方死ねば勝負はドロー。永遠に勝ちも負けもないよね?」


 舌に力を加え、自分の体を振りかぶる。

 舌を離してさようなら。

 勢い良く振りぬかれた私たちの体は、屋上のフェンスを飛び越え宙に舞う。


 手を離す。

 後ろにあった手も自然離れていった。

 自由落下に身を任せる。

 私は大声を上げて笑った。


 溢れる涙。目の中に映る淀んだ満天の星が綺麗だった。

 垢舐めの星座って見つかんないかなぁなんて考えながら、私の意識は遠のいていく。

 意識の途切れる瞬間、何かが潰れる音がした。

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