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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第六節 思兼
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抹消されないための戦い2

 常塚さんの放った爪が真奈香に迫る。

 真奈香は俯いたままそれを真正面に迎える。


「真奈香逃げてッ!」


 むなしくも私は真奈香へと走りだす。

 どうせ間に合わないって分かっていても、走らなきゃすまなかった。

 でも……真奈香に突き刺さる瞬間、刃が消える。


「今度は……何?」


 さすがに今度こそはと思っていた常塚さんは脱力する。

 滴る赤い液体。真奈香の血。確かに真奈香に刃は当たらなかったけど、真奈香は傷付いていた。掌を切って出血していた。


「なるほど、こちらは茶吉尼の力で高まった身体能力で刃を受け止めただけってところかしら」


「返すよ、これっ」


 ニヤリと笑みを浮かべ、真奈香が両手を振り上げた。

 常塚さんに向かって投げられた三つの刃。

 常塚さんが発射した時に比べて速度は桁違いに速い。

 爪の勢いに恨みが篭っているように見える。


 舌打ちをして転がる常塚さん。

 起き上がったところに死角から迫り来るジャッカル。タイミングはばっちりだ。

 真奈香ったら常塚さんの転がる方向計算でもしたのかな?


「その攻撃は既に知ってたわっ」


 起き上がり際に飛び上がって躱した常塚さんは、体を捻って着地地点をずらす。

 着地を予想して待っていたジャッカルの背後に着地し、私に向かって駆けだした。


 右手から発射される新たな刃。今度は私だって避ける。

 ここだっ!

 横に避けると同時に舌を伸ばす。

 発射したばかりの常塚さんの右手に絡ませ、高く掲げさせた。


「行ってぇ、狐さん」


 私の計画そのニ、武器破壊。

 ジャッカルが掲げられた右手に齧り付く。

 ぐいっと顔を捻って分厚い皮手袋を毟り取った。

 すぐさま舌を引っ込めてやると、常塚さんの下がった手の辺りから三本の刃がこぼれ落ちる。

 四セットも仕込んであったんだアレ。


「これで武器は足だけですねっ!」


 私の眼前へと走りこんできた常塚さんに強気に発言する。

 常塚さんの蹴り。もう喰らわない!

 私が避けた瞬間にジャッカルが左足に付けられた刃をもぎ取って行く。

 武器破壊完遂! これで私たちの勝利……


「ねぇ、高梨さん。奥の手というものは最後までださないって知ってるかしら?」


 私の目の前に迫った常塚さんが不気味に笑う。

 常塚さんの右手がめいっぱいに開かれ、私の頭を掴む。


「も、もう武器はないんじゃ……」


「あら、誰が右手左足にしか武器がないと言ったの?」


 ま、まさか……

 ジャキン

 左手の皮手袋に爪が出現する。

 しまった。右手と左足しか使ってこないから油断してた。


「観念なさい。高梨さん」


 目の前に向けられた鋭い切っ先。

 突きつけられた死への切符。

 こんなに近いとジャッカルが助けに来るより早く……殺られる!

 だけど、目の前にあるだけで一向に私を貫くことはない。

 まるで何かを待っているように……


「ね、ねぇ常塚さん……」


ゴクリと唾を飲み込んで、覚悟を決めて私は言った。


「なに? あの茶吉尼の上下さんだけは助けて。とでもいうのかしら?」


「奥の手ってのは最後までださない。それ正解。でもね、持ってるのが自分だけだと思ったら、大間違いだよッ!」


 勢い良く口から吐きだす白き刃。私の奥の手。

 目の前にあった皮手袋に勢い良く突き刺さる。


「っ!!?」


 なにが刺さったのか分からなかったろう。

 痛みで仰け反った常塚さんにすかさず体当たり。

 後ろに傾いていた常塚さんが私を支えるなんでできるわけない。

 倒れた常塚さんの左手を持ち上げる。


「真奈ちゃん、これッ!」


 私の呼び声に走るジャッカル。

 この武器さえ破壊すれば戦意剥奪。そして私たちの……


 ヅブリッ


 嫌な感触が……強烈な衝撃とともに太股に入る。


「いづッ!?」


 常塚さんの右足から放たれた蹴りが私の太股を蹴り上げた。

 痛みに呻いた一瞬の隙に遠くに投げ飛ばされる。

 寝た状態のままに転がって骨を抜き取り、真奈香に照準を合わせる常塚さん。


 真奈香の視線は蹴り飛ばされた私。

 まさか、計算づくで!?

 いや、もうそんなはずは……その必要も……


「やめてぇぇぇぇぇっっ!!」


 私の叫び。

 発射される刃。

 ようやくそれに気づいた真奈香。


 それは、私に刺さるトストスなんて音じゃなかった。

 一つ突き刺さるごとに肉に食い込む刃の音。仰け反る真奈香。噴きでる血飛沫。

 真奈香が……真奈香……が……


「あああああああああああっ」


 倒れる真奈香。

 計算違いとでも言いたそうな表情の常塚さん。

 倒れて行く真奈香が、嫌に、ゆっくりと見えた……


 多分、試験は合格だったんだ。

 常塚秋里を私が倒した。それで合格。

 ちゃんと彼女の言葉の通り、私は彼女を【倒した】んだから。


 それが分からず向かってくるジャッカルを止めるため、刃を真奈香に打ち込んだ。

 分かってる。

 真奈香は多分死んでないし、これで私たちが秋里にかなわないからってことで反乱を抑制するって狙いがあるんだろう。


 このあとあの医療施設に搬送されて、隊長の力で直してもらって、真奈香はきっと元通り。


 だから……、ナニ?


 勝敗が決した後で真奈香を傷付けたのは事実。

 言い訳も何もない。

 あるのは心が篭ってるかどうかすらわからない謝罪が一言。


 刃を受けたのが私だったなら別にかまわない。

 それはそれで受け入れる。

 でも……真奈香は私の友達なんだ。

 たった一人の親友なんだ。


 私を庇ってくれたのは真奈香。

 私を好きだといってくれたのも真奈香。

 私を必要としてくれたのも真奈香だけ。


 それを傷つけた。

 無慈悲に奪った。

 やめてって言ったのにッ!


 何が試験だ! こんなの一方的な傷害じゃないッ!

 こんなことで、なんで真奈香が傷を負わなきゃいけないのッ!

 真奈香と一緒にグレネーダーに入るって、裏切らないってこんなにも言ってるのにッ!


 痛みを忘れて立ち上がる。

 太股から血が吹き出た。

 ふらつく足を踏みしめ、上体を起こす。


 ただの試験だって思ってた。

 負けても笑って迎え入れてくれるって……なのにッ!

 いいよ、そっちがその気なら――

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