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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第五節 茶吉尼天
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それは試験か抹消か

「逃げなかったのね高梨さん。少し見直したわ」


 ドアを開いて現れた常塚さんは、開口一番に言って、周りを見回した。


「ずいぶんと狭いところを選んだわね」


 ここはすでに校庭じゃなかった。

 常塚さんの言うとおり、校庭に比べたら確かに狭い。

 でも、校庭よりかは障害物も多く、下もコンクリートなので、万一常塚さんが土に隠れたりする妖使いでも、隠れられることはない。


 いざとなればどこかに舌を絡ませてそのまま縁を飛んで空中に身を投げだす方法も使える。空中なら真奈香の戦場なわけだし。

 ネットを上って上からって方法もある。

 常塚さんの後ろにある貯水タンクがちょっと邪魔だけど、私たちにとっては広すぎる校庭よりも、この上なく有利に事を運べる場所。

 それがここ、屋上。


 真奈香と打ち合わせをした私は、すぐにここに向かった。

 真奈香が隊長から、グレネーダーに登録されていたデータの中にあるという、茶吉尼の前例が使っていた能力や操作方法を教えてもらっている間に、私は私がやるべきことを幾通りもシュミュレートしていた。


 例えば、遥か昔の拷問方法だ。

 縄で縛って自由を失くした処刑人を地面に大の字に寝かせ、伸ばされた左右の足に山羊を一頭ずつ配置するというもの。

 山羊に処刑人の足を舐めさせるだけの拷問をヒントに私は作戦を考えた。

 やるべきことの一つ。舌で舐めこしょわしの刑!


 いや、さすがに拷問方法みたいに足の皮剥けるまで舐めませんけどね。

 根を挙げて私たちをグレネーダーに入れてくれると誓ってくれるまで恥を忍んでやってやる。

 っとまぁこいつが最終手段ってヤツですな。


 真奈香は真奈香で、隊長から聞いた茶吉尼天の能力である、狗だか狐だかよく分からないものを具現させたり消滅させたりして常塚さんが来るのを待っていた。

 隊長曰く下手に操作しながら移動するより、具現させた狗だか狐だかよくわかんないものを操作するのに専念した方が良いとか。


 ようやく翼からの電話で常塚さんがやってきたのは午前一時を過ぎたあたりだった。

 屋上から見える星空は、街中で見るより幾分多くの星が見える。

 あのお星様の仲間入りにならないようにがんばらなきゃね。


 満天の夜空に漂う空気をめいっぱい吸いこんで、私は常塚さんに視線を戻した。

 常塚さんは先ほどの私服ではなくて、隊長のような黒で統一した格好になっていた。


 私にはよく分からないけど、黒皮製の身軽な格好。

 下はズボン型だ。手には厚手の皮手袋を填めて、靴はブーツみたい……あれ? ズボンと繋がってない?


「柳ちゃん、助言は済ませた? まだなら今のうちにしてあげたほうがいいわよ?」


「助言などない。第一私は支部長の能力を知らん。妖使いだとしか聞いてないからな」


「嘘ばっかり、入隊させてくれたのは柳ちゃんだから知らないはずないでしょ」


 腕組みして壁にもたれている隊長。

 本当に助言も手助けもしてくれないらしい。

 ちなみにその隊長の横で手を後頭部に組んで壁にもたれて風船ガムを膨らませてるお子様もいる。二人とも傍観者に徹するらしい。

 私たちのこと、見守ってくれているのか見捨てているのかは分からないけど……助けてはくれないんだろうなぁ絶対。


「試験の前にハンデをあげるわ」


 皮手袋をしっかりと填め直した常塚さんが私たちに近づいてくる。

 一定の距離まで進むと、そこで立ち止まった。


「私の原住民の力は【八意思兼】。下手な小細工は通用しないわよ」


 自分の妖能力の暴露。

 確かにある意味ハンデではある。

 自分の手の内を見せているから不利になることは確かになるだろう。


 でも、オモヒカネ……

 日本にやってきたとされる天津神の一人。

 ある一説には国津神の一人だったのが天岩戸に隠れたアマテラスを連れだす知恵を八百万の神に教えたってことで天津神に格上げされたって有名な神。

 っていうか八百人もいて一人しか考えつかなかったって、ほんとに神様方ですか?


 とにかく、思兼は字から分かるとおり、思慮を兼ね備える者。

 【八意思金】、【常世思兼】などいくつかの読み方がある。

 一般的イメージは脳みそが立って歩いてるってイメージだったと思う。

 で、あれば……能力って知識じゃん!


「ハンデにならないですよそれっ! むしろ死刑宣告ッ!?」


「そうかしら? 能力って言っても無駄知識が突然頭の中に浮かび上がってくるだけだから、充分なハンデだと思うんだけど……じゃあ、武器ならどう? この手袋ね、手の甲と左右に穴が開いてるでしょ?」


 と微笑みながら右手の甲をこちらに向ける。

 ジャキッ

 はい? 気のせいかな?

 なんか鋭く尖ったものがでてきたんですけどっ。


「爪がでてくる仕組みになってるの。凄いでしょ? あと、足もナイフが飛びだす仕掛けをしてあるわ」


 計算外だ。足が狙えない……


「この二種類の武器しか使わないから、十分なハンデでしょ?」


 合格させてくれる気ないねこの人。

 でも、こうやって使う武器や妖能力を教えてくれるってことは確かに対策を立てやすくはなる。


 やっぱり合格させてくれるんだろうか?

 自分でも甘いとは思う。

 なまじ見知っているだけに、手加減してくれるんじゃないかって……

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