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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四節 のっぺらぼう
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あがくのっぺらぼう・前篇

「実はな、お前の家から逃げた後、ここに潜伏したんだよ俺」


 私の教室の前まで来ると、のっぺらぼうが呟いた。

 薄暗い廊下を光に照らしながら私に告げてきたのだ。

 手を教室の扉に掛けたのっぺらぼうが、私にライトの光を向けて来る。かなり眩しい。


「はぁ……ここにですか」


「ってもな、普段人が来そうにない空き教室にいたんだ。なのに……だ」


 言葉を切って教室のドアを開ける。


「こいつに見つかった」


 そこにいたのは……真奈香だった。

 真奈香は座席の一つに縛り付けられ、布で口を塞がれていた。


「んーんんんーんーっ」


 真奈香が何か言ってるけど分からない。

 そもそもなんでこんなことになってるのやら。


「聞いた話じゃお前を探しに来た知り合いだって言うじゃないか。お前も俺と同じなんだって?」


 もしかして、真奈香ってばずっと私を探してたんだろうか?

 それで隠れていたのっぺらぼうを発見とか、どうなんだろう。

 

「同じって、どういうこと?」


「グレネーダーに追われてたんだろ? 出雲美果がどうこうって噂で」


「あ、あれはデマよデマッ!」


「んなこたぁどうでもいいんだよ」


 のっぺらぼうの意図が掴めない。

 一体何が言いたいのだろうか?


「俺はな、こいつの話を聞いた後、あのグレネーダーの野郎とお前が行動を共にしている現場を見ちまったんだ」


 金山幸代の……あの現場か。


「どうやって取り入ったんだ?」


 取り入った? 何が? 何に?


「だから、どうやって指名手配犯にされたお前がグレネーダーに取り入って一緒に行動できたのかって聞いてんだよッ!」


 のっぺらぼうは必死だった。

 なぜ、何に必死なのかはまだ分からない。

 けど、必死さだけは伝わってくる。


「んなこと知ってどうすんの?」


 だから、務めて冷静に質問する。下手にこちらも感情的になれば、のっぺらぼうが暴走しかねないからだ。

 今は真奈香がいるので下手に刺激すべきじゃない。

 いつでも奥の手を発射できるようにしながら慎重に言葉を選ぶ。


「決まってんだろが、俺の指名手配を解くんだよッ! これから第二の人生を歩もうってんだ、追われたままってのは嫌だろが。彼女も作れやしねぇ」


 あ、なるほど、言われてみれば確かに。

 どうしよう、目から鱗な気分だよ。


「ってことはなに? 銀行強盗だっけ? あれは素直に罪を償うわけ?」


「それは……そ、そのとおりだッ」


 一瞬どもったよこの人。罪を償う気あるのかな?


「でもさ、グレネーダーに入っても……多分幸せにはなれないよ」


「グレネーダーに入る? それは冗談じゃねぇぞ。あんな化け物使いと一緒に同族殺しなんてやってたまるかッ」


 私も、そう思う。

 同族はもとい人殺しなんてやりたくない。

 生きるために生きることを犠牲にする仕事。


 指令なら例え身近な恋人、友人でさえ殺さなければならないかもしれない。そんな仕事なんて……

 でも、そうしなければ私が殺される。

 だけど、きっと、私はそうするんだろう。だって、絶望的な未来から逃れる道が示されてしまったのだから。ただ、もう一つの道も、同時に光り輝いて見えていた。


 私は今、正直迷っていた。

 殺害に慣れるなんてことは私には到底無理だ。

 きっと、そのうち壊れてしまう。

 親父よりも、もっと酷く壊れてしまう。それならいっそ……


「他に方法はねぇのかよッ! グレネーダーなんかにならねぇで生き延びる方法はッ!」


 憤るのっぺらぼうが私に掴みかかる。

 どうすることもできずに肩を持たれてがくがくと揺すられていると、突然、それは現れた。

 のっぺらぼうの後ろに、長い髪に顔を隠し、口に鎌を咥えた上半身しかない少女。


 翼の妖、テケテケ。

 私からその姿ははっきりと見えた。

 翼に似た顔立ち、虚ろな双眸。

 まるで翼自身の心の闇を現しているような容貌。


「テメェ……騙しやがったな」


 冷や汗を全身に噴きださせながら、後ろの気配に振り向けないのっぺらぼうが震えた声で私を睨む。


「え? ち、違……」


 私は翼たちを呼んでない。そう言うより先に、私の体は横に投げ捨てられた。


「チクショウがッ、これだから他人なんて信じられねぇッ!」


 走りだすのっぺらぼう。ドアを飛びだし廊下を駆けていく。

 それを手で這いながら追っていくテケテケ。

 早い。人が走るのと殆ど変わりがない速度で廊下に消えていった。


 残されたのは尻餅をついたままの私と、椅子に縛られたままの真奈香。

 気まずい。ものすごく気まずい状況です隊長。

 助けに来たならお早めに……


「生きてるか、高な……っ!?」


 半開きだったドアがものすごい速度で全開する。

 ガンっと物凄い音がした。


「っ~~~!?」


 弾みで跳ね返ったドアに指を打ちつけて、入ってこようとした翼がその場で崩れた。

 うん、痛いよね。分かるよ。

 こういうときの涙は仕方ないよ。うん。だからって、恨みがましくこっちを見ないで翼ちゃん。


「だ、大丈夫?」


 聞いてはみるが、痛みで声がでないらしい。可哀想に。


「入り口で立ち止まるなド阿呆」


 後ろから隊長にせっつかれ、這い蹲ったまま翼が私の元に来る。


「隊長。どうしてここが? いくらボクの妖気が認識できるとしても作戦会議室からここにくるなんて……」


 まさかずっとつけられてたとか?


「いや、確かに有伽がどこかへ行こうとしていたことは気づいたのだがな。自分の学校ならば良いかと思っていた。こいつを聞くまではな」


 と、ボイスレコーダーを懐から取りだした。

 金山幸代の証言を取ったあのレコーダー? ああ、そうか。あの後、おばさんを追ったせいで録音したままだったんだ。

 のっぺらぼうの話も録られてた訳か。


「全く、今回はレコーダーに行き先が録音されてたからよかったものの、犯人に呼びだされて一人でのこのこ出向いてんじゃねぇ。被害者Tになりたいのかテメェはッ! あぁ、痛てぇ。必要ねぇダメージ負っちまったじゃねぇか」


 それは自業自得だよ翼ちゃん。


「とにかくだッ! あの野郎を追うぞッ!」


 私の言葉を聴かないままに、翼が私の手を引いていく。


「た、隊長ッ」


 ドアをでるとき、振り返って隊長に声をかける。

 真奈香の縄を、そう言おうとしていた事を隊長に目線だけ送った。


「心配するな、この女生徒は解放しておく、遠慮せずにいってこい」


「お願いします隊長!」


 廊下に連れだされた私は、隊長に聞こえるようにとできるだけ大声で返した。

 階段を駆け上がった所で不意に翼が立ち止まる。

 苛立ち舌打ちして私の手を離した。


「どうしたの?」


「あの野郎姿を変えやがったな。テケテケが見失っちまった」


 そっか、テケテケから逃れたんだ。

 私はほっと胸を撫で下ろした。

 人の死なんて……やっぱり見たくなんてない。

 名前:  志倉しくら つばさ

 特性:  頬にいつでも絆創膏

 妖名:  テケテケ (半精神体操作)

 【欲】: 下半身を集める (翼は人形の足だけ集めている)

 能力:  【捕まえた】

       相手の後ろに半精神体で作りだしたテケテケを配置。

       振り向いた相手の首を自動的に刈り取る。

       これは翼の場合のみで他のテケテケ使いは下半身が主。

      【精神攻撃】

       精神体操作系妖使いの攻撃に対抗できる

      【半精神体】

       テケテケがダメージを負うと、

       術者にもフィードバックされる。

      【同族感知】

       妖使い同士を認識する感覚器。

       個人のよって範囲は異なる。

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