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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二節 鎌鼬
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乱戦3

 止音がいなくなってすぐ、隊長と小林さん、そして稲穂と真奈香が戻ってきた。

 今まで働いていた何かの力が彼らを遠ざけていたように、本当に同時に戻ってきた。


 隊長と真奈香は相手を見失ったから、小林さんと稲穂は追いかけっこに飽きたからといった理由だったが、タイミングの良さが不自然すぎた。

 翼と前田さんは皆が戻ってきた安心感から気付かなかったかもしれないし考えにも及ばなかったかも知んない。

 けど、私はまず間違いなく止音もしくはその仲間に特定の人物を遠ざける能力使いがいると確信していた。思い込み激しいとかじゃないはずだ。


「すまない、私が私情で離れたせいで」


「隊長は悪くありません。僕を信頼して離れたのでしょう? でしたらその後勝手に皆から離れた僕に責任があります」


「師匠も小林さんも責任がどうとか関係ねぇっスよ」


「そ、そそそそうです。わ私たちだって何もででででできなかったですし」


 慌ててフォローしようとする二人。

 真奈香も稲穂も自分の失敗に表情が暗い。

 もう二度と私を一人にさせないというように二人して私にくっついている。

 嬉しくはあるけど不自然で私が重要人物っぽく見えてしまうから離れてほしい。

 とにかく、私は二人を掻き分け隊長の元へ行く。


「隊長、ちょっといいですか」


「どうした有伽?」


「止音って人、まるで自分が隊長たちを私から遠ざけたみたいなこと言ってたんですよ。そういう妖っているんですか?」


「あのなぁ高梨、何でもかんでも妖のせいにしても意味ねぇだろ。あれはあいつのハッタリだ。勝手に皆がいなくなったから出てきただけだって」


 翼の言葉はもっともだ。でもやっぱり偶然とも思えない。

 むしろ妖使いが絡んでると考えれば、これからこういうことが起こったとき止音たちが近づいてくる前触れだと気付くことだってできるかもしれない。


「ふむ……人を誘導する妖使いならばいくつかいるな」


「ですね、グレネーダーにいた土蜘蛛もそうでしたし、迷家も人がいないというならばそうですよね」


「だな。だがそれよりもその止音とかいう男にとって都合の良い事象を起こすだけなら幸運や不幸をもたらす妖使いがいればいい。座敷童子やケセラバサラ、ケバタケ、貧乏神なども類するか。歌が聞こえたりはしなかったので人魚という線は消えるな」


 なんだ。人の行動を左右する妖使いって結構いるんだ……ってそんなにいて大丈夫!?

 なんか今自分がここにいるのも誰かに操られてんじゃないかって不安になって来ましたよ。


「ところで隊長。あなたはなぜ単独行動を?」


「む、いや……」


 なんだか隊長が困ってる。

 川辺鈴を追っていたことは聞かれたくないのだろうか?


「あ、そうだ隊長。静香って知ってます? 千里眼の妖使いらしいんですが」


 隊長のフォローとして私が別の話題を出しておく。

 案の定、隊長は話に乗り換え、即座に話を小林さんに振る。


「ふむ……私には覚えが無いな。小林、お前は?」


「え? いえ……特には。グレネーダーの千里眼は名前が違いますしね」


「千里眼の静香か。これも調べておかなくてはならんようだ……散れ!」


 言葉を止め、突然隊長が前田さん抱えて飛び退った。

 訳が分からず戸惑う私は稲穂に首根っこ引っつかまれる。

 他の面々は各々真後ろへと逃げ延びる。


 一瞬遅れ、真上から降ってきたのは巨漢の男。

 そのままアスファルトを砕き、へこませる。

 隕石でも降った様に出来たクレーターから男は起き上がる。

 粉塵舞い上がる中心から悠々と立ち上がると、私たちの元へと歩いてきた。


 顔に見覚えがある。小笠原公一だ。

 妖抹消委員会の要注意人物が空から降ってきたようだ。

 背には白い布で覆われた巨大な何かを背負っている。


 緑色のシャツ……いや、タンクトップか?

 ランニングの途中といった服装だ。

 筋肉は想像以上に隆々で、顔も予想以上に厳つかった。


「小笠原公一か……」


 小林さんが毒づく。

 小笠原公一は無言でニタリと微笑むと、小林さんに向かいダッシュ。

 真奈香を思わせるスピードに慌てて小林さんは両手でガードを取る。


 小笠原の拳がガード越しから突き入れられ、ガードをはじかれた小林さんが宙を舞う。

 小林さんの妖は金鬼。

 体力に優れた妖で、肉体はかなり強化されている。


 そんな小林さんをしても圧倒的実力差で撥ね飛ばされた。

 背中から落ちて呻きを上げる。

 えーと、つまり、私があんなもん受けたらまず間違いなく、スイカ割り状態!?


「全員逃げろ! こいつは僕がやる」


 先程の攻撃にプライドが傷付いたのか、立ち上がった小林さんが小笠原に対峙する。

 あ、眼鏡割れてる。


「『あ』どうする?」


「うん、せっかくだから逃げよう。ただ、分散させられるのはちょっと癪かも」


 できるなら全員一緒で逃げたいが、どうにも合流路を断たれているので無理っぽい。

 近くにいた稲穂と二人で十字路を南に逃げる。

 稲穂に連れられていたので隊長たちが別々に散っていくまでをしっかりと見届けた。

 私たちから見て右に真奈香、前方向に翼、左に隊長と前田さんが逃げていった。




「みんな大丈夫かな」


 随分と離れたところで、私は思わず呟いた。

 やっぱり不安なので口にしてしまうのは仕方ないと思う。


「みんな以前に自分のことを心配した方がいいかも」


 しばらく二人で走っていた私たち。稲穂が呟き立ち止まる。


「何?」


「敵よ。数は一、二……三体」


 三体も!? って、もしかしてまた止音たちなんじゃ……

 と、また話せるのかとちょっと期待してみた私の頬を、風がなぶった。

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