表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二節 鎌鼬
193/485

風の襲撃者

 食事を終えた私たちは、暗くなり街灯に照らされた夜道をぞろぞろと歩いていた。

 風もなく雲もなく、二ヶ月が綺麗な夜空だった。

 季節がら寒くもなく熱くもなく、本日は夜空の散歩日和というところだ。


 私と真奈香だけだったなら空の散歩に付き添ってもらっててもいいくらいだけれど、同時に月に向かって涙ながらに遠吠えでもしていたい気分でもあった。

 なぜって? そりゃあ、真奈香と稲穂が私争奪戦してくれましたからね。

 ついでに食事が爆破されたし。

 ここしばらくツイてないし。


 今日という日はサボテンステーキの惨劇として私たちの子々孫々へと語り継がれていくことだろう。

 まさか食料が暴発するとは夢にも思わなかったよ。

 風船でも入ってたんだろうか?


 ステーキ自体を口に含んで弾ける触感を楽しむのが本来の食べ方らしい。

 ひぃぃとか言いながら言い訳する店長が私に伝えた最後の台詞・・・・・だ。

 あんなもん口の中で弾けたら死ぬよ?

 とりあえず、二度と作らないように念を押しておいたけど、なんであのメガネデブは私に蹴られて嬉しそうにしていたんだ。寒気走ったわ。


 さて、夕食の惨状は忘れて、支部に帰って寝る用意を……と、真奈香たちとの攻防戦に意識を巡らせていた時だった。

 一陣の風が吹いた。


 気が付いたのは偶然だったと思う。

 たった一瞬、かすかに匂った妖使い特有の臭い。私たちとは別のモノ。

 妖反応はない。でも、たった一度だけ確かにした。


 普段なら気のせいだと気にも留めないくらいのわずかな異臭に、私は思わず周囲に視線を走らせる。

 今は三嘉凪という敵に狙われているのだ、警戒するに越した事はない。


「どした高梨?」


「有伽?」


 翼と隊長も私の異変に気付き周囲の気配を探る。


「ああっ!?」


 突然声を上げた前田さんに全員がつい注目する。


「私の……小瓶……」


 前田さんがネックレスのように首にぶら下げていたはずのアンプルが消えていた。

 紐は途中で切断され、残された紐だけが前田さんの首にかかっている。


「敵!?」


 ブワリと、妖反応とともに私たちの目の前に風が巻き起こる。

 風は旋風を巻き一瞬で拡散すると、その衝撃で私たちの目に風が入ってくる。

 思わず瞑ってしまい、次に目を開けたときには、眼前に佇む一人の男。

 すぐに皆を庇うように隊長と小林さんが前に出る。


 頭はポマードか何かで揃えてるのだろうか?

 オールバックの黒髪に白のタキシードを着込んだいかにも金持ちですと体で表現している男だった。


 タキシードの胸元にあるポケットには、ちょっと高級そうなハンカチが見える。

 顔はわりと好みだ。髭生えてるから結構なオジサンみたいに見えるけど。

 でも、金持ちでダンディなオジサマならアリだと思います。


「何者だ!」


 男は何も答えず深々とお辞儀をすると、ようやく口を開いた。


「危険妖保護の会、霜月風次郎でございます。以後お見知りおきを」


 危険……妖……保護の会? なんだそりゃ?


「金持ち連中の道楽会かよ? あんたみたいのが出張ってきたってことは、やっぱ【黴】狙いか」


 翼の言葉にニヤリと微笑む。

 霜月風次郎……風次郎さんでいいか。は、懐から何かを取り出し私たちに見せびらかしてくる。

 よくよく見ると、見覚えのあるアンプルだ。


「幸先よく保護できたと思ったのですが、偽者のようですね。本物はどこです? あれを研究に使わせる訳にはいきません。然るべき場所で手厚く保護されるべきだとは思いませんか?」


 にこやかに宣言する風次郎さん。しかし、翼が反論する。

 激昂したような怒声に、しかし風次郎さんは柳に風と笑顔で受け流す。


「何が保護だ。大層なゴタク並べやがって、お前がやってんのは結局盗みじゃねぇか」


「これはただの威嚇というものです。我々はいつでも奪えるのだというアピールですよ。こちらはお返しします」


 ポイとアンプルを前田さんに放り投げる。

 飛んできたアンプルに慌てた前田さんはせっかく受け取ったのにぽーんと真上に弾き、再びキャッチ。

 跳ねるようにさらに飛ばしてはキャッチを四、五回くりかえして結局地面に落としていた。

 あ~あ。割れちゃったよ。


「おやおや……さて、それでは本題です」


 地面に弾けたアンプルの残骸に涙する前田さんに溜め息をプレゼントして、風次郎さんは隊長に向き直る。


「危険妖保護の会に、【黴】をお渡しください。危険な妖をこそ丁重に保護すべきです」


「断る。といったら?」


「力づくで救出するまで。ですよ」


「グレネーダーを敵に回す気か?」


「いえいえ、これは既に本部の方に許可を貰っていますよ。私どもが保護できるのならそれで構わないとね。現場のあなた方にこのことを伝えておこうと思いまして。いえ、返事は今すぐでなくて結構です。明日より本格的に奪還させていただきますので、今回はその布告をしに来ただけです」


 言いたい事を言い終えたのか、風次郎さんはもう一礼する。


「それでは、しばしのお別れを」


 すると風が巻き起こり、目を瞑った私が目を開いた時には、もう、彼の姿はどこにも無かった。

 名前:  霜月しもづき 風次郎ふうじろう

 特性:  礼儀正しい、シスコン

 妖名:  鎌鼬

 【欲】: 人を転ばせる。

 能力:  【鎌鼬】

       相手を風の刃で切り裂く能力。

      【転ばし】

       相手を強風で転ばせる能力。

      【風使い】

       周囲の風を操る能力。

      【鼬の回復薬】

       傷を回復させる薬。

       切り傷くらいなら一瞬で血が止まる。

      【同族感知】

       妖使い同士を認識する感覚器。

       個人によって範囲は異なる。

      【認識妨害】

       相手の同族感知に感知されない。任意に無効。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ