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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第一節 青巻紙赤巻紙
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弾けたサボテン定食

 黛さんに挨拶を終えてグレネーダー高港支部に帰ってきた私たちは、作戦会議室で円陣を組んでいた。


「さて、今日はこれより書類整理……と行きたいところだったが、三嘉凪が動き出した以上こちらも警戒態勢に入らざるおえない」


 何この重苦しい空気。

 まさかアレか? 永遠のグレネーダーのライバル出現?

 ドクターワイ○ーみたいなヤツ現れちゃいましたか!?

 ロック○ン呼べロッ○マン。敵の対処は任せてしまおう。


「この手紙の通りならば、奴らの狙いは有伽だ」


 うわっ。言われてみれば私物凄く事件の中心人物!?


「しかし有伽が【黴】を手に入れたことはまだ知らないはず。そこでお前たちには一人一つづつコレを持ってもらう」


 隊長が席を立ち各々に配る小さなアンプル。

 中には黒い砂のようなものが入っている。


「石炭を細かく砕き砂状にしたものだ。ヤツらの目を欺く為に全員これを持て」


 私はアンプルを拾い上げて目の前に持ってくる。

 中で揺れる黒い砂は動くことはないが確かにあの時のアンプルの中身に似てる。

 しばらくアンプルを眺めていると、隊長が全員を見回して言った。


「今後二人以上の行動を徹底しろ。とくに鵺は声だけで相手に死の呪いをかける。絶対に一人にはなるな。民間人の居る場所ならば奴らは襲ってはくるまい。あとは就寝時か。翼と小林はここに泊るだろうからいいとして、お前たちはどうする?」


 ようするに自分独りだけの時間を作るなってことですな。

 んでもって私たちに振ってくるってことは……


「有伽ちゃん、私有伽ちゃん家に泊っていい?」


 と、まぁ真奈香さんが瞳を輝かせ、ついでに涎だらだらで言ってくる口実が与えられちまったわけですよ。


「何を言っているの『ま』、『あ』は私の家に泊るのよ」


 さも当然というように稲穂が真奈香を威嚇する。

 なんだかわかんないけど私を挟んで冷戦が始まったようだ。

 私はにらみ合う二人に気付かれないようにそ~っと抜けだしもう一人の女性隊員の下へ。


(前田さん、もしよかったら今夜泊めてくれます?)


(え? でも私、こ、ここここに泊るつもりで……)


 なるほど、グレネーダー支部に泊れば確かに安全か。

 まぁ私の場合は操さえ守れればいいわけですが……

 と、言い争いを続ける二人を覗き見る。

 なんだか微笑ましい痴話喧嘩に見えなくもない会話の応酬に、ちょっと楽しそうだなと思う。


「んじゃそれでいいですから匿ってください」


「はぁ……いいですけど」


 よし、これで私の初めては守れそうだ。




 隊長に伝えたおかげで親父には宅配ピザが送られることになった。

 こんな時でも親の食事は忘れない。私、良い子ちゃんですから。

 結局、私が支部に泊ることで真奈香と稲穂まで支部泊りになり、元より翼と隊長は支部に泊る予定だったらしく、一人きりの小林さんも渋々支部泊まりを選択、全員支部に泊るということで食事は全員で外食。

 いつものファミリーレストランにやってきていた。


 全員で食事なので窓際のソファ席に陣取り机を二つくっつけて、窓際に前田さん、真奈香、私、稲穂の順に詰めさせられる。

 イスの方には隊長と小林さん、ついで翼が座り、目の前が翼で左右が私の初めてを奪おうとしている女二人。


 なんだろこの構図? ものすごく頭痛してきて今にも帰って一人きりの部屋で眠りたい気分だ。

 真奈香と稲穂は互いに間合いを計り相手を倒す機会を伺っている様子……

 いや、むしろどうやって相手を出し抜き私をお持ち帰りするかを競っているようにすら感じる。


 やってきた店員さんに思い思いの料理を頼み、私はいつものように奇怪な食事、弾けろサボテン定食! を頼む。

 当然でしょ、私、チャレンジャーですから。


 今回は何かの話合いでここに来ているわけではないので気持ちは幾分楽だった。

 真奈香と稲穂に囲まれているので、生きた心地はしないものの、なんだかんだで私の新人歓迎会以来の飲み会だ。

 ビールとかアルコール類頼んでる人はいなかったけどね。


 しばらく談笑していると、ようやくテーブルに置かれだす食器たち。

 私のもとにはサボテンステーキとライスに加えコーンポタージュスープ。

 副菜としてニンジンとジャガイモがステーキ横に盛り付けられ、ジャガイモに関しては塩がふられていた。

 ついでに飲み物のアイスティが後から運ばれてくる。


 う~ん、ただのサボテンステーキだ。

 話にしか聞いたことないけど、テレビ番組を見た限りでは結構おいしいらしい。

 ただ、どこらへんが弾けろサボテン定食! なのかが分からないけど。


 真奈香の前にも食事がやってくる。いつもと同じハツの焼肉定食だ。

 あ、翼のヤツまたお子様ランチとジンジャーエールだ。

 ご飯に旗突き立てて遊んでいらっしゃる。


 小林さんは天ぷら定食だね。

 隊長は寿司定食だ。しかも結構高そうなヤツだなぁ。

 何気に大トロ3貫あるし。フグとかサメってどうよ?


 前田さんは……なんですか、あのシャーベットの大群は?

 前田さんの前のテーブルにアイスカップが七段ほどピラミッド状態で置かれていた。

 そんなにアイス食べたらお腹壊すよ?


 稲穂はオーソドックスにハンバーグ定食らしい。

 店員に頼んでケチャップが海のようにハンバーグを覆っていること以外は一番マシだろう。

 本人曰く血溜りみたいでおいしそうなんだそうだ。全く、危ない子である。


 え? 小林さんのが普通じゃないかって?

 あっはっは、カイコの天ぷらのどこが普通なんですかね?

 なぜそんなメニューがファミレスなんぞにあるのかが不思議だ。


 まぁ、変化に富んだお品書きがここの身上らしいですから、とやかくは言いません。クレームつけない良い子ちゃんですから私は。

 ぶつくさ文句垂れてる人もいくらかいたけど、皆やっぱりこういった飲み会みたいなことは好きみたい。

 思い思いに箸をつつきながらまるで命のやり取りしてるグレネーダーだと思えないほどに和やかな雰囲気を醸し出している。


 和んが気持ちで心地良く私も食事に取り掛かろう。と、ナイフをステーキに刺した瞬間だった……


 バフッ


 サボテンステーキはみごと弾け飛んだ。


 一瞬で沈黙が周囲を支配した。

 皆が注目する中、サボテンの肉片を見事顔面で受けた私はもはや唖然として声も出だせない。


 皿の中には残骸が申し訳程度残っているだけで、他は全て真奈香と稲穂の食事の中へダイブ・イン!

 静寂と沈黙の中、私は静かにポケットからハンカチを取り出し顔を拭く。


 ふふ……あはは……

 店長出て来いッ!

 グーでおもっきし殴りつけてやるッ! つーか殺すッ!


「わわっ、有伽ちゃんっ!?」


 突然憤怒の表情で立ち上がり店長出せぇッ! と叫びだした私を、驚きながらも賢明に諌める真奈香。

 申し訳なく思うけどごめん。

 この食事はありえないでしょ!

 店長マジ出て来い! お前の急所蹴り潰してくれるぁッ!

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