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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第一節 青巻紙赤巻紙
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妖研究所高港支部

 妖研究所。

 研究所というからにはもっと殺伐としたイメージだったのだけれども、グレネーダー支部などよりずいぶんと活気に満ち溢れていた。


 大多数ある部署には人の出入りも激しく、雰囲気としては大学に似ている。

 研究室の一部は一般開放もされていて、平日でも沢山の人で賑わっていた。

 いうなれば、大学病院みたいなところというべきか。


 ここのところ【黴】事件以外は何もないそうで、隊長を始め、隊員全員が付いてくる。

 常塚さんも仕事はまだあったらしいけど、【黴】に関する重大事件。

 私の体内に潜んでるかもしれない【黴】が、今どのような状態なのか、実際に自分の目で見て確かめておきたいらしい。


 隊員全てが付いてきたのは、翼曰く、残っても書類整理の雑用やらされるから、皆が私の付き添いを理由に逃げたんだそうだ。

 本来なら常塚さん一人だけでいいらしい。

 と、いうことは……隊長も書類整理逃避組みっ!?


 庭を通り抜けながらふと周りで遊んでいる子供達に気づく。

 全員妖使いの反応がある。

 いや、彼らだけじゃない、ベンチに座っているカップルも、お話中のおじいさんたちにも、庭にいる全ての人に妖の反応がある。

 彼らは皆心の底から楽しそうに笑い合っていた。


「どうしたの高梨さん?」


 つい立ち止まっていた私に、常塚さんが気づいた。


「ここにいる人たち……」


「あぁ、ここは保護された力の弱い妖使いや無害とされた妖使いたちが行き場の無い自分を研究や実験に使ってくれと協力する代わりに安全を約束されている場所なの。妖使いの最後の楽園……といったところかしら? 皆楽しそうでしょ? 実験も危険なことはないそうだから、世の中で周りを恐れながら生きていくことに比べたら、断然幸せな場所でしょうね」


 自分を研究に……か。


「負け犬の終着点……といったとこね」


 吐き捨てるように小声で呟いたのは稲穂。

 すぐにでも周りの人々に飛び掛っていきそうな機嫌の悪さに、近くで見ている私の方が気が気でなくなり寿命が縮む思いだ。

 彼女の欲が恨む事なのでその恨みを晴らすために襲いかからないか心配でしかたない。


 公園を抜けて建物の中に入る。

 内部は病院特有の臭いがしていて、エントランスの間取りも似たようなもの。

 待合所があって薬渡したりする受付カウンターの前に待機用長イスの群れ。


 カウンター上の壁には時計が、斜め右の方には待合い人用のテレビが落語を垂れ流していた。

 カウンターに常塚さんがいっている間に、各々イスに座って暇を潰す。

 私の横には右に真奈香が座り、左には何故か稲穂が寄ってきた。


「こういう大きな病院って初めて来たよ。『あ』は?」


「ボク? 小さい頃はよく来てたかな? 結構病弱だったし。妖能力に目覚めてからは病気になったことすらないから疎遠だなぁ」


「じゃあお姉ちゃんの件で来たのが久しぶりなんだ?」


「まぁそうなんだけど……でもあそこ小さかったでしょ?」


「市立病院だからあれでも大きいよ有伽ちゃん。ここと比べたらダメだよ」


「それもそっか」


 会話の区切りに、なんとなしにテレビを見る。


「あ、そうだ。ねぇねぇ有伽ちゃん、帰りにそこの自販機でジュース買って帰ろうよ」


 そこの自販機? と真奈香の指す方に視線をやれば、なるほど、休憩スペースのような場所に二、三台の自動販売機が設置されている。


「気になるジュース見つけちゃった」


「気になるジュース?」


「柄が何も書かれてない真っ黒い柄のジュースなの。80円とお買い得!」


 ……なんだろう? どこぞの都市伝説で聞いたことあるぞそのジュース。

 飲んだ奴が性格豹変させて殺人者になる話だったような……


「黒いジュースは飲まない方がいいよ上下さん」


 と、いきなり話に入ってきたのは後ろの席に座っていた小林さん。

 足を組み手も組んで膝に置き、社長イスに座るような勢いでそこに居た。


「ここの黒ジュースは文字通り黒ジュースの妖使いが調合したスペシャルジュース。効能は凶暴化、依存性は特大、麻薬よりも性質が悪い劇物だよ」


 んなもん自販機に並べるなよ妖研究所……


「彼の欲はアレの販売にこそあるからね。あそこに商品として並べることで欲を発散させてるんだ」


 買いさえしなければ大丈夫ってところですか……

 知らずに買った奴合唱だね。


「高梨さん、行くわよ」


 小林さんの話を聞いていると、受付を終えたらしい常塚さんがやってきた。

 私たちが立つのも待たずにさっさと廊下の奥へと歩いていってしまう。


「支部長、もし時間があれば彼女に会っておきたいのですが……先日稲穂さんが市立病院に潜入したことにより危険性を鑑みてこちらに移されているんですよ」


 常塚さんに追いついた私たち。

 エレベーターを待つ間に、小林さんが提案していた。


「ええ。どうせなら皆で行きましょう。新人の二人にも紹介した方がいいでしょう?」


「そうですね。彼女……高梨君を見て思い出さなければいいのですが。彼女にはもう、あのことを忘れて欲しいんです」


「それは……無理だと思うわよ。彼女自身が望んだ結果が今なのだから」


 ……なんでしょうか、この声かけづらい重い空気は?

 あの、もうエレベーター来ちょるんですが?

 私、何かしました?

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