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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第一節 青巻紙赤巻紙
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新人は殺人鬼

 今まで無関心のように壁にもたれていた小林さん、よっと体を起こすと常塚さんに向き直る。

 眼鏡をかけた細身の彼は冷静さがウリに見えるけど、実際は妖の能力で体育会系派だ。

 筋肉隆々じゃないだけまだ暑苦しくはないけど、欲を発散するために人前でシャドーボクシングするのは辞めて欲しい。


「【黴】が外に出た形跡はなかったでしょう。僕の見立てじゃまだ彼女の中に居るんじゃないかと思うのですが」


「……そうね。乗り気はしないけど高梨さんを妖研究所に検査しに連れて行きましょう」


 妖研究所? って何?

 研究所って言うくらいだからマッドでディープな人を人とも思わないような研究者が日夜人体実験を!?

 そんなとこに連れて行かれるんですか私!?


「ちょ、ちょっと待ってください常塚さんっ、私モルモットなんて……」


「安心しなよ『あ』。行く場所は普通の病院と変わらないから」


 ドアの開く音と共に妙に冷めた態度の声がやってくる。

 聞き覚えのある声に思わず体が硬直するのが分かった。

 ドアからやってきたのは小柄の女の子。


 髪は切りそろえたのか、前に見たときよりも短く、だけどそれでも腰くらいまであるツインテール。

 縛ってから切ったのだろう、左右のおさげが箒の先みたいな状態になっていた。


「あ、あんたは……」


「今日から抹殺対応種処理係に勤務することになった斑目稲穂。よろしくね『あ』」


 笑顔を浮かべていたずらっぽくクスリと笑う。太めの眉が印象的だった。

 斑目稲穂。

 つい先日まで無期懲役で刑に服していた大量虐殺犯だ。

 グレネーダー創設のきっかけを作った人物でもあり、ガシャドクロの妖使いでもある。

 欲望は人を恨むこと、この欲望により人を殺すことに躊躇いがない。


 相手の名前を覚えるのが苦手らしく、出来るだけ縮小した結果、私のことを『あ』と呼ぶようになった。

 ちなみに真奈香は『ま』と呼ばれている。


 確か一度脱走したものの、姉を殺して自首したはずだ。

 刑務所で服役中ではなかっただろうか?

 そんな危険人物が……新人? え? ウソでしょ?


「上層部でもどう扱っていいかわからず困っていたところに稲穂さんから二人一緒なら入隊してもいいと商談があってね」


 商談? つまりアレか?

 未だ謎の上層部と稲穂が何か取引をして無罪放免と相成りましたと? そういうことか?


「向こうの条件は番犬になること。私の条件は良智留お姉ちゃんと私の永久無罪。無罪の代償が抹消し続けることだなんて楽でよかったよ。ま、これからよろしくね『あ』。背中向けたら斬るから覚悟しといて」


 いや、笑顔でンなこと言われても……


「あれ? 良智留の無罪……って、どういうこと? だって彼女は死んで……」


「ないよ?」


 私の疑問に答える稲穂はまるで物分りの悪い子に面倒くさそうに教える先生のような表情をしていた。


「あのね『あ』。お姉ちゃんの妖は紫鏡なの。わかるよね?」


 こくりと頷く。

 良智留ことよっち~は私のクラスメイトだ。

 真奈香とは家が近いらしく幼馴染。

 エセ関西弁で朗らかな人物だったのだが……妖が目覚めるきっかけの事件以降極悪人物になり稲穂によってトドメをさされたはずだ。


「紫鏡の特性は鏡の世界。そこは彼女の世界であり彼女にとって都合のいい世界。この世界とは別次元。ゆえに時間という概念が存在しない。ようするに朽ちないし死なないってこと。たとえ首だけになったとしても……意識のあるうちに鏡に入ればあの世界で永遠に生き続けられるわけ」


 ぶっちゃけて言っちまいますと不老不死というわけですか。


「ま、それに気づいたのもね、鏡の中のお姉ちゃんと話ができたからなんだけどさ」


 言いながら右手を振る稲穂。

 右手にいつの間にか現れた鈍い紫に煌く刃を私に見せる。

 輝く刀身に、心なし誰かの顔が映っているような……


「頭だけだから妖としての力は急激に落ちてるみたいで朧にしか見えないけど……もう、離れることは無いよ、私はお姉ちゃんたちといつも一緒にいれる」


「そ、そうなんだ……」


 なんていうか、その姉妹愛に呆れ通り越して尊敬するよ。

 そういえば長女の瑠々璃さんも紫鏡の中に取り込まれたままだっけ。

 だからお姉ちゃんたち……ね。


「それで? どうするの高梨さん?」


 病院で検査……かぁ。

 これが普通の病気だったら体内で簡単に決着がつく。

 ウイルス撃退能力はずば抜けているのだ。

 私の妖能力で誇れることといえば恐らくコレが一番だろう。


 でも、それは普通の病気限定。

 カビの力がどれほどか分からない。

 今はまだ耐え切っているが、いつか限界が来てしまうとも限らないわけだ。

 私の中にカビがあった場合だけど……病院で見てもらうことは確かに必要だと思う。


「ほ、ほんとに実験体とか見世物とかにされたりしないですよね?」


「大丈夫よ。そんな酷い所じゃ    ないから」


 なんか……妙な空白が空いてるんですけど?


「大丈夫だよ有伽ちゃん。有伽ちゃんは私が守るもん」


 任せなさい! と胸を張る真奈香。


「そうそう。お姉ちゃんの友達のよしみでそん時は私も手伝うよ『ま』」


 と、笑い合う真奈香と稲穂……何この二人? 妙に気が合っとりませんか?

 終いにはいぇ~とかいいながら手を叩きあってる。

 何か共通するもんでもあったのかな?

 というか……稲穂ってこんな子だったっけ?

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