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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第一節 青巻紙赤巻紙
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宿主を喰らう妖

 旅人は歩き続ける


 自らの安全の地を求め


 やがて繋がる新たな地へと


 平和に住まう者の元へ


 キバ剥き爪研ぎ襲い来る


 抵抗、抵抗、また抵抗


 この地に住まう住民は今までのようにはいかない


 旅人達は彼らに問うた


『我々を住ませてくれまいか?』


 彼らは答えた


『我らが宿に害成さぬなら』


 こうして旅人たちは受け入れられた


 旅人は安住の地を手に入れ


 住民は強き仲間を迎え入れた


 これが旅の終わりであり、全ての始まりでもあった




「……ちゃん……」


 誰かの声が聞こえた。


「……有伽ちゃん……」


 何度も呼びかけられる心配したような声。

 私は呼び寄せられるように目を開く。

 目の前には泣きはらした真奈香の顔があった。


「真奈……ちゃん?」


「あ……有伽ちゃん……有伽ちゃんっ!!」


 真奈香の顔が嬉しさにゆがんだ瞬間、物凄い腕力で強く抱きしめられた。

 ベキミシと骨の軋みとともにぼやけた意識が一斉に覚醒する。


「ギ、ギブ……ギブアップ真奈香さんっ! 誰かへるぷっ! ぐぼぁっ!?」


 真奈香と私の周りには、抹消部隊の面々が全て揃っていた。

 代表するように隊長がポンと真奈香の肩を叩くと、ようやく気づいた真奈香が私から離れてくれる。

 隊長は更に前田さんに顔を向けて顎でドアを差す。

 何かを察した前田さんが部屋を出て行った。


「一応……無事みたいだな有伽」


「あ、はい。何ともないみたいです」


「私たちも誰も発症していない。だからこそ聞かせてくれ、中で何が起こった? アンプルの中身はどこに消えた?」


「え……と……」


 あのアンプルの中身は……確か私の体に……んで私は気を失って……


「わかんないや」


 頬を掻きながら苦笑いで答えた。


「あのなぁ高梨。わかんねぇってお前、悲鳴上げてただろ。あれで上下のヤツ隊長の制止をふりきってドアぶっ壊しやがったんだぞ」


 呆れた口調で翼が口にした言葉は、結果何も無かったから良かったものの、あのなんだかよくわかんない黒い何かをこの場の全員に感染させるかもしれない危険行為を真奈香が行ったと言っているわけだ。

 一歩間違えれば全滅の危険、隊長たちは笑って済ませてくれてるけど、私の不注意から全員に生命の危機を与えたと思うと申し訳ないと思う。


「それで隊長、結局あのアンプルには何が入ってたんですか?」


「アレか? アレは……」


「【黴】よ高梨さん」


 隊長の声を遮ってドアから入ってきたのはエメラルドグリーンの髪を靡かせて歩く常塚さんだった。

 づかづかと部屋に入ってくると、今まで壁にもたれ沈黙したままメガネを片手の三つ指で支えている小林さんの横に来る。

 遅れて前田さんが部屋に戻ってきた。

 どうやら常塚さんに私が気が付いたのを知らせに行っていたようだ。


「【黴】って、あのカビ……ですか?」


「そう、これが妖と呼べるのかどうか分からないのだけれど、主成分は黒カビの一種。繁殖力が異様に強く妖反応にも反応するの。カビを扱った妖が今のところ見つかっていないから仮に【黴】と呼ぶことにしたのよ。【千里眼】と【サトリ】の発見が一分でも遅れていればこの町一帯が……いえ、世界すら滅ぼしていたかもしれない凶悪な妖よ。幸い空気感染はないみたいだけど意思を持っていて独自に移動して宿主を探すの」


 なんつー危ない妖だ……って、待てよ?


「それって、外に出ちゃったってことですか!?」


「それが分からないからお前に何があったか聞いてんじゃねーか俺らは」


 あ、そっか。

 翼に指摘されたのは悔しかったが、正論なので反論が出来ない。


「でも、妖だってならそのカビだっけ? 妖使いの人を何とかすればいいんですよね?」


 おそらく今回の仕事はそれなのだろう。

 【黴】使いを見つけ出し抹消する。

 それで皆が集まって……


「残念ながら、死んだ人に頼っても意味は無いのよ高梨さん」


「え? 死……?」


「彼女……あなたと同じ中学に居たから知ってるかもしれないけれど、鹿鷹聖良という人よ」


 どっかで聞いたことがある。

 確か……一年生で大人気の美少女だったはず。


「昨日深夜、自宅で妖に目覚めたみたいなの。妖の名はさっきも言ったけど【黴】。通信情報処理係から連絡を受けて貴重対応種護送係のメンバーが着いた時にはもう……自らの妖に喰われて死んでいたそうよ」


 自らの妖に喰われるって……妖ってそんなに怖い存在なの?

 ……ん? 待て、つまりカビは自分の考えで移動して、宿主を探し、繁殖。んで宿主を殺すってことか。

 私……全身がカビに覆われたとこまで記憶あるよ?


「どうしたの有伽ちゃん?」


 思い出してしまった恐怖体験に、知らず体が震えていたらしい。

 真奈香に心配されてようやく気がついた。


「あ、うん。あのカビに全身覆われたの思い出して……」


 何の気なしに言った瞬間、周りの空気が一変した。

 まるで重大な証言を言ってしまったような……国会でつい問題発言を大声で言ってしまったことに気づいた政治家の気持ちになった。


「お、お前っ、それで平気だったのか!?」


「う、うん……平気みたい……だけど?」


 一応、身体を見た感じ変化はない。黴の妖はどっかに行ってしまったようだ。私の事は運良く見逃してくれたのだろう。

 でも、そんな楽観視を否定するような声が聞こえた。


「一応、検査した方が良さそうだね。妖研究所に行くのを推奨するよ」


 今まで沈黙を保っていた小林さんから、提案が上がった。

 中途半端感がありますが今回はここで切ります。

 次回、あの(・・)新人現る。

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