表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第一節 青巻紙赤巻紙
185/485

ファーストキスをもう一度?

「いよっすアリアリ。珍しいなホームルーム滑り込みアウトなんてよ」


 ホームルームが終わり、先生の居なくなった教室で紫村勝也が声をかけてきた。

 つい最近まである事件がきっかけで入院していたのだが、つい先日復帰してきてしまった自他共に認める腐れたミカン君一号だ。

 仲間が全員居なくなったせいで多少疲れた顔ではあるが、空元気をだしているようで表面上はいつも通りだ。


「ははは……名前呼ばれた直後じゃん。少しくらい大目に見て欲しかったね。返事したのにさ」


「あの熱血バカにそんな気の利いたことできるわけないだろ。まっ、彼女に慰めてもらえや」


 と、机に突っ伏す私の背中をバシンと叩いて教室を出て行く。

 で、入れ違うようにやってきたのは、


「有伽ちゃ~~~~んっっ!」


 やっぱり来たよ、来ましたよ。

 巷で噂の生ける伝説。

 話題沸騰中の同性愛に生きる日本人形、上下真奈香。

 人形顔負けの可愛さと母性的優しさを私にだけ向けてくるおっとりさん。


 男性からの人気も絶大。

 男子間で秘密裏に行われている裏美少女コンテスト上位キープのツワモノだ。

 一位と言えないのは上級生には樹翠雪花さん、下級生には……ええと、鹿鷹聖良さん……だっけか?

 この三人が同点一位を勝ち取ったせいだ。


 ま、つまりそれだけ美人さんだというわけだ。

 男達から言わせれば同性愛者などオプションに過ぎないのだとか、どんどんアタックしては真奈香に断られている。


 だって、彼女が好きなのは、私ですから……

 ああ、無常。泣けてくるよ本気で。

 真奈香を手に入れる為だけに私に告るとかいうツワモノも数人いたけどしっかり断りました。

 一気に二人ゲット計画とか、ふざけんな。とくに紫村勝也。


「今日も元気だね真奈ちゃん」


 周囲では認知されているものの、私は間違っても百合世界に足を突っ込む気は全く無いのだ。全く無いのだが……

 真奈香とは馬だけは合うので一緒に居ることは確かに多い。

 いわゆる竹馬の友という奴だった。


「えへへ~。また有伽ちゃんと一緒だもん。幸せいっぱい夢いっぱい~」


 本当に幸せそうに顔赤らめて虚空を見つめ、トリップ開始。

 彼女の脳内では私との甘い生活が繰り広げられているらしい。

 人権侵害で訴えれないだろうか?


 彼女は、つい最近まで勝也ちゃんと同じ病院で入院していたのだが、妖のおかげで回復力が高く、勝也ちゃんよりも早く退院した。

 その後はもうこの調子でいつまでもハイテンションだ。


 彼女も妖使い。妖は【茶吉尼天】。

 欲望は心臓を食べることである。

 最近は連日モツ鍋を食べまくっているそうだ。そのうち太らないコツでも聞くことにしよう。


「有伽ちゃんは疲れてるね、どうしたの? 髪も変わってるし、イメージチェンジ? それとも失恋? 私がいるよ~、有伽ちゃん随時募集中ですよ~」


「あ~、真奈ちゃんは知らないよね。母さんが三年振りぐらいに略奪に来なすったんですよ。朝の三時に……」


「三時は……災難だったね」


 お気の毒様と困った表情でべたべた引っ付いてくる真奈香さん。

 表情と行動が別々だ。


「んで朝ぎりぎりに起きることになって髪留め見つからなかったからこの状態」


 私の頭を撫でつつ、屈み込んで胸を押し付けてくる……って、待てい!?


「いいよ~、私の胸でよければいつでも泣いて~」


「泣くかぁ――――ッ!!」


 ガバリと身を起こし真奈香を離す。


「やぁ~、有伽ちゃんが怒った~よっ……じゃあなくて、うぇ~……あぅん!?」


 少し前まで、もう一人友人が居た。

 でも真奈香が入院した事件で行方不明になり帰ってこない。

 真実を知っている私には、彼女が二度と姿を現さないだろうことは明白だったけど、やっぱりその子がいたという事実。

 パターン化してしまった私たちの生活からは、今も彼女の存在は抜けきっていなかった。


 だから、ついいつもみたいに後ろのその子によろけようとして、慌てて踏みとどまろうとする真奈香を、いかに滑稽に映ろうとも笑っちゃいけない。

 んでも結局バランス崩して尻餅ついた真奈香に、私はついつい噴き出した。


「あ~、有伽ちゃんひどい」


「あはは、ゴメンゴメン。ほら、手貸すから」


 苦笑しながら手を差し出した瞬間、真奈香の瞳が輝いた気がした。


「有伽ちゃんもおいで~」


 茶吉尼天の力で強化された腕力で、強引に引っ張られる。

 耐えることなんてできるはずもなく座っていた椅子もろとも横倒しにされ……ッ!?

 それは……きっと偶然の事故だった。


 雑然としていた教室に沈黙が落ちる。

 ついで、嵐のような大歓声。

 皆が見ちゃった衝撃映像。禁断の園。私と真奈香のキスシーン……

 私の消したい記憶ワーストテン、ファーストキスを押しのけ堂々一位を飾る名場面だった。


「ご、ごめん有伽ちゃ……」


 ……しばらく一人にさせてください。

 無言で椅子を直して机に突っ伏す。

 それからの授業、机を涙で濡らすことしか私にはできなかった。


 てかさ、ファーストキスもサードキスも真奈香ってどういうことよ?

 しかもセカンドキスの相手も女性だったし。

 誰か、カッコイイ男の人よ、私の穢された唇を奪ってくれぃ。

 ……ちくしょう。ああもう、ツイてない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ