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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第一節 青巻紙赤巻紙
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最悪な一日の始まり

「おい~~~~っす皆の衆ぅ、帰ったぞぉ~~~~っ!」


 早朝三時くらいの頃だった。

 近所迷惑はばからない陽気な声で鍵掛けたはずの玄関から思いもかけない闖入者。

 懐かしくもあり忌々しき思い出しか浮かんでこないその声に、私は慌てて飛び起きた。


 パジャマなうえに寝癖でボサボサな頭で急ぎ出迎える。

 土間へ無造作に靴を脱ぎ捨て酒瓶散らばる廊下に入ってきたのは……10代くらいの少女だった。


 訂正。

 私と同年の中学生くらいに見えるかもしれないけどすでに40過ぎてるオバサンこと、我がお母様だ。

 顔……ってか体中真っ赤でベロンベロンに酔っ払っていらっしゃる。


「あ~坊、久しぶりぃ~。イェイ! あひゃひゃひゃひゃひゃ!」


 などとピースサイン付きで大声上げて笑い出す。

 何が楽しいのかわからないが、この酔っ払いの奇行は今に始まったことじゃない。


「また奇妙な笑い声だして、たまには静かに帰って来れないかな……全く」


「あにぉ~っ。あたしゃ~静か静かしずかちゃんですよ~。物静かな良い子ちゃんですよ~たひゃひゃ」


 廊下で突然倒れこみ、くるりと反転。

 仰向けになると一升瓶転がる冷たい床に寝転がった。

 ダメだ……もうコイツは救えない……


「とにかく部屋まで歩け。ほら、家が酒臭くなるじゃない」


「気にすんじゃないわよ。これ以上臭くなったって人間様にはわからんのですよお~」


 確かに、ダメ親父が年がら年中酒浴びるように飲んでるせいで家の臭気は極限まで高まっていた。


「ボクも母さんも【垢舐め】でしょ!」


 だけど私も私の母さんもただの人間とは違う。

 【垢舐め】の能力を持つ妖使いだ。

 【垢舐め】は犬には及ばないまでも鼻が利く。

 つまりこれ以上の臭気という奴にも反応してしまうわけだ。


「あ~そうだったそうだったぁ~ひゃひゃひゃ。一本取られたねぇ~うひゃひゃひゃひゃ~」


 笑いながらコロコロ転がる母さん。

 たった一瞬まばたきした間に、高鼾で寝入ってしまっていた。


「ああぁっ、もう、こんなとこで寝てっ!」


 早朝に叩き起こされたと思ったらコレだ。

 これじゃ母さんをベットに運ぶために起こされただけみたいだ。

 ……と嘆きながらもしっかりと母さんの両脇抱えて引きづってる私が居るわけで……


 私、高梨有伽は14歳。中学生活満喫中の在学生なわけですよ。

 母は放蕩、父は痴呆の崩壊した家庭で健気に頑張る一般ピーポー。

 お気に入りのプチツインテールにちょっと飽きてきたり、ダイエットに失敗して一キロ太ってショック受けてる女の子。


 ただ、普通の人と違うといえば……

 変な能力に覚醒してしまった妖使い。

 妖使いっていうのは俗称で、普通の人間には扱うことが出来ない特別な能力を使える人間のこと。

 ついでに三大欲求の食欲、睡眠欲、性欲に匹敵するもう一つの欲求を開花させてしまった困ったさん。


 例えば、私は垢舐めの妖使いなわけですが……

 能力といえば舌がバカ長く伸びること、知覚感覚が機敏になり、病気にかからなくなるほどの抗体ができる。


 垢舐めとは、昔いたと噂される妖怪の名前であり、夜中にこっそり、きったない風呂を舐めて掃除し、何時の間にやら消えている。っていうよく分からない生物だ。


 で、その妖怪に能力が合致するため私は垢舐めの妖使いとして認定されている。

 専門家によれば垢を舐める際に毒性があるものや細菌なども一緒にこそぎ取るため、体内の良性ウイルスが進化しているから風邪を引かないんだとか。


 んで、っと。話は戻って、垢舐めの欲求といえばただ一つ。

 ズヴァリ、垢を舐めることっ!

 ……とはいっても、人には理性というすばらしいものがありますもんで、寸前で思い止まったり、自分の垢で我慢したり……

 まぁ、ときどき我慢できなかったりもするけどさ。


 そんな感じで、すばらしい力を手に入れる代わりに金積まれたって返品したい欲ももれなくついてくる。

 それが妖使いなのだ。


 泥酔物一号を酔い潰れて居間で眠っている親父……泥酔物二号の横にお供えして、ようやく自分の部屋に戻る。

 うぅ……完璧目ぇ醒めた。


 大きな欠伸を噛み殺しつつベットに戻る。

 二度寝だ二度寝。おやすみぃ~。

 お約束を覚悟しつつ、私は一時間後、ようやく眠りについた。




「あ~ひゃひゃひゃひゃひゃっ!」


「な、なんですかぁっ!?」


 謎の笑い声に、私は思わず跳ね起きた。

 パジャマのまま出て行くと、親父と母さんが居間で笑いながら大酒かっくらっていた。


「あ、朝っぱらからデキちゃってるよ泥酔物一号二号……」


 軽い頭痛を覚えて、私はため息を付く。


「な~に言ってんのよあ~坊。もう昼だってのに朝っぱらはないでしょぉ~よぉ」


 ……え? 昼?

 一瞬で目が覚めた。

 一目散に部屋に駆け戻る。


 酒瓶にけっつまづき、まだ残ってる紙パック踏み潰し、部屋に入った瞬間、目覚まし時計を掴み取る。

 時刻、八時ジャスト……

 安堵のため息とともに体中の力が抜けた。


「あっひゃひゃひゃひゃ~騙されたぁ? にひゃひゃひゃひゃっ!」


 開け放たれたドアから聞こえてくる楽しそうな笑い声が殺意を誘う。

 ……っと、母さんに恨み覚えてる暇は無かった。

 急いで学校行く用意をしないと。

 まだギリセーフだ。思い立ったら即行動。


 私は鏡台を前にして髪をゴムで……ゴムが見当たんない。

 昨日どこ置いたっけ?

 ああもう、こういう急ぎの日に限って失くし物がでるんだからっ!

 めんどいし髪はもうこのままでいいや。


 制服着替えてなぁんも入ってないカバンを掴み、顔と足を洗って髪を整え準備完了!

 足から酒の臭いがしていないことだけは念入りに確認しておいた。


「いってきま~っす」


 朝一番からほんと運の悪いこの日。

 私を取り巻く全てのことが変わってしまうほどに最悪な日になるなんて……一体誰が想像できただろうか?

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