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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第六節 紫鏡
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さよなら、お姉ちゃん

 結構猟奇的になってしまった気がする……orz

 みんな気を付けて、奴は容赦な……い……

 腹にめり込んだそれに、思わず意識が飛びそうになった。

 今までとはケタ違いに強力な一撃、まるで腹の中の全てが破裂したかのような痛みとともに熱い何かがこみ上げる。


 ゴボリと赤い液体を吐いてその場に崩れた。

 そのまま前のめりに倒れようとした私の頭に第二撃が襲い掛かる。

 間近でスターターを鳴らされたように頭が揺れる。

 それだけで……たった二度の攻撃で私はもう……立つことなど出来なかった。


 頭では自分が立ち上がって良智留を倒す景色を思い浮かべれる。

 でもいくら脳内で上手くいったって、現実では良智留の一人勝ち。

 隊長は今だ身動き取れないで居るし、翼と前田さんはここでは役に立たない。


 真奈香は捕まって、私は奥の手まで出し切ってこのザマだ。

 それに、触手に捕まっていた大倉道義、留々離さん、伊吹さんの三人は……すでに鏡の中へと引き込まれてしまっていた。


「私に優しゅうない世界なんて入らんっ。こんな世界消えてまえばいいんや。私はこの世界全て恨んでやるっ。私を助けへん人類なんて破滅させて……」


「ねぇ、お姉ちゃん……」


 朦朧とした意識の中、私にトドメを刺そうとした斑目良智留に声がかかった。

 ぼやけた視界の片隅で、ようやく重い腰を上げた誰か。

 冷たく鋭く。何者にも浸透する切っ先のような声……


「なに? 稲……」


 面倒くさそうに振り向こうとした良智留。

 生暖かい赤が私の顔にかかった。


「な? え……?」


 赤く染まり見にくくなった視界の中で、誰かが戸惑いの声を発す。


「お姉ちゃんは全ての人を許さないって言ったよね? 自分を助けなかった……って」


 真紅の視界の中で、良智留の後ろに立っていた稲穂が無邪気に笑う。

 けど、次の瞬間、その仮面から覗く果てしない憎悪の瞳。


「ふざけないで」


 赤の視界の中で一線。赤い煌きが走った。

 目の前にいた人間の右手が宙を舞った。


「誰も助けなかったんじゃない。お姉ちゃんは……お前は自分から、助ける者を遠ざけたのよ」


 慌てるように鏡に向かい逃げ出す良智留。

 稲穂は一歩も動かず腕だけを微かに振るう。

 左足を失ったヒトガタが無様に倒れた。


「大阪城のこと覚えてる? そう、母さんと父さんが死んだ場所。お姉ちゃんは考えなしにどこかへ行って、迷子になって、それをまだ何も分からず付いてきただけだった私のせいにしたよね?」


 稲穂が再び右手を振るう。良智留の右足が飛んだ。


「ひっ……ぁ……」


「ああ、安心してよ。これは竹製のメスだから。お姉ちゃんの力で鏡化できないよ。おかしいなって思ったでしょ。ふふ……」


 左手一本で尚も鏡へと這う良智留の進路を阻むように移動し、稲穂はしゃがみ込んだ。


「お姉ちゃんはいつも自分勝手。自分の責任は一切棚に上げて、失敗は全部他人に押し付けて……聞いたよ雨宮さんから」


 後ろに下がろうとした良智留の左腕を切り落とす。

 もう、彼女には移動手段がなくなった。

 それでも良智留は体を使って芋虫のように鏡に向かう。

 まるでそこにさえたどり着ければ生き残れるとでもいうように……


「デート……だったんだって? ちょっとジュースを買いに行っただけなのに、なんでその場で待たなかったの? なぜ……路地裏なんかに行ったの?」


 見下ろす稲穂の視線は、家族に対するような目ではなく、すでに畜生を見下すような目をしていた。


「何が恨みだ……自分から絶望しに行っただけのクセにっ」


 さらに腕を振るう稲穂。良智留の胴が二つに割れた。


「怨みは私の専売特許だ。お前のはただの逆恨み。自分の蒔いた種を他人に刈らせようとしてるだけ。見てて腹立つよ。自分の姉だからって遠慮してたけどさ。死んで……少しは頭を冷やしてきなよ」


 ぐいと髪を掴み上げ、もう自分よりも小さくなってしまった良智留の首に、稲穂は容赦なく刃を振るう。良智留の首と胴が赤い涙を流しながら別れを告げる。


「せめて首だけは、あなたの世界に送ってあげる。唯一の姉妹だから。情けだよ、お姉ちゃん」


 紅に塗れた少女は無垢な笑みを浮かべ、紫に輝くジャックナイフに良智留の首を突っ込み、何事もなかったかのように私の前にやってきた。


「何を驚いた顔をしているの『あ』?」


「どうして……姉さん……を?」


 今までずっと傍観者に徹していたはずだ。

 なぜあの場面で、この子は姉を……


「恨んでたから。私は全てを恨む者。だから誰をも殺す理由はなくて、誰かをいつでも殺さなきゃならない動機がある。あの人は……守るべきものではなくなった。変わってしまったの。だから、恨んだ。もう二度と戻らない、卑しくしたたかで、でも優しかったお姉ちゃんを……」


 稲穂は私の前にしゃがみ込み、赤色が取れ始めた私の視界から赤を拭う。


「私は『あ』も恨んでる。いつもスパッと切り殺してやりたいくらい。でもね、同時に思うの。こいつを恨むのは間違ってる。殺すべきじゃない。だから……いつも思いの狭間で苦悩する」


 立ち上がり、私に背を向ける稲穂。


「私ね、これでも結構忍耐強いんだよ。欲望には……」


 呟くような小さな声が聞こえた気がした。

 稲穂はやることは終わったとでもいうように、もう振り返ることなく去っていく。

 真奈香や隊長らしき声が私を呼ぶのが聞こえる。

 緊張の糸が切れた。

 一瞬後には、視界が一気に暗転していた……

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