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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第六節 紫鏡
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窮鼠猫を噛め

 ヤバい……絶体絶命。

 私のせいだ。

 私がぼぉっとしてたから……せっかく真奈香が助けに来てくれたのにっ。


 よっち~は真奈香から視線をはずし、隊長を見る。

 紫に染まったフィールドに踏み込めないでいる隊長を一瞥した後、私に醜悪な笑みを見せた。


 獲物に狙いをつけたハンターのように、残虐な笑みを浮かべる。

 渦巻くように足元から現れた無数の腕に神輿のようによっち~が持ち上げられる。

 車体を伝いビルの窓を伝い、私の目の前にやって来た。


「お姉ちゃん……」


 ぎゅっと自らの手に力を入れて握りこむ稲穂を無視し、よっち~は私の目の前にやって来ると、何も言わずいきなり殴りつけてきた。

 ゴッと骨の軋む音が私の中から聞こえ、頬にジンジンと痛みが尾を引いてやってくる。


「よっち……」


「私な……有ちゃんが羨ましかった」


 私が、羨ましい?


「心から気ぃ許せる親友がおるんやもん。私にはおらんかった。クラスメイトは私の名前すら満足に言えへんし、家族は稲穂稲穂。私のことなんて二の次や。彼氏は彼氏で私の言いなり。そんなん奴隷と一緒やんか」


 ゴッ

 また殴られる。左の頬が熱く痛みを帯びる。

 なんで、私は殴られてるんだろう? 私、何かした?


「なんでやの? なんでアンタみたいな妖使いに親友居って私には居れへんの? 今回みたいに危機に駆けつけて命がけで守ってくれるようないつでも繋がっているような存在がっ。なんで私だけがあんな目に遭わなあかんかった? なんで私ばっかりこんなツイてないんやっ!!」


 殴られた。

 また殴られた。

 何度も何度も殴られる。

 何もしてないのに、悪くないはずなのに、どうして私が殴られる?


「憎いっ、真奈香に愛されとるあんたがっ! 居場所のあるあんたがっ、辛い思いなんて一っつも体験しとらんあんたなんかがっ!!」


 意識が朦朧とするほどに、何度殴られたかすら分からなくなってくる。

 でも……そんな状態でも、私の思考は彼女の言葉を否定する。

 あなた一人だけが辛い思いなんてしていないと。


 私だって……私だって好きでこんな場所に居るわけじゃない。

 人の気も知らないで自分のことばかり押し付けて……友達だった真奈香まで傷つけて……家族すら……


 カチンと来た。


 敵わないことくらい分かっていた。

 敵対したところで負けることくらい分かってた。

 だけど、友達だったけど……


「あは……」


「ん? なんや壊れたんか?」


 友達だったけど……もう、我慢できない。

 潰されてしまいそうな怒りが私を包む。

 だから笑う。潰れそうな自分を、本当に潰してしまう一歩手前で踏みとどまる。


 私の目の前で沢山死んだ。

 真奈香だって死にそうになった、私だって何度も死にそうな目に合った。

 自分だって死を覚悟した。


 だから、助けたかったのだ。

 多くの追われる妖使いたちを、私が出来る限り救いたかった。

 でも、こいつはそんな思いを踏みにじった。友達すら殺そうとした。


 許せない。

 許せない許せない許せないっ!

 よっち~が、斑目良知留が許せない!

 こいつは……斑目良智留は私が倒すっ。


「あはは……」


 辛い時ほど笑えばいい。

 泣きたい時ほど、壊れてしまいそうな時ほど笑って全てを吹き飛ばせ。

 自分の守る最後の砦を自ら壊してしまわないように、もう、彼女を友達とは思わない。

 私と対峙するのは紫鏡、凶悪な……犯罪者だっ!


「なんやその目はっ」


 ゴッと右の頬に衝撃が来た。

 歯で口内が切れたのか、口の中に熱いものが溜まる。

 ペッと吐き出し、ゆっくりと立ち上がった。


「ふふ……ははは……」


 冷静に今の状況を見ている私が存在していて、しきりに私に問いかける。

 彼女は友達のはずだ。

 たとえ今はこんな状況でもきっと分かってくれるはずだと。

 また笑い合えるはずだと。


 でも、こいつは真奈香を傷つけた。

 私にとって今一番大切な存在を。

 そして私を一番大切だと言ってくれる存在を!


 彼女は言った。

 有伽ちゃんさえ居れば他は何もいらないと。

 そう言ってくれた彼女を、私の大切なものを傷つけた。


 だから……

 切り離された理性を無理矢理押さえつけ、私は両足を踏みしめる。

 幸い捕まれているのは右腕だけ、手はある。


 奥の手はいつもここ・・にある。


「なんやねん? 何が可笑しいんやっ!」


 飛んできた右手を左手で思いっきり払う。

 出来た隙は一瞬、でもそれで十分だ。


 ヒュッ


 筒から吐き出される吹き矢のように、私の奥の手、尖った骨を良智留向かって吐き出した。

 口から吐き出された白い点が、果たして良智留には見えただろうか?


 敵わないならばせめて一矢報いる。

 どんな弱い妖使いだとしても窮鼠猫を噛むのだと、その無知な頭に叩き込んでやる。

 私ができるのがそれだけだとしても十分だ。


「ぎっアガアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ」


 獣の咆哮かと思うほどの痛みによる絶叫。

 思わず右手の拘束も弱まるほどに、痛みが彼女に襲い掛かる。

 右目に深々と刺さった骨を押さえ、その場でのた打ち回る良智留。


「同情はする。でも、あなたは真奈香を傷つけた。命を無慈悲に奪った。皆の好意を踏みにじった! 私は、例え殺されてもあなたを許さないっ!!」


「何が……私は許さないやっ! よくもやってくれよったな有伽ァァァッ」


 稲穂のナイフからでた紫の腕が拳を振い飛び掛る。

 満足に動く事も出来ない私が鋭い一撃を避けることなど出来るはずもなかった。

 かつてない衝撃が襲いかかる。


 ――あ、無理だ……コレ……

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