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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第六節 紫鏡
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九死に一生そして絶体絶命へ

 え……何……これ?

 あまりの驚きに声が出なかった。

 私の眼下には、紫に光る車の山と、車体から突き出た無数の手。


 伊吹さんの足を掴み、留々離さんの髪を引っ張り、大倉道義の足を引き込む紫の腕。

 間一髪難を逃れた隊長は地面に着地して、稲穂は手短にいた翼と前田さんを抱えて私と同じ高さのビルの屋上に避難していた。


 そして私は……

 視線を私を抱えてくれた人物に向ける。

 なぜこの娘がここにいるのだろう?

 どうして、病院にいるはずの真奈香にお姫様抱っこされているんだ私は?


「真奈……ちゃん?」


 私の呟きに笑顔で頷く。

 まるでもう大丈夫だよと言っているようだった。

 真奈香が男だったらまず間違いなく惚れ込んでるよ私。

 不覚にも一瞬ドキッとしてしまったし。


「胸がね……モヤモヤしたの。心臓が鷲掴みにされたような嫌な感覚。有伽ちゃんに何かあったんじゃないかって心配で、病院飛び出しちゃった」


 えへっと花を咲かせるような笑みを浮かべ、真奈香は私から視線をはずす。

 視線の先はよっち~。その視線は今までの親友に向ける友愛の瞳じゃなかった。

 まるで仇敵を見つけたように、険しく鋭い。


「あれ……よっち~がやったの?」


「うん。認めたくないけど」


 すでに伊吹さん、留々離さん、大倉道義までをも鏡の中に取り込んでしまったよっち~が見上げてくる。

 視線を向けた真奈香と目を合わせた。


「真奈ちゃん……あんたも来たんやな。あんたとは一番小さい頃からの付き合いやったなぁ」


 思い出を懐かしむような顔をして、クックと笑う。


「よっち~……有伽ちゃん殺そうとしたね。たとえ友達でも……」


 私をビルの屋上に下ろし、真奈香が宙に舞う。

 その姿は可憐に、優雅に、宙へ羽ばたく。

 されど見るものの背筋に悪寒を走らす怒りを浮かべ……駆ける。


「私から有伽ちゃんを奪う奴は許さない。その心臓、抉り出すっ!」


 宙をまっ逆さまに駆け下りる真奈香。

 それは自然な落下ではなくて、【空の遊歩者】たる茶吉尼天の特殊能力。

 坂を駆け下りる如く一直線によっち~へと辿り着く。


 真奈香は今、文字通り空を駆けていた。

 空を駆け紫鏡の有効範囲外から、よっち~の心臓めがけ右手を突き出す。

 一瞬早くバックステップしたよっち~、そのまま背後にあった車体から鏡の中へ。


 真奈香の着地点へと両手のみが出現するが、真奈香は接地せずに大空へと駆け昇る。

 さすがに空の真奈香を鏡に取り込むのは無理と見たのか、再度フロントウィンドウから姿を現したよっち~は面白くないといった表情で真奈香を睨む。


「あのね真奈香。こっちには人質ってものが居るんよ? 私の姉と彼氏と犯罪者だけど」


 安易に攻撃してくるなという意味合いが込められていたようだが、真奈香はニタリと笑う。


「私にとって大切なのは私の有伽ちゃんだけ。他の人のことなんて……知ったことかっ」


 真奈香の体から分離するように飛び出す半透明の獣が一匹。

 猛スピードでよっち~を急襲し、慌てて飛びのいたよっち~の眼前を大口開けて通り過ぎていった。


 あれって確か……茶吉尼の乗り物と言われてるジャッカル……って、うをいっ!? 真奈香さん!?

 今さらっと物凄いことを言っとりませんでしたか!?


 初めて焦燥を浮かべたよっち~の目の前に、対峙するように四足の化け物が立ちはだかっていた。

 ジャッキーくん(真奈香命名)は後ろ足で地面を蹴るような動作をして突撃のタイミングを図る。


「へぇ、『ま』って結構強いんだね。ちょっと関心」


 私の横にやってきた稲穂が真奈香を見ながら呟く。

 その左手には鈍く光るナイフが握られ、まるで戦場に突入する準備でもしているようだった。


 すぅっと息を吸い込む真奈香、力を溜めるように空中に停止し、一瞬後、地を蹴るように一気に駆け下る。

 真奈香に反応するようにジャッキーくんも力を溜め、大地を蹴る。


「このっ……」


 よっち~の舌打ち。

 ジャッキーくんが猛り吼え、大きな口を開いて襲い掛かる。

 よっち~はこれを寸前で横に避け……そこで表情は完全に恐怖に染まった。


 空中から飛び掛る真奈香。

 その表情は私からは見えなかったが、どれほど相手に恐怖を与えたかは想像に難くない。


 真奈香が手を伸ばす、よっち~は身を固くして動けないでいるようで、勝負はすぐにでも決ま……

 真奈香の腕が体に触れるか否かといったところで、不意によっち~がニタリと笑った。

 危険を察知して思わず手を止める真奈香。


 「チェックメイトや、真奈香……あんたの弱点、貰うで」


 ビクンと私に怖気が走る。

 稲穂が私の右手を掴む。私の……右手を?

 あれ? 稲穂はまだ二人を見てて左手にはナイフが握られてるのに……どうやって? どうやって私を掴んだ?


 恐る恐る視線を自分の右手に向ける。

 私の腕を掴んでいた腕は細長く、紫色をして……稲穂の握る紫色に光る刃から突き出ていた。


「あ、有伽ちゃんっ!?」


 悲痛な真奈香の声で我に返る。

 横にいた稲穂もさすがにこれは驚いたのだろう慌てて手からナイフを取り落としていた。


 だけどナイフからでた腕は私を捕まえたまま、ナイフの中へと引きづり込もうとゆっくりと中へ沈んでいく。

 稲穂が慌てて新たなナイフを手にして切りつけるが、紫の腕は切り裂いた先から再生する。


「有伽ちゃんっ!」


「余所見してんなや! あんたに余裕なんてあらへんのやっ」


 私に意識を回した真奈香の隙を付き、車体から飛び出た紫の腕が殴りつける。


「うぁっ!?」


 殴り飛ばされた真奈香は車体の山に体をぶつけ真下の大地に転がり落ちる。

 しかし地面に着くことは無く、ボンネットから飛び出た無数の腕に体を捕まれ身動きを封じられた。

 能力に変更があったので。


 名前:  上下うえした 真奈香まなか

 特性:  有伽一筋百合属性

 妖名:  茶吉尼天(元斑鳩入鹿の妖)

 【欲】: 心臓を食べる

 能力:  【空の遊歩者】

       空を自由に歩く、または駆けることができる。

      【身体強化】

       心臓を抉り取るために身体が強化されている。

       人間の肉体なら初速度無しで突き破れる。

      【ジャッキー君】

       精神体を作りだすことができる。

       ただし、操作は作りだした本人に依存する。

      【死期悟り】

       知人の死期を知る事が出来る。

       この能力は本人の関心度に依存する。

       このため有伽の危機だけを敏感に察知する。

      【死を見取る者】

       相手に触れる事で相手の死に際を知ることができる。

      【不幸体質】

       この妖に目覚めた者は知人の死を遠ざけるため、

       自身の幸運を相手に分け与える。

       (真奈香の場合この能力が有伽に付加される)

      【不幸逆転】

       近しい者が死ぬ一日前後、

       不運な運勢が逆転し超幸運になる。

      【同族感知】

       妖使い同士を認識する感覚器。

       個人によって範囲は異なる。

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