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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第六節 紫鏡
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劣勢

 基本的には鏡に入る直前を狙って前田さんが鏡を振動で破壊。

 鏡に半身を浸かったよっち~は身体を分断されてこの世界で死を迎えることになる。

 これで簡単に抹消できるらしかった。


 私としてはそんなモノは見たくないのだが、さすがにこの状況は想定外だったらしい。

 なにせ廃車の山にあるミラー関連はほぼ破壊され盗難されているので、紫鏡の能力が使えないと思われていたのだ。


 だが、紫鏡の能力は、予想の斜め上を行っていた。

 ここにある鏡は車のボディだったのだ。

 共振で破砕するには強力な振動が必要で、しかも周りに被害甚大。


 加えて時間も一つ破壊するのにかなり要する。

 つまり、反応の鈍い人が行うモグラたたきと同じなのだ。

 よっち~が現れる車のボディが山のようにあるこの場所では彼女の力は全く意味を成さないということでもあった。


 つまり前田さんの攻撃は当てに出来ないということ。

 そして唯一戦えそうな、釣瓶火の隊長も、私たちを守るので精一杯のようだ。

 もう一人、よっち~が鏡に入るより早く切り刻む速度を誇る斑目稲穂は動こうとしていなかった。


 そんなことだから、車から飛び出るようなよっち~の腕に掴まれた留々離さんの裾をひっぱり込まれる寸前で引きちぎった隊長一人が戦っていた。

 一人奮戦していると言っても防戦一方なのは仕方ない。

 巻き戻す能力が使えても、向こうの世界に引き込まれれば意味を成さなくなってしまうのだから。

 そして、ここには足手まといが多すぎた。隊長の特性が全然発揮できてない。


 翼もすでに足手まといだ。

 どんなに背後に気配を見せても、その背後から鏡を使って見ているよっち~には翼のテケテケは全くの無意味。

 私たちと同じように掴まれた足を隊長に助けられて邪魔になっていた。


 足手まといだらけがいる中での孤軍奮闘。

 普通に戦えばおそらく善戦。悪くても決着付かずのはずなのに……

 ふいに、隊長のバランスが崩れた。

 よく見ればボンネットに片足が沈みかけていた。


「チッ」


 隊長、初めての舌打ち。

 一瞬後には地を蹴って別の車体に飛び移っていた。

 沈み込んでいたはずの足は無傷で別の車のエンジンカバーを蹴りつけ、よっち~に向かっていく。


 ただ、やはり靴のかかと部分が少し消えていた。

 ボンネットに取り込まれた部分だ。

 巻き戻したのだ。時間を……


 隊長の力の本領は、自分に関わる事柄はほぼ無限に時間を巻き戻せるということ。ゆえに無敵。

 一瞬で隊長を気絶させるか、あるいは即死させる以外に彼を倒す術はない。しかし、それでも隊長は劣勢だった。

 向こうの世界に取り込まれれば釣瓶火の能力が及ばないというのはそれほどにハンデのようだ。


 私たちのフォローはもちろんのこと、気を抜けば今度は自分が鏡に取り込まれる。

 もしも、本当にもしもの話だが、鏡に誰かが取り込まれた場合、それも隊長が取り込まれた場合釣瓶火の力が使えなくなる可能性がある。そうなれば、向こうで抗う事もできず、隊長を失った私達は敗北するしかないだろう。


 紫鏡の中の世界に時間軸は存在するのか?

 それこそが隊長を苦戦させる原因だった。

 遠藤高男が紫鏡に取り込まれた時のこと、翼が釣瓶火を使えと提案したが、隊長は「もう使った」と答えたのだ。


 もう使った。つまり時間を巻き戻した。

 しかし後に聞いた話では、紫鏡に半身を取り込まれた遠藤高男は半身だけしか戻らなかったという。そのため巻き戻しを諦めたそうなのだが……

 ようするに、すでに紫鏡に取り込まれた遠藤高男の半身は、この世界の時間軸とは別の時間軸を彷徨っていることになる。


 いくらこちらの時間を巻き戻そうと、別の次元にある半身にまではその効力が及ばない。

 時間を巻き戻せないということだ。

 巻き戻した時間についてこられず、その場所だけ、初めから無かったモノとして世界に認識されてしまう。


 取り込まれる寸前ならまだ助かる。

 でも……もしもちょっとでも取り込まれてしまったら……

 今の隊長や私の靴底のように、一部分を欠落させた状態になってしまうのだ。


 かつてない不安と恐怖が隊長を鈍らせ、隊長の背負うハンデに拍車をかけていた。

 対するよっち~は余裕の表情。

 優位についているため当然といえば当然だが、まるで私たちに勝利したとでも言いたそうなその表情からは、まだ手の内があるといった印象を受ける。


 奥の手なら私にもある。

 あることにはあるが、果たしてそれがよっち~に対して有効かどうか……

 この広場に来る途中、すでにコンビニでセット済みである私の奥の手。


 ただの骨を舌で削って尖らせ、吹き矢の要領で敵に投げつけ怯ませる。

 上手くいけば失明程度にはなるだろうが、いかんせん致命傷を負わせることは不可能に等しい。


 隊長のピンチを救うにしてもチャンスを作るにしても、たった一度きりなので発射のタイミングも難しく、まさに一撃必殺……いや、必殺にもならないか。

 決定打にかける私たちは防戦一方。もはやどうしようもなかった。


「そろそろ、ケリつけよか」


 ニタリと、よっち~がさらに醜悪な顔になる。

 刹那の後、全ての車体が光りだす。


「これは……」


「いけない、車から離れてっ!」


 隊長の呟き、稲穂の警告。浮き上がる私の体。

 一瞬。たった一瞬、全ての車が紫で染まった。

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