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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第五節 塗壁
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百眼鬼捜索

 留々離さんに連れられて、私たちは寂れた裏路地を歩いていた。


「でも……本気なの稲穂ちゃん?」


 横をさも当然のように歩く稲穂に、私はついそんなことを言っていた。


「な、何が?」


 若干私を見る目に怯えが浮かんでなくもないけれど……キョトンとした目で何を言っているのかと聞いてくる。


「グレネーダーに入ること」


 よっち~をグレネーダーに入れることを条件に、稲穂は自分がグレネーダーに入ると言い出したのだ。

 本人曰く、お前には任せておけないよ『あ』。ということらしい。


「別に、何もない部屋暮らしも飽きてきたし。それにもう何年も人を切ってないから欲求不満なの。ほら、『あ』のいる抹消部隊って殺害の専門でしょ」


「え……と」


 言葉に詰まる私に、稲穂は屈託のない笑みを見せる。


「あのね『あ』。私って結構我慢強い方だから安心して。それより部隊に入る入隊試験のこと教えてくれると嬉しいかも」


「あのなぁ、いくらガシャドクロだからって調子乗ってんじゃねぇぞテメェ。テメェみたいな快楽殺人者がグレネーダーに入れるわきゃねぇだろ」


 翼の言葉に憤慨と共に振り向く留々離さん。

 その留々離さんより早く、翼の喉元に押し付けられるジャックナイフ。


「一応、同業者になるかもしれないから殺さないでおいてあげるけど……私がその気になれば、お前を殺すのに一秒もいらない」


 あまりの早業に反応できたものはなく……って隊長なんか手帳見たまま放置してるし。

 当の翼は遅れて来た冷や汗が全身に吹き出ていた。

 因縁吹っ掛ける相手は選ぼうね、翼ちゃん。


 それにしても、いつの間にやら団体さんになってる気がするなぁ。

 こんな大勢で行ってもいいんだろうか?

 というか、今日はほとんど家に帰ってないような。


 親父の食事最近手抜き気味だからなぁ。

 栄養失調になってないか心配だね。

 といっても戻って食事の支度したり出前を頼んであげたりはする気ないんだけどね。


 おっと、ついつい現実逃避していたよ私。

 稲穂がナイフをしまうのと同時に我に返った私は、思わず被りを振って親父の事を頭から遠ざけた。

 まぁ、困ったら勝手に裂きイカでも買ってきてるでしょ。


 蜘蛛の巣状に広がる路地裏はじめじめとしていて、おまけにいろんなものが散乱しているので歩きづらかった。

 残飯がぶちまけられた場所や人一人がやっとこ通れるような隙間を通り、やがて着いた場所は……


 目の前に広がるガラクタの山に、私は呆然と頂点を見上げるしかなかった。

 そこは車の墓場とも思えるほどに廃車が積み上げられて出来た山で、一つ二つ……三つほどの山が出来ていた。


 バンパーやマフラーといった単体のものから、まだ動くんじゃないだろうかと思える高級車まで、埋もれるように積み重なった見る人が見れば宝の山。

 路地裏の一角に位置する空き地に、その遺棄所はあった。


「ここに……居るの?」


「絶対居る。ウチが信用でけへんか有やん」


 むすっとした顔で振り返る留々離さん。思わずしどろもどろで返してしまう。


「え? いや、そういうわけじゃなくて……」


 言いつつ、今までが今までだけに私の中に留々離さんへの信用という二文字は確かになかった。


「留々離の有やんに対する好感度が73下がった」


 えうっ!? いきなり好感度イベント発動ですか!?


「ち、ちょっと待ってくださいよ留々離さ……」


「留々離の有やんに対する好感度が85下がった」


「いや、ていうか……」


「留々離の有やんに対する好感度が82下がった」


「その……」


「留々離の有やんに対する好感度が90下がった。これ以上下がりそうにない」


「好感度ゼロッ!?」


「ちゃうで。マイナス273。こっちの信用が無しや」


 絶対零度ですかっ!?


「そんなっ。好感度上げなきゃ。翼、何かいい方法はないっ」


「いや、つーかよ高梨。お前ってやっぱり女に好かれたいのか?」


 なぜか少し白い目で見てくる翼。


「あれま有やん、真奈やんの次はウチ狙いなん?」


「だぁぁっ! こんな時までボケないで下さいっ。ボクは百合な世界に足を突っ込む気はありませんっ」


 いつのまにか留々離さんの策略にのってボケに付き合ってしまっていたようだ。

 一応、彼女なりに周囲の暗い雰囲気をなくそうとしてくれているようだ。

 気遣いなんだろうけど、私を巻き込まないでくださいっ!


「かなんな~。せっかくウチが血みどろ流血な場面の前に憩いの一時をやな……」


 それはいいですが留々離さん。

 翼以外誰もこっちに構ってくれておりません。

 むしろ手分けして大倉道義を捜索していらっしゃるのですが、私どもはここで一体何をしているのでしょうか?


 問いただしたい思いを胸に秘め、私は手短な車のウインドを覗く。

 ふむ、さすがに一回目から見つかるとは思ってなかったけど……こりゃ見つけるのは相当な骨だね。


 まぁさすがにこの辺りに鏡なんてないだろうし紫鏡は……あ、サイドミラーにバックミラーがあるんだっけ……

 とはいえそういった鏡類は再利用が出来るのか、心無い方々がせっせと盗掘しているようで、どの車にもサイドとバックのミラーは取り外されていたり、壊されていたりするわけだけど……だからといってよっち~が現れないと決まったわけじゃない。


 最悪な話、私たちが大倉道義を見つけた時点で奪い取りに出てくることも存分にありうる。

 それを見越して、私たちは大した会話をすることなく捜索をしている。


 ようするに大声で大倉道義~と探したりしようものなら対象が逃げかねないうえに紫鏡に居場所を知らせてしまうというデメリットだらけなのでおしゃべりしながらの捜索は却下なのだ。


 隊長を初めとして伊吹さんまでが手錠をはずして捜査に参加していたりする。

 そんな私も次の車を探さそうとして、ふと、今覗いた車に違和感を覚えた。


 いくらなんでも車内に逃げ込んでるだけなどという愚の骨頂を実行するだろうか?

 追い詰められた時、人ってだいたい狭くて見つかりにくい場所に逃げ込むんだよね。


 稲穂に頼んでドアを切り取ってもらい、運転席の椅子の下にあるレバーを押す。

 ボコンと音を立てて開くエンジンルーム……後ろの荷物入れと間違えちゃったい。


 失敗失敗と前に回って、少し開いたなんていうんだっけエンジン入ってるとこ? まあいいか。

 一度ガバリと開いて勢いつけて閉めようとして……お互いに目が合った私と道義だった。

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