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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四節 餓奢髑髏
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部下に良いとこ見せようと知ったかぶっていた人

 タライによっち~が消えた後、お爺さんは気が抜けたようにその場にへたりこんだ。

 私も小林さんも何も言えずにその場に突っ立ったまま、既に十分は経過したと思う。


「高梨ーっ、小林先輩っ!」


 正門からやってきた翼と前田さんが来るまで、私たちはなんとも言えない空気の中に投げ出されたままだった。


「どうしたんだこりゃあ?」


「志倉君。斑目留々離さんはどうだった?」


「全く駄目だ。聞く耳なんぞ持ちゃしねぇ」


「閉め出しされてぇぇぇ会えまぁせぇんでしぃたぁあぁ」


 前田さんは相変わらず寒そうだった。

 小林さんは思案するように目を瞑り、眼鏡に手を当てると、一人で何かを納得したように頷いた。


「さて……決雪さん、良知留さんの今の状態を見てもまだ我々に協力してはいただけませんか?」


 目を瞑ったまま小林さんがお爺さんに尋ねる。

 なるほど、留々離さんに説得してもらうのをあきらめてお爺さんによっち~を説得してもらう気だ。


 もし、無理でも、お爺さんの口添えがあれば留々離さんの協力も仰げるかもしれない。

 そういうことなら私もできるだけ手助けしましょう。


「おじいさん、ボク達もよっち~が手を汚すのをこれ以上見たくないんだよ。ボク、できるだけよっち~の罪を軽くできるようにがんばるから。お願いです、協力してください」


 詰め寄るように願い出る。

 お爺さんはやや困った顔をしながら、はっきりと応えた。


「駄目じゃ」


「そんな、どうしてッ!? グレネーダーには絶対に協力なんてしたくないってことですか!?」


「別に協力せんと言うとる訳じゃないわい。やろうと思ってもできんのじゃ」


 力なくその場に座りこみ、お爺さんは再び胡坐をかいた。


「したくともできない。ということは斑目良知留の説得が無理だということですか?」


「ワシではな。留々離もきついところはあるが口喧嘩ではいつも良知留に負けとるし、説得には向いてなかろうて。唯一可能性があるとすれば……稲穂じゃろうな。あれはほんに優しい子じゃ。それに良知留は大阪城の借りもあるでな」


 大阪城の……借り?

 それって、あの惨劇と関係のある?

 いや、それよりも……稲穂が優しい子?


「稲穂が優しい子って……どういうことですか? あの子が優しいなんて失礼だけどボクには想像付かないんですけ……」


 言葉にしてから後悔した。

 お爺さんは大きく息を吸い込み、私に向かって、


「喝―――ッ!!!」


 今までで一番強力な喝だった。

 前田さんが驚いて「ぴゃ」っと十センチ以上飛び上がった。

 翼が驚き慌てて尻餅をついていた。

 小林さんも僅かだけど足を後退させていた。

 私は……ひゃあッ!? なんて声を出しながら尻餅をつき、おまけに腰が再び抜けちょりました。


「大方大衆向けのニュースで事件を知ってろくすっぽ調べもしとらんクチじゃろうが、何も知らないまま稲穂を貶すでないわ愚童が」


 ぐどうって……初めて聞いたよそんな造語。


「とにかく、助けが欲しいんなら稲穂を捜すのが一番じゃ」


 それができたら苦労はしないって……言っても聞いてくれないよねきっと。


「さて、用は済んだはずじゃ、さっさと帰るがええ」


 と、タライを持ち上げお爺さんが私達に帰れ帰れと手を振った。

 私は小林さんにどうすべきかと顔を向ける。

 小林さんは私に気付くと踵を返して正門を指差した。つまり言われたとおりに帰ろうということだ。


「ああ、そうじゃ。眼鏡の若いの」


 お爺さんの声に小林さんが振り返る。


「なんですか?」


「知ったかぶるように言うとったがの、この小豆はチビとるわけでなくて元からコレくらいの大きさじゃ。水替えは一時間おきにいっとる。人が来れば目目連の力で門から見える前に分かるしのぅ。ついでにこれは妖使いになる前からのワシの趣味じゃ。大見得切る前に下調べはしっかりしとくべきじゃぞ若いの」


 がっはっはと大声で笑いながらお爺さんは自宅へと姿を消していった。

 ……つまり、小林さん適当に言ってただけですか?

 私はつい小林さんを横目で見る。

 居心地悪そうにさっさと歩きだした小林さんは、私を無視するように早足で斑目邸を後にした。




「しかし……斑目稲穂もそうだが、大倉道義も行方が分からないままというのも具合が悪いな」


「せっかく四人いるんですし、別々に探しにいきゃいいじゃないですか」


「志倉君、君はガシャドクロの力を見くびりすぎだ。それに百眼鬼の力も十分に分かっていない以上戦力を割くのは得策ではないだろう。でも、確かに妥当案ではあるか……」


 斑目家の塀に沿って歩きながら唸る小林さん。


「僕がガシャドクロと相対した場合、志倉君のサポートは必須。二組に分けるなら僕と志倉君、前田君と高梨君になってしまう。男女に分かれるのは論外だ。見つけた後の対処ができないからね」


「それだとボクと前田さんが危険なんじゃ? 前田さんは確かに強力ですけど、ガシャドクロに勝てるとは思えないし、ボクは足止めにもなりそうにないです」


「それでしたらぁぁぁ、一緒にぃぃぃ居場ぁ所聞きにぃぃ行こうよぉ有伽おぉおぉ姉ちゃぁあぁん」


「居場所?」


「大倉さんの居場所ぉぉぉ、知り合いのぉお兄ちゃんがぁあ病院に入ぅうぅ院してるんでしょ?」


「ああ~。でも勝也ちゃんは意識不明だよ」


 今の今まで忘れてたけど……そういえばそんな人もいたね、確かに。


「まぁ、ついでに真奈香見舞いに行っとくかな」


「うん、行こう」


「病院ですか……では前田君、ついでに彼女の見舞いをお願いできますか? 現状を見てくるだけで構いませんので」


「は~い」


 彼女? ってやっぱり小林さんの彼女? 入院してるんだ。

 結局、なし崩しに翼の案がとおる形になり、私的にはちょいと納得いかないではあるものの、前田さんと二人で病院に行くことになった。

 翼たちはこのまま町をうろついてガシャドクロないし大倉道義を捜索するらしい。


 道中楽しそうにスキップしながら震えていた前田さんは、病院に着くなり私と別れて小林さんの彼女とやらに会いに行った。

 勝也ちゃんの病室で合流するように言われたけど、二人で行けばよかったんじゃない?

 まぁ、そんなことを思っても後の祭りなので、私は前田さんに教えてもらった真奈香の病室へと向かうことにした。

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