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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三節 目目蓮
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翼と斑目家へ

 作戦会議室には、私と翼、そして隊長しかいなかった。

 すでに日は沈み、夕暮れ過ぎの薄暗い世界が窓から入り込んでいた。


「任務失敗ってか? 次から次へと妖使いが現れやがる」


 椅子を蹴り上げながら、翼が毒づいた。

 隊長は椅子に座ったまま目を閉じ、腕を組んで沈黙している。

 闇に染まりかけた椅子に反対向きに座りながら、私は大きく溜息を吐いた。


「何でこんなことに……」


 手足を投げ出すようにして、椅子に翼がドサリと座った。


「斑目のことは諦めろ。もうあいつは犯罪者だ。とびきり高ランクのな」


「翼、あのさ」


 何を思って口にしたのか……

 よっち~を助けたかったから? それとも、殺す覚悟をするため?

 大した意味はなかったと思う。全く無意識で、深く考えず。


「紫鏡って、アレだよね。あんたと同じ学校怪談系の」


「ああ、おそらく。二十歳になるまで覚えてると死ぬっていう奴だろ。俺もあの噂は結構信じてるよ」


「そうなんだ」


 納得しかけた私、でも……


「それとは別の噂の方だ」


 今まで眠っているように静かだった隊長が目を開いた。


「別の噂?」


「まず、紫鏡云々よりも紫という色自体に問題がある。紫は死を暗示する色合いで冥界に繋がっているらしい。一説にはこの紫を鏡に塗ると冥界への門になってしまうという話がある。おそらく、鏡の中は別の空間でできているというわけだ。そこから私が言えることは一つ」


 隊長が立ち上がった。


「鏡の中の紫鏡は無敵だ」


 その表情にいつもの余裕じみた無愛想さはない。隊長が焦っていた。


「支部長に報告する。高梨有伽、覚悟をしておけ」


 フルネームで呼ばれてドキリとした。

 それは、隊長がよっち~、つまり斑目良知留を抹消する覚悟を決めたということに他ならない。

 隊長が作戦会議室を後にする。


「紫鏡は前例がねぇ。そして手の打ちようがない妖使い。おそらく、Sランクに入っちまうぞ高梨」


「どうにも……ならないんだよね?」


「紫鏡次第だ。復讐だけならまだ何とかなる。隊長たちも高梨のダチだ。できるだけ助けようとはしてくれるさ。少なくとも、他の誰かを傷付けさえしなけりゃな」


 別の……誰か?


「す、するわけないじゃん。よっち~だよ? よっち~が他の誰か傷付けるなんてそんなこと……」


 思わず椅子から立ち上がって抗議する。

 でも、翼は机に足を乗せて椅子を浮かせながら私に向かって言った。


「残念だけどよ。これは経験上の人間心理だ。思っちまうんだよ。なんで誰も助けてくれなかったんだって、怨んじまうんだよ。無関係にのうのうと生きてやがる身勝手な人間どもをッ!」


 吐き捨てるように声を荒げる翼。

 それは果たして、誰の想いだったのか……

 私は分かっていた。それは紛れもなく翼自身。彼の心にできた傷。


「恨みを持つ奴が力を手にした時、復讐は対象だけにはとどまらねぇ。むしろ自分を助けなかった者たちへの恨みの方が復讐対象者よりも大きいもんだ」


 私から目線を逸らして答える翼。

 自分の心の内を吐きだしているようで恥ずかしいのだろう。


「もし、止めさせようとしたら……どうすればいい?」


「心を許している相手からの説得。それが通じねぇなら……もう無理だな。消してやるのが一番だ」


 ……私には無理だ。

 私と真奈香もよっち~の友達だ。

 でも、彼氏の名前も素性も存在すらも知らされていなかった。

 そればかりか彼女の名前すら知らなかった私たちは、はたして心を許されている、信頼されている友人だったのだろうか?


 いつも楽しく笑い合える。ただそれだけの関係。

 上っ面だけの依存関係。

 だめだ……私じゃよっち~を救えない。


「斑目家に行くしかねぇだろうな」


「だよね……」


 翼がふぁ~と伸びをした。


「しゃあねぇ。付き合ってやるか」


 そういって足を降ろし、勢いつけて立ち上がる。


「今から行くか、高梨」


「そう……だね。うんッ! 行こう翼ッ!」


 空元気を振り絞り、私は元気良く翼に答えて立ち上がった。




「んで? どうしてこんなとこに?」


 不機嫌な翼が私の前に座っていた。

 私と翼の間にはテーブルがあり、翼の前にはお子様ランチとジンジャーエール。

 私の前には死神ラーメンとアイスティーが置いてある。


 私たちがどこに居るかって?

 そう、ここは常塚さんの勤めるファミレスだった。

 翼の奴、不機嫌な顔してても頼むのだけはしっかりと頼んでるし。


「元気出したらお腹減った♪」


 笑顔で言ってやった。


「まぁいいけどよ。こんなことしてる間に最後の一人が死んじまってたらどうすんだよ」


「そこはまぁ……そこはかとなく天に無事を祈っとくってことで」


 鼻歌交じりにアイスティを啜る。


「ほら、武士は食わねど高楊枝って……ん? 腹が減っては戦ができぬだっけ? っていうじゃない」


「勝手に合戦してやがれ。で、実際これからどうすんだ?」


「行くよ。斑目邸。ただね、ボクは顔が割れちゃってるから翼が一人でよっち~のお姉さんから聞き出して欲しいのよいろいろと。で、その作戦会議もしとこうと思って」


「作戦会議……ねぇ」


「そのとおりッ! お姉さんを裏門で翼が事情聴取して、ボクは門前のアズキ爺さんから話を聞いてみる。で、お姉さんだけど、異様に警察やらグレネーダーに怨み持ってるみたいだからさ、身分は隠して欲しいんだよ」


 レンゲに麺とメンマ、ナルトを乗せて小さな受け皿のように盛り付ける。


「なるほど、斑目稲穂の逮捕で怨んでるわけか」


「まぁそういう……」


 言いながらレンゲに盛られたラーメンを一口。

 レジのところで常塚さんがニヤリと微笑んだ気がした。

 パシャンとレンゲが器の中に落ちた。跳ねた汁がテーブルに飛び散る。


「お、おい? どうした高梨? たかな……」


 微動だにしないまま、私は椅子から崩れ落ちる。

 ……マズい。不味すぎるっすよ死神ラーメン。

 ほんとに死ねますよこれ……


「お、おい!? 何土気色になってんだ高梨ッ!? うわッ!? あ、泡吹いてやが……」


 床に倒れたまま、意識が死神さんに刈り取られていく。

 翼の言葉を子守唄代わりに、私は静かに息を引き取った……

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