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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二節 怒々目鬼
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空の遊歩者

 誰もいなくなった作戦会議室に、真奈香と私は二人で項垂れるように留まっていた。


「翼に……謝らないとね」


 自分は無力だ。誰も助けられないし、大倉道義には自ら抹消を語ってしまった。

 誰も殺したくないなんて言いながら私は……


「……有伽ちゃん」


「帰ろっか」


 自分の不甲斐なさに泣きたくなった。

 分かってる。これは抹消という仕事。

 推理ごっこでもなければ我侭言える立場でもない。


「有伽ちゃんッ!」


 項垂れた私に真奈香が叫ぶ、私は泣きそうな顔を上げて真奈香を見た。


「何……真奈ちゃん」


「次はどこ捜査する?」


 無邪気な笑顔を振りまいて、真奈香は私にそう言った。


「あのね真奈ちゃん、ボクたちは待機なんだよ。つまりこの事件から外されたの」


「何言ってるの? ほら、行こうよ~」


 私の腕を掴んで窓を開く真奈香。


「ち、ちょっと真奈ちゃ!?」


 驚く私を無視して窓から身を放り出した。

 って!? 落ちる!? 落ちちまいますがな真奈香さんッ!

 慌てて目を瞑る私。


 でも、地面に激突する衝撃も落ちてる落下感も全く無い。

 一階だから落ちても大したダメージは無いんだけどさ。

 そればかりか私は誰かに背負われて……真奈香しかいないよね。心地よい風の中を疾走していた。


 恐怖より好奇心が勝った。私は恐る恐る目を開く。

 途端、眼下に見渡す限りの町が見えた。

 山の頂が私よりも下にあった。


 黄昏色に染まり始めていた空が神秘的だ。

 目の前の山に隠れ始めた太陽に目をしかめながら、ようやく現状を把握する。

 私、空にいる?


「私はね、茶吉尼。またの名を空の遊歩者。空を駆けてどこまでも行けるんだよ」


「そっか。じゃあ本当に空飛んでるんだ……ボクたち」


「悩んでても仕方ないよ有伽ちゃん。私たちは学生だもん。自分のしたいことをしたらいいんだよ」


 もしかして、元気付けてくれてるの?


「別に命令されたって聞く必要ないよ。私たちは機械じゃないんだし、有伽ちゃんは思うように行動して、それでどうしても困ったら私が助けるの。私は有伽ちゃん好きだもん。私は有伽ちゃんの味方だもん。どんな奴が有伽ちゃんを襲ってきたって私が守るよ。だから……何者にも屈しなくていいんだよ。私は、有伽ちゃんがどんな時、どんな場所でも、どんなに離れていたとしても。困ってれば駆け付けるから」


 夕焼けに照らされた真奈香の笑顔に、不覚にもドキリとしてしまう。

 なんていうか、性別が真奈香と違ったら私確実に惚れてるね。


「ありがと真奈ちゃん。真奈ちゃんだけだよ、私の味方」


 グレネーダーの試験で気付いた。

 真奈香は、真奈香だけは私をいつも見てくれている。

 周囲に溶け込むために偽ってる『ボク』じゃなく、本当の意味で『私』を見てくれているんだ。


 それは恋人とかそんなものじゃなく、家族とかそういった結びつきでもなくて。もっと、特別な関係――――

 ぎゅっと真奈香にしがみ付き、私は大きく深呼吸した。


「決めたッ! 真奈ちゃん、学校に行こう」


「学校? もう授業終わってるよ?」


「違う違う、必ず何か証拠が在るはず!」


「ああ~、あの集会所だね」


 私を持ったまま器用にポンと手を打って真奈香が走りだす。

 私たちは大倉道義を見つけた集会所へと向かった。




「来たのはいいけど、どうするの有伽ちゃん」


「そうだね、こういう場合、探偵物なら証拠品探すのが妥当なんだろうけど、ボクの場合は鼻が聞くから証拠品じゃなくても何か遺留品があればさがせるよ。犬のまねなんて嫌なんだけど、しゃーないでしょ」


「うん、探してみる。がんばるね」


 私の役に立てると喜び勇んで探し始める真奈香。

 さて、真奈香もがんばりだしたことだし、私もがんばっちまいますか。

 大きく深呼吸して、改めて回りを確認する。


 大倉道義が脱ぎ捨てた服がそのままになってるけど逃走中の目玉男を追いかけることは生理的に嫌なんで無視。

 ドラム缶やらブロックやらが乱雑に置かれてる。

 鉄パイプが突き刺さってたり、横倒しに転がされている奴もあるけれど、その中に……あった。


 非常階段下のソファの裏に隠されていた雑誌が数冊。

 喜びと共に一冊掴んで表紙を見た瞬間……凍りつく。

 表紙を飾るのは五人の女の子。

 戦隊モノらしいコスプレしてるけど、でちゃいけない所が……題名もぬるぬる戦隊って何よ? 訳わかんないし。


 恐る恐る中を開いて……ぐふぁッ!?

 すぐさま具合の悪い本を閉じて元の場所に戻しておく。

 誰だよ、こんなもん買った奴はっ。


「有伽ちゃんッ!」


 はぁと溜息を吐いた瞬間、真奈香の悲痛な呼び声に慌てて真奈香の元に向った。

 駐輪場のトタン板貼り付けた壁の後ろ。

 丁度駐輪所からはトタン板で仕切られて見えないし、角度的に誰も気に止めないような場所だ。


 そこで真奈香が見たものは、喉が裂かれ、無残な亡骸と化した男性だった。

 真奈香は駆けつけた私から離れ、溝に向って何かを吐き出していた。

 無理も無い。真奈香は私と違って死体を殆ど見てないんだ。


 のっぺらぼうを殺したといっても妖の欲に負けていたときだったろうし、それ以外に死体なんて見ていない。

 第一、こんな悲痛で生々しい惨殺体は……陰口以来だ。


「斑目稲穂」


 私にはそいつの名前以外思い浮かばなかった。

 たぶん、大倉道義を張っていた警察の人間、稲穂が自分のことを通報される前に殺したんだ。


 ん? 亡骸の胸ポケット震えてない?

 私は意を決して男の亡骸の胸ポケットを探る。

 出てきたのは警察手帳とスマートフォンだった。


 スマホが震えてたんだ。

 着信は……伊吹? ん? 伊吹さん?

 私は受話ボタンを押していた。


『二ノ宮、定期連絡がなかったが何かあったのか』


「えと、伊吹さん……ですか?」


『……誰だ?』


「二ノ宮さんの代理のものです」


 聞こえた声が、なんとなく伊吹さんの渋い声と違う気がした。だから名前は言わなかった。


『二ノ宮はどうした?』


「……死にました」


『なにッ!? 君は、なぜこの電話を取った』


「なぜって、どうしてですか?」


『今どこにいる? 二ノ宮は近くにいるのか? 誰に殺された?』


 少し動揺しているらしい。私は落ち着いた口調で丁寧に返す。


「二ノ宮さんは鮠縄付属中学の駐輪所裏にいます。誰に殺されたかは分かりませんが、おそらく斑目稲穂」


『斑目……稲穂だとッ!?』


 明らかな動揺があった。


「聞きたいこともあるのでお待ちしています。伊吹警視正」


『警視正? 私はそこまで上がってな……』


 あ、電池が切れた。

 でも、警視正じゃない? ってことはやっぱし別人?

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