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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二節 怒々目鬼
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斑目稲穂脱出についての考察

 私たちは今、常塚さんも交えて作戦会議室に来ていた。

 ここにいるのは私と真奈香。翼に隊長に常塚さんに前田さんもいる。

 本当はもう一人いるらしいけど、今日は用事があって集まれなかったらしい。

 ちなみに私と真奈香は学校抜け出してきたけど公欠扱いにしてくれた。

 常塚さんに感謝と拍手送っとこう。


「要するに、斑目良知留さんの事件を何らかの方法で知った斑目稲穂が姉に代わって復讐するために脱走した。そう言いたいのね高梨さん」


 まぁ、私の考えだとそうなるのかな。


「目的は分かるが、どうやって知ることができたのか、そしてどうやって脱出できたのか……疑問はこの二つだな」


「彼女の力はガシャドクロ。一人の犠牲も出さずこっそり脱出など到底無理ね。それに第一、彼女は【土蜘蛛】と【箱の中の男】の妖使いによって地下数千メートルに作られた四方がコンクリートの白い壁に包まれた監獄に居たはずよ」


「【土蜘蛛】の妖使いは死んだろう? 【箱の中の男】も箱という名のコンクリートで固めた空間を作っただけだ。それに彼女の恐ろしさを知っている以上開放するとは思えん」


 完全に常塚さんと隊長だけが話してて話しに入る隙すらないんですけど。


「共犯者が別に居る。というのが一番納得のいく答えよね。高梨さんの推理とやらが当たっていればだけど」


「誰にも知られず対象を脱出させる力か。【雲外鏡】か【座敷童子】、【トイレの花子】という線はどうだ秋里?」


「今挙げた中には居ないでしょうね。雲外鏡は鏡。座敷童子は座敷。花子さんはトイレ。どれもあの部屋にはないでしょう? 食事も上層部でも幹部クラスの人間が通風孔から落とすくらいだし、通風孔は狭いからロープなどの物を与えての脱出も無理よ」


 二人が討論を繰り返す中、おずおずと前田さんが手を挙げた。


「【千里眼】の話では部屋に変化はなく彼女だけが消えていたのだろう?」


「ええ、四方の壁に異常はなく、通風孔からも定期の食物以外通った形跡は無いわ」


「こんなとき【べとべとさん】や【濡れ女】がいればよかったのだがな」


「引く手あまたの彼らに期待してはダメよ。早く帰ってくるのでも後五日はかかるだろうし……」


 誰か気づいてあげて。捨てられた子犬みたいにフルフル震えてますよ?


「お前の思兼の知識にはないのか?」


「全く浮かんでこないわ。私のは自動だから」


「行き詰まりだな」


「そうね……ここが解けなければどうにもならないわ。先に斑目稲穂の抹消を優先すべきでしょうね」


 だめだ。二人の会話に夢中で誰も今にも泣いてしまいそうな前田さんに全く気づいてない。

 仕方ないですな、ここはこの有伽さんが……


「隊長ッ!」


「ん? どうした有伽?」


「え~と、前田さんが意見あるみたいです」


 頬を掻きながら指名する。

 ビクリと身体を振るわせた前田さんに全員の視線が集まった。


「え? あ? いや? その、あぁあぁぁぁのですぅぅねぇぅぇぅぇぅ、牢屋はぁぁぁ、壁だけぇぇぇなんんんです、よね」


「う、うむ。その通りだ」


「な、ならぁその類ぃぃのッ妖使いなんんんじゃ……」


「お、お願いだから落ち着いて話してくれると嬉しいのだけど……」


 困った顔の常塚さん。もしかして、前田さんの話し方を聞くのが嫌で二人して無視を決め込んでたのか?


「ヌリィィィカァベェ……とかはぁぁどうぅぅでしょう?」


「ヌリカベ!? そうよ。基本中の基本よね。あまりにも単純で忘れてたわね」


 ヌリカベ。

 例えば山を歩いていると、何も無い場所に壁を塗っている真似をしている女がいるわけだ。

 無視して通ろうとすると何故か見えない壁に衝突する。

 女は見えない壁を塗っていて……とかまぁいろんな説話があるものの、中には人を壁の中に塗って閉じ込めてしまうという伝説もある妖怪。


 つまり、壁の妖使い。壁を使うならおそらく土壁もコンクリートもそいつにとっては同じこと。

 とすれば地面全体も壁。その妖使いの道になる。


「その妖使いが絡んでいる可能性はあるわね。斑目良知留、稲穂両方を知る人物の中にいる可能性があるわ。柳ちゃんと志倉君は雨宮恭一とヌリカベの両面から捜索。前田さんは妖研究所の病棟施設にいる小林君と合流して犯人三人の保護と護衛を。私は上層部に報告してくるわ」


 と、指示だけ与えて足早に出て行く常塚さん……って、ちょっと!


「ボクたちはどうするんですか!?」


 常塚さんがドアを開いた時点で声をかけた。


「あ、そうね……二人は……」


「待機だ」


 常塚さんが答えるより早く、隊長が口を開く。


「今回の被害者は有伽たちの知り合いだろう? 捜査参加をさせるわけにはいかん」


「えッ!? どうしてですか!? よ……よっち~が直接関係あるわけじゃ……同じ斑目家の……」


「斑目良知留。察しのいい有伽のことだ。うすうす感付いてはいるだろう。それに、斑目稲穂……出会えば次も生きて帰ることができるとは限らんぞ」


 確かに予感はしている。でも実際に確認したワケじゃない。


「で、でも……そうだ、翼だって知り合いの抹消……」


 つい、言ってはいけないことを言ってしまった。

 翼が苦い顔で毒づき席を立つ。


「俺のは特別に上層部から許可を貰ったんだよッ」


 苦々しい顔で答えて常塚さんの横を通り過ぎて出て行った。


「有伽、気持ちは分かるが、大人しくしていてくれ」


「……はい」


 もう、反論する気力も無かった。

 翼への申し訳なさで胸がいっぱいだった。

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