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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第一節 百目鬼
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斑目家の人々・前編

「斑目さんはねぇ、あそこの塀の奥の広ぉいお屋敷に住んでるんだよ」


 私が考えに耽ってる間に、どうやら斑目の家の話になってるらしい。

 指差す真奈香の指の先を見て、とりあえず、へぇ~と相槌を打っておく。

 それだけで真奈香のテンションが見る見る上がっていった。


「でねぇ、おじいちゃんが前門にいて、いっつも忙しい忙しいっていいながらアズキを磨いでるの。よっち~に会いにいったら喝ッって怒鳴られていっつも引き返しちゃうんだよね」


「……なんていうか、ストレートになんの妖使いか体で表してるね……って、なんでここでよっち~が出てくるの?」


「え? だってよっち~の家だよここ。あ、そこ左」


 と、行き過ぎそうになった私に真奈香が注意する。


「あれ? でも、この家でしょ? 玄関目の前に……って、そうじゃなくて、よっち~の家!? 初耳ですよそれッ!? よっち~も斑目?」


「さっきも言ったけど玄関はねぇ、おじいちゃんがアズキ洗ってるから、入ったら喝ッて怒られるの。だから用があるときは裏から入るんだよぉ。で、よっち~はね。本名が斑目……なんだっけ? もう何年も名前で呼んでないから忘れちゃったよ。えへへ」


 私も忘れたってか聴いたことない気がするんですけど。

 なんとなぁく嫌な予感がひしひしとしてくるよ。

 それからしばらく、横の壁を伝っていく。十分は歩いたろうか? ようやく門が見えてきた。


 屋敷というだけあって敷地が広い。

 門も江戸って感じのする古風な扉をしていた。

 よく時代劇で悪役の屋敷として登場しそうな家だった。

 出会えとか言ったら本当に浪人がでてきたりして。

 真奈香が呼び鈴を押す。って裏門なのに呼び鈴あるし!?


「は~いはいはいはい。もうちょい待ってなぁ」


 数分して、バタバタと音が聞こえてきそうな砂利の上を走る足音。

 よっち~と思ってしまうくらい似通った声が次第近づいてくる。

 しばらく待っていると、肩で息をしながら一人の女性が門を開いた。


「お待っとさんや御免なぁちょいと家ん中騒々しゅうしとって……」


 現れたのは泣きはらした顔で人懐っこい笑みを浮かべる女性。

 巫女装束に身を包んだ小麦色の肌を持っていた。

 予想はしてたけどよっち~ではなかった。


「あら? あらあらあら~? マナやんやないの~どないしたん? 元気やった? たまには顔だしてぇなぁお父さんとお母さん元気なん? 来るて連絡くれたら茶菓子用意しといたんにぃ~ああもう相変わらず可愛ええなぁ」


 マシンガンのように話しながら真奈香に頬擦りを開始する。

 人懐っこいというか、陽気というか……厚かましい人だ。


「有伽ちゃん、こちらよっち~のお姉さんの留々離さん」


「よっち~のお姉さん……?」


 さすがに私も気圧されて、遠慮がちに尋ねてしまう。


「あら? マナやんお友達?」


 私の声に、ようやく私の存在に気付いたらしい。

 この分だと私の横にいる前田さんにはまだ気が付いていないんじゃないだろうか?


「私の彼ですぅ」


「…………」


「…………」


「って、うおぃッ!? 違いますッ、ただの友達です! 級友ですッ! フレンドですッ!」


 前田さんがいることをよっち~のお姉さんが気付いているかどうかということに思考がいっていたせいで反応が遅れてしまった。

 一瞬、真奈香が口走ったことをスルーしそうになったし。


「あらあらあら~、それじゃあ、あんさんが巷で噂の有やんなんね」


 ……巷で噂なんだ私。


「なんやのん、こぉんな可愛ええ彼女のどこが不満なん?」


「いやいやいや、不満以前にボクも女の子なんですけどッ!?」


「ええないの、愛に性別も種族も関係あらへんてぇ~」


 いや、待て。

 手をパタパタさせながら何でもなさそうに言ってるけど、今とんでもないことさらっと言っちゃいませんでしたかこの人!?


「あの……ところでよっち~学校に来てなかったんですけど?」


「ああ、心配して来てくれたん? ごめんなぁ、ちょっと今は会わせられ……」


「あのぉ、今日はよっち~さんに会いに来たワケじゃないんですぅぅぅ」


 ようやく、前田さんが話しに入ってくる。


「あら? もう一人おらはったん? ごめんなぁ、ウチ気付かんかったわぁ」


 さりげなく酷い言い方のよっち~のお姉さんに、気にした様子もなく前田さんが話し始める。


「斑目良知留さんの事件にぃぃぃ、妖使いがぁぅぁぅぁぅ絡んでいる可能性があるのでぇぅぇぅぇぅ調査に来ましたぁぁぁ、グレネーダーですぅぅぅ」


 震えながらも何とか言い切る前田さん。思わずよくできましたねぇ~と頭を撫でてしまいそうになった。


「や……ややわぁ、グレネーダーやなんてぇ、冗談きっついわぁ。なぁ有やん」


 と、大げさにリアクションつけて笑いながら、私の背中をバシバシ叩く。

 よっち~がよく冗談いったときにやってくるのと一緒だった。


「ええと……なんていうか、冗談じゃないんですよこれが」


 苦笑いのまま手帳を見せる。瞬間、空気が激変した。


「う、嘘やろ? ホンマ悪い冗談と……」


「私もなんですよ~」


 空気に気づいていない真奈香がついでに自分の手帳を見せる。

 やばい、何この空気? めちゃくちゃ気まずいんですけど。


「帰って……」


 妙に冷たい声が小さく響いた。

 よっち~のお姉さんが声を出したんだと気付くのにしばらくの時間を要した。


「え? あの?」


「はよぅ帰りぃなッ! あんた等なんかと話したぁないわッ!」


 乱暴に門を閉めて中に閉じこもっていった。


「な、なに……あれ?」


「怒らせちゃったね、有伽ちゃん」


「……って、え!? ボクのせいッ!?」


 二人してコクリと頷いてくれる。


「ちょっと待ってよッ! どう見ても前田さんがグレネーダー言わなきゃ普通に話せてたじゃん!?」


 私の悲痛な叫び、でも、二人ともそれに肯定はしてくれなかった。

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