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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三節 陰口
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作戦会議と翼ちゃん

 ついに、朝が来てしまった……

 保健施設の仮眠用ベットから起き上がった私は背伸びしながら欠伸を一つ。

 携帯電話に目をやれば、八時二十分。

 いつもなら遅刻遅刻とあたふたしている時間だ。いや、もしかしたらすでにあきらめて歩いてるかな?


 今日はゆったりとしながらシャワーを浴びて顔を洗って歯磨きして、部屋に戻って服を着替えよう……として、気づいた。

 この部屋、監視カメラが付いてるんだった。

 慌てて脱ぎかけのタオルを戻し、着替えを持ってトイレに駆け込む。


 ボレロも着とくかな。

 スカートは動きにくいしやっぱしハーフパンツかな?

 ワンピースは確実バツだね。

 ブーツカットは……あああ、どの服着よう。

 無駄に多めに持ってきたから迷うぅ~。


 髪はいつも通りでいいか。

 例え、「プチツインテール」と言われようとも、「後ろの席いるとピコピコうっとおしいんよ有ちゃんの髪」と言われようとも、これが私の一番気に入ってる髪形なんだ!

 よし、用意完了。


 オペレーションルームへ意気揚々と移動する。

 すでに時計は九時を指し、隊長も翼も私の到着を待っていた。


「遅せぇぞ高梨。一時間もなにしてんだよ」


 カメラで覗いてたな翼の奴。この変態め。


「ごめんごめん」


「さて、これからのっぺらぼうをどうするかだが……」


「師匠、その前に報告していいッスか?」


 翼から報告? なんだろう?


「いいだろう」


「前回の出雲美果について、多数寄せられた証言は少女が墓場で人魂と戯れているのを見たという証言だったんッスけど……」


 人魂と戯れる少女。確かにちょっと怪奇だ。


「上層部は人魂使いが、死んでいるとはいえ人間から無理に魂を抜くのはA級犯罪だとしてグレネーダーの始動を要請したのだったな」


「その通りです。でも、出雲美果は目撃証言にある日付に、墓場には行っていませんでした。それに【人魂】は死体から魂を抜く事はありません。あいつがそんな死者を冒涜することをするはずはないっスから。それに……」


 翼の顔が曇った。後悔しているような、辛そうな表情。


「なんだ?」


 隊長の顔が曇る。


「あの日、あいつは遊園地にいたんです。俺と……」


「それは、どういうことだ?」


「昨日上層部にウラとなる切符と遊園地の監視カメラに映る出雲美果と俺の証拠ビデオを送っておきました」


「それってもしかして」


「デマだった。出雲美果は誤報でA級犯にされたんだ。そして、俺が殺した

。守れたはずなのに、俺が無実を証明できたはずなのにっ」


 そんな……ことって……


「やはり、手口は有伽の時と同じなのか?」


「その通りです。そして、二人の共通点から容疑者も浮かびました」


 おおおっ! なんだか今日の翼凄いっ!


「名前は金山幸代41歳。出雲美果の隣に住む第一通報者です」


 あ、あのおばさん?


「ほう、どうしてそういえる?」


「出雲美果の母親の証言です。遊園地の帰りに金山幸代が地面に水を撒いて

いたところに出雲美果がやってきて、誤って水が出雲美果にかかり、二人は

口論となりました。結果、出雲美果が泣きだし、金山幸代が衣装代を弁償。食事の用意をしていたので窓から見えたそうです」


「些細なことね」


「だが、陰口を妖として持つものであれば十分な動機だ」


 あのおばさんなら確かにやりそうかもだしね。


「そうなるとボクが狙われたのは翼との会話を邪魔されたからってことね」


「問題は、証拠がないってこった。クロに近いし、一番納得のいく結果なんだけどよ。何とか証明できねぇかな」


「動くに動けんな」


「証明できればいいんですよね」


「そうだな。こいつを証明できればお前にとってもかなりプラスにはなると思うぜ。罪状が消えるわけだしな」


 罪状が消える。それはつまり、私がグレネーダーに入らなくても自由の身になるってこと……にはならないか。私の敵は世論ですからね。噂が消えるまではどうしようもない。


「噂の中心地があのおばさんの家になったりとか?」


「それは無駄だった。噂の中心部は二つ。一つは美香の家そして高梨の学園から丁度中間辺りに位置する公園だ。もう一つも美香の家とお前の家からほぼ中間、証拠にはならねぇよ」


「やはり狡猾だな。近そうな場所であっても証拠がなければ我々が抹消に移れないと知っている。しかしだ。もし、二つの中心地で一昨日か昨日、金山幸代が噂を口にしていれば犯人である可能性は高いな」


「聞き込みっスか」


「それがいいだろう。こちらものっぺらぼうを見失って身動きができん。有伽の生存を考えるなら陰口がいることを証明する方が早かろう」


 ということは、ひとまずのっぺらぼうは放置ってこと?


「いいんですか隊長?」


「うむ。残り一日と考えた場合そちらの方が幾分マシだ。のっぺらぼうを見つけられるというならば話は別だが……こちらは急いでいるわけではない。少なくとも高梨留美さえ我々が護衛しておけば手遅れになるようなことはないだろう」


 確かに、一応のっぺらぼうを見つけられないわけではないけれど、一人一人舐めて調べていくよりも、あのおばさんに復讐するほうが気持ち的にも楽しい。遣り甲斐がある。


「録音機で証言をしっかり録るようにしておけ。追い詰めることが可能になるだろうな」


「それを証拠にすりゃあお前の無実も証明できるってこった。復讐できるし一石二鳥だな高梨」


「私はできるだけ先延ばしになるよう上に掛け合ってみよう。その間お前たちで証拠を掴んで欲しい」


「任せてくださいよ師匠!」


 あのおばさんか。そういえば臭いはどうなんだろう?

 香水をかけているのは身だしなみじゃなくて妖使い特有の臭いを消すためとか?

 舐めて……みるか?


「とりあえず聞き込み行こうぜ高梨」


「あ、うん。隊長。ボクのためにありがとうございます」


「いや、大して役には立ってない。その言葉は入隊後に取っておいてくれ」


「……そうですね。そうします」


「無事グレネーダーに成れたなら焼肉でも奢ってやろう」


 お、焼肉ですか。いいですねぇ。

 よく真奈香たちに誘われて仲間うちで行ったもんだ。


「な、なにぃっ!? 師匠、俺の新人歓迎会の時は居酒屋だったじゃないスか。差別っスよ!」


「記憶違いじゃないのか?」


「いやいやいやっ! 忘れやしませんって、師匠、俺の顔面に吐いたの忘れ

たんスか!」


 は、吐いたんだ。

 ってか顔面に吐かれたのに師匠って呼んでるんだ。

 健気というかなんというか……


「はて? そんなことあったかな?」


 まるで記憶にないと、表情一つ変えずに言ってのけるのはさすが隊長といったところ。

 ときどき薄ら笑いが顔にでているので覚えていてワザと忘れたフリをしてるのが分かる。

 ……フリ……か……


「隊長、グレネーダーってやっぱり証明書とかあるんですか? 警察手帳みたいな奴」


「ん? あるにはあるが? どうかしたか?」


 翼をおちょくってご機嫌な隊長が私に振り返る。


「ボクの作れません?」


「正規のものは無理だな。偽造……概存のものに写真を貼るだけなら翼のを使えばすぐにできるぞ。私たちグレネーダーはIDカードを手帳に入れているだけだからな。それがどうした?」


「よし、これならあのおばさんに復讐できるかもしれない」


 両手をぐっと握り締めてガッツポーズ。


「お、なんか策があるのか?」


「あのおばさん警察の人には下手にでてたじゃん。ボクを噂で貶めたことを後悔させてボロをださせてみようかなって」


 名付けてグレネーダーのフリ作戦!


「グレネーダーだって言うのかよ?」


「まぁ犯罪ではあるだろうけど……偽造だしね」


「面白そうだな。さっそくやってみろ」


 おっと、隊長も乗ってきた。


「師匠、警察が犯罪に手を貸してどうするんスかっ!」


「犯人の炙りだしのためだ。許可する」


「やったぁ~」


「やったぁ~じゃねぇ! 師匠さっきから高梨に甘くないスか」


「そんなことないぞ? なあ有伽」


 待ってましたとばかりに楽しそうに隊長が聞いてくる。

 ここは悪乗りするべし。


「普通ですよねぇ、隊長」


 隊長のところだけ親しみを込めていう。案の定、翼が吼えた。


「呼び名も何時の間にファーストネームになってんスか!? しかも隊長って!? 呼ぶなら指揮官とかだろ!?」


「人がどう呼び合おうと勝手ではないか? それとも……焼いているのか?」


 にやりと隊長がほくそえむ。


「な、し、師匠っ!」


 もう真っ赤になって否定する翼。

 そんな態度を取られるとますますおちょくりたくなるじゃないですか!!


「やだぁ、翼ちゃんったらぁ。そんなに呼びたいならぁ、あ・り・かって呼んでもいいんだよぉ。翼ちゃん♪」


 もじもじと伏せ目がちに言ってあげると、それはもう真っ赤になっちゃう翼ちゃん。


「黙れ高梨ッ! テメェ、どさくさまぎれてちゃん付けしてんじゃねぇッ!! ああもうっ、さっさと行くぞコルァッ!」


「やれやれ、これ以上へそを曲げられても困るしな、行って来い有伽」


「はい。がんばってきます隊長ッ!」


 最後に形ばかりの敬礼を交わし、私は大股で先を行く翼の後を追っていった。

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