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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第一節 百目鬼
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生えた目玉・前編

 一発撃って冷静を取り戻したらしい伊吹さんは無言のままに拳銃をしまって咳払い。

 ソファに自分から座った。


「そ、それではま、ままま、まだ斑まだだら……」


 緊張したように何かを口走る伊吹さん。

 彼がまとっていた筈の年を重ねた男性の雰囲気なんて綺麗さっぱり吹き飛んでしまってる。

 そのドモリ方はどう見ても私の横で震えまくっている前田さんと同系列のちょっと痛めな人のモノだった。


「落ち着いてください」


 能天気な真奈香の声に伊吹さんは押し黙る。


「いいですよ、そんな畏まらなくて、ボクたちも普通にしていてくださった方が話しやすいですし」


「そ、そうだよぉ、そんな寒い態度取られるとホントに寒くなってくるんだからぁ。おじちゃんは出会った時の態度で十分だよぅ」


 まるで私たちの方が事情聴取してるみたい。

 伊吹さんは青ざめた顔のまま私たちを見回し、大きく深呼吸する。


「では斑目良知留についての報告をする」


 背筋を正して凛とした態度に急変した。

 ……だから落差が激しいんだってば。


「昨夜23時55分高港市高港区及川商店街の路地裏で裸の女性が血塗れで倒れているとの通報があった」


 え……?


「被害者の名は斑目良知留。第一通報者は……雨宮恭一。電話では被害者の彼氏だと主張している」


 血塗れ? 裸? それってもしかして……


「被害者には暴行の形跡があり複数による犯行と断定されて……」


「ち、ちょっと待って! それってれ、れい……」


「いや、豆泥棒まではいっていない。殴られたり蹴られたりだな。レイプの形跡はない安心してくれ。まぁ都会じゃ良くある事件だ」


 よ、良くある事件って……

 ふつふつと湧き上がる怒りを目の前の男に向ける。

 でも、伊吹さんはやり場のない怒りを押し殺すような目をしていた。


「そう、最近は本当に良くある事件だ。年端も行かぬ少女への暴行……愚かしい限りだ」


 本当に悔しそうに、守れなかったことが自分のせいだとでもいうように。


「発見当時、被害者は左目を潰され、長時間の雨のせいもあって肺炎になりかけていた。第一通報者のはずの雨宮恭一もそこにはいなかった……と、まぁここまでならただの事件として処理されるはずだった。すでに犯人の目途も付いているからな」


 犯人ももう見つかってる? でも、普通の事件じゃなかった?

 私たちグレネーダーが出動する事件だ。それなりにおかしなことがあったんだろう。


「左目が生えた」


 ……は?


「左目が……生えた? 誰の?」


「斑目良知留だ。見るかね?」


 ソファから立ち上がった伊吹さんが307号室の扉を開く。

 促されるように私と真奈香は部屋へと入っていった。

 白いベットの上に白のシーツが被せられ、間に包まれるように横たわる少女。


 包帯でぐるぐる巻きにされていて身体的特徴は分からないけれど、起きた事の凄惨さだけは嫌でも伝わってきた。

 遊び気分だった今までと違い、こうやって実際に目にすると、ようやく身近で起きた本当の事件なんだと認識せざるをえなかった。


 窓にカーテンとその横にある小物入れ用の小型の物置。

 物置の上に乗った尿瓶。

 ベットの横には栄養補充用の点滴が吊ってあって、カテーテルを通して斑目良知留へと繋がっている。

 そして……鏡台?


「あの鏡台はなんであるんですか?」


「ん? ああ、彼女のご家族がな、起きた時に化粧用に使うだろうからと置いていったそうだ。どうも被害者は自分の容姿を整えるのが好きらしい」


 いや、好きって言うか……女性として化粧は当たり前でないですか?

 まぁちょいと斑目良知留の年だと、年配の方からすれば早い気はしないでもないけど、資料には私と同い年の少女だって書いてあったし、入院中も容姿くらい整えたいって気持ちはわかんなくもない。家族の人、結構気が利くよね。


「私が入院しても有伽ちゃんのために化粧したい~。綺麗になりたいもん」


「あ~、はいはい。真奈ちゃんはスッピンでも可愛いよ……」


 投げやりな言葉に頬を赤く染める真奈香。

 褒められたと勘違いしてるのは確実だ。っていうか調書に私に褒められたことを書くのは止めて欲しい。


「え~と……」


 私は最初に匂いをかいだ。

 妖の匂いはこの場に四人だけ。四人?

 私と真奈香と前田さんと、斑目良知留……からはほとんどしてこない。

 彼女は人間だとは分かるが、伊吹さんのタバコのせいで彼女の体臭までは特定できないな。

 となるとヤニの臭いに紛れた微かな匂い。それは……


「伊吹さん、もしかして妖使い?」


 ビクリと震える伊吹さん。


「な、何を根拠に申されますかな」


 言葉遣いがおかしくなってる。

 妖使いが警察にいるって……あ、そっか。

 入隊時の願いで警察に転属だしたのか。

 バイトをさせてってお願いした常塚さんみたいなものね。


 国家公務員になるから本来はバイトできないんだって。

 妖使いがグレネーダーに入隊するとき、同族殺しの代償として望みのものを一つだけ与えられる。


 とはいえ上層部ってとこが叶えてくれる範囲だけど。

 私も真奈香の入隊を条件に……って願いだしたんだけど、結果的に真奈香が先に入隊したんで私も真奈香も願いはまだ保留中だ。

 必要になったときに願いを提出してもいいらしい。

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