出オチ系は二度現る
「でも、それじゃ今日はどうするんですか?」
隊長も翼もいないんじゃ私と真奈香で妖使いの抹消なんてできるはずもない。
とはいえ支部長である常塚さんは忙しいのでバイトと作戦指令室で指揮の掛け持ち……さすがにバイトは休むんだろうか?
それでも私たちの方に気を回す余裕はないだろうけど。だから今日は休日ってことで家に帰れないかな。と、思ってたんだけど……
「こんなこというのはなんだけど、丁度いいタイミングで別の事件が起こったのよ。あなたたちには警察に混じってこっちの事件を担当してもらおうと思うの」
警察に混じって事件の捜査?
嫌だなぁ。資料室のトラウマが思い出されてしまう。
「なんだか妖使い絡みのようなんだけど、確証がないそうなのよ。それで、あなたたちにはその事件に妖使いが関わっているのかを調べて、できるなら解決してくれてかまわないわ。ただし、調書……犯人を捕まえたなら何をもってその犯人を容疑者としたのか? どうやって捕まえたか、その他、場所、状況、起きた現象、時間等々細々と記録して頂戴」
つまり……よくテレビでやってる探偵物語みたいな感じですな。
記録は真奈香に任せて間違いだらけの推理して楽しもう。
「場所は高港病院。307号室よ。手帳は使って構わないけど多用は控えてね。顔を覚えられたらそれだけ犯罪者に狙われる確率も上がるわけだから」
「は~い」
真奈香が返事して私に振り向いた。
「えへへ、有伽ちゃんと探偵さんだ~」
「だね。真奈ちゃん記録お願いしていい?」
「うん。いいよぉ~」
ご機嫌な真奈香に比べ、私たちのやり取りを見ていた常塚さんがため息を洩らす。
なんですか? その人選間違っちゃったかしら? みたいな顔は……
「い、一応あなたたち二人だけでっていうのは問題もあるだろうから上官として一人呼んでおいたわ。後のことは彼女……前田さんに聞いて。話は通してあるから」
言いたいことを言い終えたのか、はたまた頭痛でこの場から早く離れたかったのか、常塚さんは急ぎ部屋をでて行った。
椅子の上に残されていた本の背表紙には、飴と鞭と調教法と書かれている。
思兼の妖使いである常塚さんが単なる忘れ物なんてするだろうか? これはまさか私たちに発見されるように置いていった? って、まさかねぇ……
常塚さん、私たちに何か恨みでもあるんだろうか? 沢山あるか。
毎度毎度律儀に忘れて行くってどうなんだろうね。
「ねぇ有伽ちゃん……」
「ん? どうしたの?」
「前田さん、どこなのかな?」
周囲を見回しながら真奈香が疑問を口にする。
そういえば、常塚さん、何も言わなかった。どこにいるんだろう、前田……愛ちゃん。
私は周りを見回してみる。あ、まさか……
「この近くに来てるのかな? でも人らしきものが隠れるとこなんて……」
私の目に業務用冷蔵庫が止まる。
「……いや、まさか、二度も同じことするわけないよね? それやったらただのアホ……」
自分の考えに苦笑しながら冷蔵庫を開く。
そこには毛糸の暖かそうな帽子があった。そこには手編みらしいマフラーがあった。そこには可愛らしい手袋があった。使用中のホッカイロがあった。それらを身に着けている小さな女の子が三角座りで冷蔵庫の中にいた。
私の上司、前田愛が業務用冷蔵庫に三角座りで震えていた。
「…………」
「ぁぅぁぅぁぅ……」
「…………」
「ぶるぶるぶるぶる……」
静かにドアを閉めた。
「前田さんは涼んでるみたいだし、二人でいこっか」
「あ、有伽ちゃんダメだよ~」
何も見なかったことにした私。真奈香は何かが壁を叩く音が聞こえてくる冷蔵庫を困った顔で見る。
「可哀想だし、だしてあげようよ」
「本人好きで入ってるんだしその必要ないと思うけど、まぁ真奈ちゃんがそういうなら……ってかこのやりとり二度目だよね?」
しぶしぶもう一度冷蔵庫を開いた。
「ぁぅぁぅぁぅ……」
「……前田さん?」
「待っでまじだぁぁぁぁ」
ブルリと身体を震わせて、ようやく前田さんは、冷蔵庫から出てきた。
「はぅぅぅぅさ、寒い……」
本来なら冷蔵庫なんかに入っていたからだバカ娘。とでも言えばいいのだろうけど、前田さんの場合は違う。
震々という妖使いである彼女にとって、寒さ暑さは感じないそうだ。
ただ震えるのが欲になっているため、寒そうなところで厚着して震えているのが欲望発散になるんだと。
なんで冷蔵庫の中なのかはわからないけど、本人曰く、落ちつくそうだ。
ちなみに、この冷蔵庫は普通におやつや飲料も入ってたりするので前田さん専用というわけではない。
ただし、前田さんスペースが一番場所取ってるけど。
頼りない上司なんだけど、攻撃力はおそらく私達の中で一番突出してる。
なにせ振動を自由に操れる化け物だ。
人に触れた状態で共振させると内部から破壊したりして人体爆破の恐怖が……ヤバっ、危うく想像するとこだった。
前田さん出オチ系はもうやる予定はありません(笑)。




