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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第一節 百目鬼
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脱走した凶悪犯

 どうでもいい話なんだけど、今日は学校に来ていたはずの志村勝也。

 とうとう一度も教室に顔をださなかった。

 せっかくどれだけ強く殴れば、アウチッという悲鳴が聞こえるのか試そう計画が……あれ? アラビンッだっけ? まぁどれでもいいや。


 とにかく、本日の課程全て修了っ!

 私は真奈香を連れ立って、グレネーダー高港支部へと向かう。

 学校からの直線距離は一キロもないと思う。ただ、歩いていけばなぜか二キロ分歩いた計算になる。

 それというのも住宅街が迷路のように張り巡っていて、迂回しないと進めないところが多いからだ。

 さすがに直線上に並ぶ家々を家宅侵入して直進するのは急いでる時以外はやりません。私、良い子ちゃんですから。


 支部の全景、なんていうんだっけ、あの東京ドームにビルを横倒しにしてくっつけたような……ああ、前方後円墳!

 表向きは警察署。でも後ろの円形部分はすべてグレネーダー支部。警察署自体よりかなり大きなそれは、どうみても税金の無駄遣いに他ならない。

 当初警察署内に部署を作ろうという話だったのだけど、それでは一般人の警察職員とゴタゴタが発生しそうだからと、急遽外付けハードディスクみたいに警察署の後ろに立てられたのがこのグレネーダー支部の建設理由。職員は全て妖使いだそうです。


 関係者以外立ち入り禁止のドアのカードリーダーに私専用カードを差し込めば、そこからすでにグレネーダー支部内だ。

 とはいっても目の前に広がるのは右も左も廊下だけ。

 外周と内周に分かれていて、外周部は殆ど医療施設とオペレーティングルームくらいしかない。

 内周部は入ったことないからわかんないや。


 ドームの入り口を0度とすると、外周部の90度と270度にとこにオペレーティングルーム二つづつ。180度のとこには内周部への通路と反対に警察署に繋がる通路があるらしい。

 他の部屋は全部医療施設とかロッカールームなんだって。真奈香が私を探して全部開けちゃったらしいからあってるとは思う。

 内周部も行ったらしいけどここの支部長、常塚秋里さんによって口止めされてるんで私にも言えないらしい。


 無理に聞けば教えてくれるだろうけど、聴く必要もないからね。

 他愛無い会話で盛り上がりながら、オペレーティングルームに着くと、中に待っていたのは女の人一人だけで、隊長も翼の姿もなかった。


 オペレーティングルームには大きなホワイトボードと机と椅子が適当に置いてあって、予備の椅子や机が端っこの方にギュウギュウ詰めで置いてあった。

 窓横には巨大な業務用冷蔵庫があって、窓の外は庭が見えるようになっている。


 昔は外周部と内周部の間は吹き抜けだったんだけど、隊長の野菜が作りたいというよく分からない意見から庭に改造されてしまったらしい。当然庭には天井はない。

 内周部からいけるようになってるって真奈香が言っていた。


 目の前にはホワイトボードと、隊長が座るらしい専用の席に今日は常塚さんが座っていた。

 私と学校の裏山にダイブした噂の支部長様だ。

 少し前に分かったことだけど、この緑の髪の常塚さん、実は天然らしい。あ、天然パ~って意味じゃないですよ。んなこと考えたらミミズバーガーか逆さ磔の刑に処されちまいますよ。

 天然ってのはつまり自毛だってこと。私みたいに染めたわけじゃないんだって。何度も思うけど緑の髪って珍しいよね。


「今日はお一人ですか?」


 何かの本を読みながら、時間を潰していたらしい常塚さんが私の声に顔を上げた。


「待っていたわ、二人とも」


 読みかけの本をパタンと閉じて、柔らかい笑みで向かいの椅子に座るように促してきてくれた。

 私は真奈香と並んで座り、対座の常塚さんと顔を付き合わせた。


「そろそろ副係長と対面……といきたかったんだけど。ごめんなさいね。昨日AAAランクの凶悪な妖使いが監獄から脱走したらしいの。この市内に向かってきているみたいだから皆、借りだされていってしまったわ」


 AAAランク……専門用語で分かり辛いけど、ランクとはSからEまであり、人にとって無害な能力しか持たない妖使いをE、人よりちょっと役に立つ程度の妖使いをD、それなりに便利な妖使いC。この辺りまでならよくテレビで見かける。


 ちなみに私のアカナメはCランクだそうだ。

 この前テレビで垢舐めの妖使いによる銭湯を綺麗にする選手権番組やってたんだよ。もうモザイク入りまくりで見れたもんじゃなかったね。


 それで、抹消対象にギリギリ入らないグレーゾーンな妖がB。

 このあたりだとまず一般人では太刀打ちできない。

 さらに、普通に過ごすにも監視付きでなければならないAランク。問題起こしたらまず間違いなく抹消対象認定だ。


 AAクラスは真奈香の茶吉尼天。この当たりになるとクラス確認次第抹消決定だ。

 並みの妖でもまともにぶつかれば返り討ちの実力者、彼らの生き残るすべは、見つからないよう逃げ切るか、グレネーダーに入るかしかない。真奈香が入ったのもそのためだ。


 そしてAAAクラスは真奈香ですら勝てないほどの凶悪妖使い。

 そんな危険人物が脱走である。脱走……?

それは普通に聞き流しても良かったはずだった。

 でも、妖使いは捕まることなく抹消されるはずである。

 特にAAAクラスなんて強力な妖使いが抹消されずに拘束されてたなんて、普通じゃない。抹消されているはずだ。そうでなければ……


「脱走って……グレネーダーからですか?」


 ということになる。でも、常塚さんは監獄から脱走した。そう言った。

 だから今私が言ったことは間違った質問である。


「違うのよ。彼女はこのグレネーダーと呼ばれる施設が設立される前に無期懲役の判決を受けたから、抹消対象には指定されてなかったの」


 彼女、無期懲役……グレネーダーの設立前?


「それって、当時話題だった大阪城の惨劇の……」


「そう、今から大体八年前、世界中にその名を轟かせた凶悪犯、斑目稲穂が脱走したの。うちの部署からは柳ちゃんを代表として警察の方も混じえて300人ほど借り出されていったわ。一万人体制の大掛かりな捜索よ」


 たった一人に、そんな大層な。

 んでも、怖いなぁ、殺人鬼がなんでこの町に来るんだか。

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