くどい様でも自己紹介
ほぼ不眠に近い睡眠時間でできたクマ。
寝ている間にこぼれたらしいよだれの跡。
見るに耐えないぼさぼさの髪。
まるで十年以上年を取ったような顔が私の目の前にあった。
今の私の顔だ。鬱になりそう……
私は洗面台の鏡を前にため息を吐いた。
気分は最悪、顔も最悪。
こんなものは顔を洗って流してしまおう。
バシャバシャとパジャマの裾を濡らしつつ、恥を洗い流していく。
酒瓶やら酒パックの散乱する廊下を頼りない千鳥足で通り、なんとか自分の部屋へと辿り着く。
あ、先に言っとくけど、これ私が散らかしたんじゃないから。
自分で見ても、毎回思う。嘘? 女の子みたい!? っていえる小綺麗な部屋で着替えを済ます。
あ、いや女の子ですよ私、間違いなく。
鏡台を覗いて髪を束ねる。髪は肩にすらかからないけどボリュームだけは親父のビールッ腹に負けず劣らず。
いろんな髪形ができるけど、今はコレ、頭の真上から少し左右に下りた辺りで両側に括っている。
プチツインテールってのはよっち~曰く。
ちなみに、ツインテールって正式名称じゃないんだって、立派なオタク用語で、某巨大ヒーロー物にでてきた尻尾が二股の怪獣に例えられて呼ばれ始めたそうだ。
「これを知った以上、有ちゃんもりっぱな腐女子候補ですなぁ」
などとよっち~が言っていた。
「ボクは同人誌なんて書かないんだけど?」
なんて反論したら、腐女子について三時間くらい説教された。
余計な知識が増えたよちくしょう。
今日も髪を整え、弁当と朝食を作る。
日の丸ご飯と唐揚げ、コーンサラダを詰めて、二人分の弁当完成。
朝食はトーストにマヨネーズで囲いを作り、タマゴを落としてレンジでチン。
ボンッ!
マヨタマトースト出来上が……うん、出来上がり。
酒臭い居間でグータラ寝ている親父に、出来立ての朝食とお弁当をお供えして自分の部屋で食べる。
あんな場所で食べたりしたら確実に飲酒を先生に疑われて放校だからね。
食事を済ませた私は学校への準備を整える。ハンカチ、ティッシュも忘れない。私、良い子ちゃんですから。
流しに食器を持っていけば、水に付けておくだけで後は親父が洗ってくれる。洗ってないときは尻蹴ってやる。
時刻は丁度七時半。うむ。今日も快調な滑りだしだね。
家をでて、歩道を歩く。
もう、一年以上通いなれた道だから、ペース配分だけはきっちりできている。
よほどのことがない限り遅れることはないっしょ。
私、高梨有伽は中学生。
鮠縄付属中学に通うどこにでもいる一般人。
背は161、体重52。スリーサイズは74、54、79。最近ダイエットに興味を持ちだすお年頃。
年齢は14、趣味はあ……ないッ!
彼氏もとい彼女あり……じゃない、確かに告白されたし、勘違いで返事もしちまいましたよ。
んでも私は百合な世界は御免被るってなもんですよ! 本当にッ! ただいま彼氏募集中なんですよッ!
で、妖専用特別対策殲滅課、通称グレネーダーの抹殺対応種処理係に所属する妖使い。
妖の名は【垢舐め】。
そう、妖使い。
何時の頃か、初めは二人の妖使いが出会ったことが始まりだった。数多くいる人々の中で、たった二人、互いのみを認識できる。
一定範囲ならどこにいても通じ合える二人。
彼等はやがて超能力者としてテレビデビューを果たす。
やがて人々の中にポツポツと現れだす自称能力者。
その中にいる本物の能力者たちが団結しあい、やがて彼等は百人を超えた。
自らを新人類【妖使い】と提唱し始めたのもその頃らしい。
発現方法は極めて突然。生まれたての子供から、死ぬ寸前のご老体まで、家族ぐるみで発現することもあれば、一人だけということもある。
ただ……その妖使いの誰もが、昔いたとされる人以外のもの【妖】に似た欲望を持っているということが問題だった。
例えば【油澄まし】は油を舐めるのが趣味になり、それに合わせて体の構造も変わる。【以津真天】なら死体を前に「いつまで~」と喚くのが趣味になる。
抗うことはほぼ不可能。なんとか理性で保つこともできなくもないけれど、あんまり我慢しすぎると発狂しちゃう。
現に私も、恥ずかしながら垢を舐めたい衝動に駆られる時があったりなかったり。
で、今から八年前のこと。当時私は六歳。
妖使いによるもっとも記録的な大惨事が起きた。
被害総額7億円以上。死者187名。重軽傷者702名。犯人は当時6歳の女の子。
今では『大阪城の惨劇』と名高いこの事件、きっかけは犯罪を犯した少女の妖による欲望せいだった。
「皆が私を怨んでいたの。だから、切り殺さなきゃって思って……」
妖の名はガシャドクロ。少女の名は斑目稲穂。
三大欲求に次ぐ第四の欲求として殺人願望に目覚めた彼女は、突如として近くの民間人に襲い掛かり、たった一本のサバイバルナイフで一般人、警察、機動隊を相手に889人もの犠牲者をだした。
当然、警察、機動隊は威信をかけて彼女を捕らえた。
しかし、彼女は警察には捕まらずあっけなく自首。
警察側は彼女の死刑を訴えたが、当時の裁判所は自首して罪を認めていることと精神が未熟なため更生の余地があるとして、でも、少年法では異例の無期懲役を言い渡した。
今も少年院ではなくどっかの刑務所に監禁されているはずだ。
でも、この事件で妖使いの危険性が囁かれ始め、度重なる妖使い事件をマスコミが取り上げたことで私の居るグレネーダーが設立されたのである。
私が入隊したのはつい最近なものの、元々手に負えない妖使いに対抗するための特殊機関。
使える妖使いならば性格さえよければどんな奴でも入隊できるらしい。さすがに快楽殺人とかしてたらダメらしいけど。
五歳くらいの男の子が上官クラスで働いているのを見たときは、飲んでたアイスティー吹きだしましたよ。




