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眼鬼と復讐者・プロローグ
壁に耳あり、障子に目あり。
悪行を働いても、必ず何かがそれを見聞きしているという昔のことわざ。
とても良い言葉だと思う。
もし、本当に……壁に耳があったなら、誰かが気づいてくれたなら――
ザァ……
誰も知らない路地の裏
暗い昏い闇の中
冷たい雨に穿たれて
着ていた衣類は無残に裂かれ
左の目玉を奪われて
殴られ蹴られ
打ち捨てられて
無情な雨に晒された
冷たくなって動かない
既に意識は欠片もなくて
信じた幸せ壊されて
もしも、
壁に耳があってくれたなら
口や目玉があったなら……
こうなる前に、救えたものを――




