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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三節 煙々羅
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わたしはツバメになりはしない

「ミカ、私が気をそらす。ミカは隙を見て魂を奪って」


 鈴が走り出す。

 刀一本の敵相手なら自分の蛇なら十分対処できるはずと、小声で付けたし向かった鈴を追うように触手を走らせる。


 刀を構え、突撃してきた鈴を迎え撃つ安田。

 剣撃の射程に入ったと見るや迫る蛇に刀を突き入れる。

 しかし鈴の蛇も黙ってやられる気はなかった。


 大きく開いた口で刃を受け止め白刃取り。

 さらに身動き取れなくなった安田にわたしの触手が追いついた。

 さぁ、魂を奪えばジ・エンド。


「ん?」


 力をいれ蛇を押し斬ろうとする安田の体から霊体を引き抜く。いや、引き抜いたはずだった。

 だけど安田は沢木のように倒れたりはしなかった。

 まるでなにもなかったようにさらに力を込めて蛇を押していく。


 おかしい。わたしの力は当たったはずだ。

 念のためもう一度掴み取ってみる。変だ。感覚がない。

 安田の体に触れた瞬間触手の感覚が消えてしまう。


「ああ、くすぐったい感覚があるからなにかと思えば出雲美果。お前そういえば人魂の妖使いだったな」


 今気づいたと薄笑み浮かべる安田。

 わたしは何度も妖を使い安田から魂を引き抜こうとするけど全く掴めない。


「鬼切丸って知ってるかぁ? 鬼を切るための妖刀だ。鬼は気……つまり霊による攻撃、精神攻撃その他もろもろまるっとひっくるめてぜ~んぶ俺の体にゃ効かねぇのよ。意味、分かるか?」


 鬼切丸……? 刀の……妖使い!?

 しかも霊体攻撃が効かないんじゃわたしは全く役に立たない。

 でもそれじゃ鈴一人に任せきりになっちゃう。


「くっ……」


 まずい。鈴が押し負け始めている。


「テメェら二人とも俺にゃ勝てねぇし逃がさねぇ。諦めて辞世の句でも考えてやがれ。しっかり介錯してやるから、よぉっ」


 鈴が思わず蹴りを放つ。足の形がなにかの動物に替わる。

 獅子を思わせる強力な蹴りだ。しかし鍛えられた肉体を持つ安田は、わき腹に攻撃を受けながらも涼しい顔で刀に力を入れていく。


「このっ」


 さらに鈴は蹴りを放つ。

 上段下段中段と攻撃箇所をずらしていくが、安田にダメージは与えられないようだ。


「ミカ、ごめん、奥の手使うからっ」


 あと数センチにまで近づいた刃に、鈴は決断した。

 一気に息を吸い込み力を溜める。

 鈴の奥の手、呪いの叫び。

 鵺の妖使いである鈴はその鳴き声を聞いた相手の寿命を削ることができる。

 ただ、彼女の声が聞こえる範囲全てが対象となるため、わたしも、そして寺に居るだろう尼さんも巻き込んでしまうだろう。


「やらせねぇよっ」


 鈴が声を出そうと口を開いた瞬間、喉に食いつくように安田が手を延ばした。

 そのまま鷲掴み、力を入れていく。

 気道を押さえられたのか声が出ない鈴。苦しそうに呻きを漏らす。


「鈴っ」


 思わず声に出したけど、わたしにはなにもできない。

 妖での攻撃が効かない敵相手には出番が無い。

 でも、ここにいるのはわたしと鈴だけなんだし、鈴が危険な状態になってる以上わたしがなんとかしないと。


 蛇は刀に遮られ、声も敵に止められた。このままじゃ鈴が殺される。

 鈴の腕が虎の鉤爪のようになり、安田へ攻撃するが、これも簡単に掴み取られる。残った片腕では満足なダメージを与えられなかった。


 なんとか、そうよ、なんとかあいつの注意をそらせれば。

 気付かれないように走り出す。

 背後から回り込んで蹴倒し……


「気付かねぇと思ってんのかダァホッ!」


 背後に回りこみ突進体制に入ったわたしに安田は視線すら送らず蹴りを放つ。予想外の攻撃とスピードに、避ける暇もなくお腹に突き刺さる。

 息が吐き出されると同時に自分の体が宙に浮く。

 速度に乗った蹴りによりわたしは吹き飛ばされて地面を滑空していた。


 数メートル飛ばされ、止まったと思ったときにはものすごい激痛がお腹ばかりか体中から湧き上がる。

 痛みは絶望感を生み、もう楽になりたいと体が悲鳴を上げる。


 起きなければきっと、鈴を殺した後、安田はわたしを一刺しして帰るだろう。

 痛みは一瞬、後はずっと楽になれる。あの……ツバメのように。

 ツバメ……のように? 一人寂しく死んでいく?


 いや、鈴を見殺しにするだけあのツバメよりまだ悪い。

 わたしはまだ鈴を幸せにはしていないっ。

 なにか……なにか方法は?


 この危機を打開する起死回生の……武器。

 まだ諦めるには早すぎる。休むわけにはいかない。

 わたしにはやらなきゃいけないことがあるんだから。


 辺りを見回す。武器になるようなものはなにもない。

 あるのは気絶した真奈香お姉ちゃんと、死んだ鴇。

 そして入鹿お姉ちゃんたちのお墓だけ。他にはなにも……墓?


 そうだ、墓だ。わたしはなんだった? わたしの妖の能力は?

 人魂だ。人の魂を操る妖だ。

 ならば答えは簡単。


 やれることをやって生き延びる。鈴を助ける!

 たとえ残酷な未来が待っていたとしても……

 わたしはツバメじゃない。あんな結末辿る気も無い。

 他人を幸福にするだけじゃない。不幸にしてでも生き残る。

 ここからは、わたしだけの物語を紡ぐんだっ!


 心に決めたら、後はもう行動に移すだけ。

 触手を伸ばし入鹿お姉ちゃんのお墓に突っ込む。

 触手は五つの指をめいっぱいに広げて土へと埋まり、やがて……

 掴む。


 触手が伝える確かな感覚。無理矢理引っこ抜き、手の中に魂が捕まっているかどうかも確認せずに、振り戻す。

 真奈香お姉ちゃん……ごめん。

 心の中で謝って、わたしは入鹿お姉ちゃんの魂を、真奈香お姉ちゃんの身体に突っ込んだ。

名前:  安田やすだ 新太郎しんたろう

 特性:  軍隊好き

 妖名:  鬼切丸

 【欲】: 妖・鬼・霊を斬る

 能力:  【霊体無効】

       霊体、気功による攻撃を一切受け付けない。

      【鬼切り特化】

       妖・鬼・霊に対する攻撃が増加。

       この属性による防壁はどれ程強固であろうと貫通する。

      【気配感知】

       歴戦の戦士のごとく気配に敏感になる。

      【妖刀化】

       手にした刀は全て鬼切丸と化す。

      【同族感知】

       妖使い同士を認識する感覚器。

       個人によって範囲は異なる。

      【認識妨害】

       相手の同族感知に感知されない。

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