暗殺部隊襲撃
妖能力研究所暗殺部隊?
それってつまり……ラボの刺客!?
まさか鴇がそんな存在だったなんて。わたしはグレネーダーの係の人だとばかり思ってた。
研究所自体が動いたうえに私設の暗殺部隊があるとか……相当わたしを消し去りたいみたい。
「ラボからの刺客ね。狙いはやっぱり私と三嘉凪かっ」
「ええ。その監視のつもりでしたけど、出雲美果。昨日よりあなたを暗殺するよう上から連絡がありましたの。せっかくお友達になれそうでしたのに、残念ですわ」
昨日、つまり鈴が一計を案じたという隣のおばさんを使ったわたしを殺す作戦。向こうもこの機会にわたしを本当に殺そうと刺客を送って来たらしい。それがまさかわたしのクラスメイトで新しい友達の一人とか……悲し過ぎる。
もしかして、刈華も刺客の一人だったのだろうか?
わたしが思案していた間に、鈴と鴇の会話が終わっていた。
言葉の途切れと同時に周囲に煙が吹き上がる。
先制攻撃は向こうに譲ってしまったようだ。
「ミカっ」
「わかってるっ」
鈴の言葉より早く身を翻し二人そろって鴇から逃げ出した。
煙相手に物理攻撃は効かない。
変に見知ってしまったせいで魂を奪うことにためらいが生じている。
鈴もわたしの知り合いだからか戸惑っているようだ。
わたしが彼女を攻撃すればきっとためらいなく鈴も鴇を倒しにかかるのだろうけど、わたしが迷っている間はわたしたちは鴇と戦うなんてできない。
でも、やらなきゃ。
ここで死んじゃうわけには行かない。
鴇を、わたしの敵を倒さなきゃ。
意識を集中させる。
触手に力を込め、わたしは逃走していた足を止める。
よし、覚悟はできた。殺すまでは行かなくても、身体から魂を引き抜いて無力化しよう。
後で戻すにしても、今はとにかく倒す事だけを考える。
「鈴、行くよっ」
「いいの?」
聞いてくる鈴に答えを返さずわたしは息を止めて煙を突っ切り触手を伸ばす。
鈴もそれで覚悟は決まった。大きく息を吸い込むと、逃げるのを止め鴇めがけて走り出す。
「え? ちょ……」
逃げのスタイルから一気に変わったわたしたちの攻撃に慌てた鴇は両手を前に出して止めてほしいと意思表示してくる。
が、わたしたちにもう迷いはない。
敵は……倒すっ。
例え相手が眠らせて妖能力研究所に送ることを考えていたとしても。わたしたちを殺そうと思っていなくても。
それが、今のわたしにできることだから。
今度は鴇が逃げ惑う番だった。
わたしは躊躇も容赦もしない。
鴇には躊躇があったようだがわたしも鈴も本気で相手を追い詰めていく。
鴇であろうと誰であろうと、わたしは手を抜いて仲間をピンチにさせるわけにはいかない。
鴇が足をもつれさせ派手に倒れる。すぐにこちらを向くが、遅い。
「ま、待って出雲さんっ」
必死の叫び。わたしは触手を一瞬止めようと思ったけれど、あえて止めなかった。
手を抜いてしまったらわたしがやられるかもしれないから。迷いは捨てることにする。
「お願い、待って! なにもしないっ。あなたの抹消なんてしないからっ」
涙ながらの命乞いに思わず鈴が足を止める。
それに気付いてわたしも鴇に触れる直前だった触手を止めた。
鴇は上体を起こし両手を上げて降参ポーズを取ってしまう。
うぅ。相手に降参されると折角倒す覚悟決めたのに戸惑いが……
どうしよう。やっぱり、本当なら鴇の魂引き抜いた方がいいよね?
でも、こうして降参された人を相手にするとちょっと無理かなって思う。
わたしの決意なんてすぐ揺らぐものだったのかな?
「こんなことしたくなかったのよっ! でも、私にはラボに敵対する者を抹殺する義務があって、私はあなたを殺したことにして逃がそ……ぅっ……?」
唐突に、鴇の声が止まった。
ズブリと胸元に突き出た突起物。
赤い滴りを地面に落とし、いつの間にかそれは存在していた。
「あ……え?」
自分でもなにが起こったのかわからないのだろう。
見ているわたしの方がいくらか状況は理解できる。
鴇の背中から身体を貫いたその突起は、彼女の後ろの人物に握られた日本刀だった。
「バカヤロウが、仲間だろうがなんだろうが切り捨てるのが俺らだろうがよ? ったく、これだからガキはいけすかねぇんだ。任務より感情を優先しやがる」
ずるりと引き抜く。
鴇の体がゆったりと仰向けに倒れる。
赤い液体がじわりと広がっていった。
「妖能力研究所暗殺部隊第一班の安田だ。このバカ女に代わってお前ら全員斬り捨てに来てやったんだ、ありがたく思えや」
日の丸の鉢巻をした男が立っていた。
軍服に身を包み、さながら旧世代の将校とでもいった服装で、手にした日本刀を振るい滴る血をピシャリと飛ばす。
抜けていく……鴇から魂が……鴇が死んじゃう?
思わず駆け寄りそうになって、鈴に止められた。
鈴は冷や汗混じりに苦い顔で安田を睨みつけている。
安田は無造作に鴇を蹴りつけ、日本刀を構える。
ニヤリと不敵に笑み、こちらに手の甲を向けると人差し指で掛かって来いとジェスチャーをする。
わたしたちが無手だからって侮っているわけじゃない。
自分の実力に自信を持った安田の態度に、わたしたちは互いに見合う。
鈴と二人アイコンタクトで頷いてわたしたちは安田と戦う決意をした。




