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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三節 煙々羅
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辿る物語

 鈴が起きたのを見計らい、ビール二本で酔いつぶれた伊吹さんを放置してわたしたちはホテルを後にした。

 もちろん入り口から出るといろいろと危険があるのでビルの屋上部分にある窓から脱出している。


 入り口に敵が張っている可能性もあるが、ラブホテル玄関から女の子二人がでてくるのもちょっとした誤解があって精神的にどうだろうという理由があったんだけど、鈴が既に用意していた窓から隣のビルへ降りるルートがあってよかった。


 ビルから降りたわたしと鈴は周囲を警戒しながら白滝さんに教えられた道筋を辿っていく。

 電車に乗ればすぐに着く隣町の山の上にあるお寺だったけれど、電車で行くとこれもやっぱり追跡される確率が高くなるそうで、わざわざ歩いて三時間程を費やすことになった。


 山を登る。

 夏ではないので蝉の音こそ聞こえないが、風に揺れる並木の音が心地よく響き、日のあたる苔の生えた石段を踏むのがなんとなく心を沸きたてる。


 鈴はお寺というものを初めて見るそうで、感心した面持ちで不審者よろしく周囲に視線を走らせていた。

 にしても……長い。さすがにアヤカシタワー程じゃないけど……これはキツい。筋肉痛になりそう。


 石段を登りきるとなぜか赤い鳥居が三つ。

 ここは神社かと思ってしまう。

 地面にはお寺まで石畳が続いている。神社っぽいお寺の前には賽銭箱があり、その手前には一人の尼さんが立っていた。


 ちなみに、お寺と神社の違いは、仏を祭ってるか神様を祭ってるかの違いらしい。

 だから、たとえ鳥居があってもここはお寺なんだって。


「こんにちは、あの……」


 こちらから話しかけると、尼さんは柔和な笑顔でお辞儀を一つ。

 話は聞いてますよと出迎えてくれた。


「こちらへどうぞ。あまりよい歓迎はできませんがお茶と茶菓子など用意しています」


 わたしと鈴は顔を見合わせ後についていく。

 ただ、鈴は境内から先に入る気はないそうで、外を見張っとくと言って別れた。

 どうも入鹿お姉ちゃんのお墓以外は興味ないようだ。


 仕方ないのでわたしだけ御呼ばれするとしよう。

 来客用らしい仏間に通されたわたしは、大仏様の目の前で茶菓子を振舞われていた。


 なんとも不思議な空間だ。

 巨大な大仏様の像がありながら床は畳張り。

 まるで大仏様のお客として来ているようだ。


 しかも妙に生活感があり本棚まである部屋には万年床とすら思える布団まで敷かれている。

 まさかここに寝泊りしてる? もしくは大仏様の寝床とか?


「絵本?」


 本棚に入っていたのは全て絵本だった。思わず近寄り覗き見る。

 桃太郎、浦島太郎からグリム童話に不思議の国のアリスなどなど、古今東西あらゆるジャンルの絵本が置かれていた。


「それですか? 柳宮君の大切な人が絵本好きだったそうなのです。彼女の墓前にお供えするため、お参りの際に一冊づつ持ってくるのですよ」


 尼さんはそう言って両手を合わせお辞儀する。

 わたしはふーんと興味なさそうにその絵本の一つを取る。

 白滝さんは今でもお姉ちゃんを思っている。それが分かっただけでも、わたしは嬉しかった。


 絵本のページを開きながら、お姉ちゃんがコレを読んでいる姿を思い浮かべる。

 実際には見たこと無いはずの光景なのに、なんだか容易に想像できてしまった。




 ある日のことでした。

 冬を前にして、列をはぐれた一羽のツバメがいました。

 早く列に戻りたいのに、ツバメには仲間の居場所がわかりません。

 もうすぐ冬がやってきます。

 このままでは寒さに凍え死んでしまうのです。

 急ぐツバメに声を掛けたものがありました。

 黄金の王子の像です。

 像はいいました。


「困っている人を助けたい、でも僕はこの場を動けない。ツバメさん、君が変わりに届けてはくれまいか?」


 ツバメには急がなければならない理由がありました。

 でも、王子の言葉に共感し、ツバメは人々に王子が身に着けていたものを届けました。


 沢山の嘆きの声を笑顔で満たし、

 王子に報告に行くごとに新たな依頼を受け飛び立ちます。

 やがて、王子が身につけていた全てのものを配り終えたツバメは……


 力尽き、王子の像の目前で死に絶えました。

 ツバメに手伝ってもらったのに、まだ恩返しをしていない王子は、悲しみのあまり心臓を凍てつかせ、共に……




「共に……死んでしまいました」


 涙が溢れた。

 物語が悲しかったからじゃない。

 お姉ちゃんが懐かしかったからじゃない。

 ツバメが……まるで今のわたしのようだったから。


 伊吹さんという王子の像に出会ったツバメ。

 わたしはお姉ちゃんの魂を見つけてさよならを言いたい。

 そのために伊吹さんの仕事、困った人を助ける探偵の仕事を手伝った。


 だから、ツバメの最後が自分に被る。

 お姉ちゃんの墓を見つけることはできた。

 でも、グレネーダーへの対処は済んでいない。


 このまま伊吹さんたちについていていいのだろうか?

 向かって来る巨大な冬から逃れるべきじゃないのだろうか?

 暖かい土地へと飛び立つべきじゃ?


 翼お兄ちゃんとグレネーダーから逃げるべきなのかな。

 別に、グレネーダーと敵対することは怖くない。

 伊吹さんたちと一緒に戦うのも嫌じゃない。わたしが怖いのは……


「志半ばで、死んじゃうこと。使い潰されるのは嫌だよ……」


「涙する必要はありませんよ」


 後ろで黙祷しているように静かだった尼さんが声を掛けてきた。

 自分の世界にどっぷり浸かっていたわたしは、その声で我に返る。


「物語は辿るものではありません。紡ぐものです。貴女の物語は、貴女だけのもの。決してそのツバメが辿った結末を辿る必要などないのです」


 まるで全てを理解したような言葉にわたしは尼さんを振り返る。

 仏のような笑顔を浮かべ、お墓に案内しますと促してきた。

 ワイルドさんの童話『しあわせの○子』。もうちょっとぼかしたほうがよかったですかね?

 これ、二次創作になるのかな? 指摘があれば変更あるいは削除するかも。

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