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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三節 煙々羅
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冷や水を浴びせられる

 高港支部に顔を出すという翼お兄ちゃんに別れを告げ、わたしは家路を急いだ。鈴たちと一緒に帰っても良かったけど、結局彼らは影から護衛のスタイルを崩さないようだ。

 仕方ないので一人翼お兄ちゃんの恥ずかしそうな笑顔を思い出していると、


 バシャッ


 翼お兄ちゃんへの告白で舞い上がりすぎた幸せ絶好調のわたしに、思わぬアクシデントが襲い掛かった。

 家まですでに数メートルを切った隣のおばさん家の前で、水撒き中のおばさんが放り投げた水に、自分からかかりに行ってしまったのだ。

 一瞬で幸福感は飛び去り、得も知れない不幸感が押し寄せる。

 いや、今のはおばさんが狙ったよ。狙ったよね? そうだよね?


「ちょっとアンタ! なに飛び出て来てんのさバカ娘!?」


 驚いたような怒鳴り声。

 思わずカチンと来た。

 普通水をかけたら自分に非が無くてもとっさに謝るもんじゃない?

 それをなに? 確かに飛び出したのはわたしだけどさ、なんで水かけられただけじゃなく誹謗中傷まで受けなきゃいけないの?


 せっかく、せっかく翼お兄ちゃんと楽しいデートしてそのまま家まで良い気分で帰ろうとしてたのに……

 悔しくて許せなくて、何故か悲しくなってきて……気づいたら泣いていた。


 周囲を歩いていた人々がなにがあったのかと振り向いてくる。

 さすがに大声で泣かれるとマズイと思ったのか、おばさんは急にオロオロとしだし、バツの悪そうな顔で懐から財布を取り出す。


「ほ、ほら、これでクリーニング出すか新しい服買いな」


 と、五千円をわたしに握らせる。

 名残惜しそうにお札を見ていたが、もう係わり合いになりたくもないと逃げるように家に帰っていった。


 後に取り残されたわたしは、泣きながら家に帰る。

 泣いているのに家に帰ろうと歩き出してる自分にちょっと感心しながら、涙腺弱いなぁと自己嫌悪する。

 家に帰り着くとお母さんにただいまと答えて自室へ戻る。


「お帰りミカ」


「あ、鈴先に帰ってたんだ」


 まだ涙目の眼に手をやって涙を拭い、わたし鈴に声を返す。

 まぁねと答えた鈴はわたしの顔を覗き見てどうしたのと聞いてきた。

 実はと答えて泣いてた理由を話すと、申し訳無さそうに両手を合わせる。


「ゴメン、それ伊吹のせいだ」


「へ?」


「いやぁ、実は前々からあのおばさん使ってミカ抹消計画練ってたのよ。それで伊吹に柄杓に化けてもらって……説明もなしにほんとゴメン」


 どうやら、水をかけたのはおばさんでなく水の入った柄杓に化けていた伊吹さんだったらしい。

 後で本気で泣かす。怪談話の取っておきを聞かせてやる。

 いや、それだけじゃ足りない。一週間の禁煙の刑に処してやる。


「酷いよ。せっかく良い気分だったのにぶち壊されたしっ」


「だからゴメンミカ。でもね、できるだけ急いできっかけを作りたかったの」


 謝る態度から一転、真剣な面持ちで話し出す鈴。

 そんな顔するなんてずるいと思いながらも仕方なく「なんで?」と聞いてみる。


「三嘉凪から連絡あった。向こうが動き出したってさ」


「……そっか。なら、仕方ないね」


 楽しみだけで生きていけるほど世界は甘くない。

 だから先手を打つ必要がある。

 おばさんがどう関係するのか理解できないけれど、どうやら行動を起こすのは今からの方が良さそうだ。


「さ、行こうかミカ」


「うん」


 わたしたちは手を取り合い、潜伏先のホテルへと向かうのだった。

 お母さんにはご飯はいらないと伝えておいた。

 もう戻らないつもりだけど……ごめんねお母さん、これから一人ででもやっていける?

 凄く心配だけど、わたしはもう助けてあげられないから。

 でもきっと、翼お兄ちゃんがいるから大丈夫だよね?




 翌日。伊吹さんが巧くいったと楽しそうに帰ってきた。

 わたしが寝ぼけ眼でベットから身を起こすと、それに気付いた伊吹さんが「よぉ」と声をかけてくる。


「……なんか楽しそうだね伊吹さん」


「ああ。君の雲隠れの方法が巧くいってね。あのおばさん。やはり妖使って君を陥れてくれたよ。グレネーダーもこの気に君を殺してしまおうとするはずだ」


「計算どおり……だね」


「ああ。明日にはお嬢と争って貰う事になる。そこで君は一度死ぬ。奴らに殺される前にお嬢に粛清されて死亡。死体はこちらで回収って寸法だ。それまでは自由にして貰っていいよ。君は今日、彼女に会いに行くんだったね」


「伊吹さんもくるんだよね?」


「いや、俺は別件がある。君にはお嬢が付いていくそうだ。時間が取れれば三嘉凪も合流するとか言ってたぞ」


 そうなんだと納得してベットから這いでる。


「着替えるなら外でとくが?」


「いいよ、洗面所で着替えるから。それより伊吹さん、朝食は?」


「さっき頼んでおいた。もうすぐ出来るさ」


 食料調達は全て伊吹さんに任せていた。

 わたしが作っても良かったけど、調理道具がないので、また、鈴たちは指名手配者なので外に出るわけにも行かず、結局わたしと出会う前と同じく伊吹さんが食料調達係となっていた。


 人数が増えて食費だけが割り増しになるので、伊吹さんの懐だけが日を追うごとに寂しくなりそうだ。

 そのうち借金まみれで首吊らないか心配です。


「そういえば三嘉凪さんは?」


「あいつは鉄砲玉だ。行き先告げたりしねぇから連絡の取りようも無い。ま、殺したって死ぬような奴じゃないから放っておけばいい」


 伊吹さんはどうでもいいと部屋に入ってテーブルにコンビニ袋を置く。

 ビール二本に弁当が三つ。ジュース二つの食料から見るに、おそらく伊吹さんがビール二本を飲むのだろう。


 わたしも鈴も未成年だし、三嘉凪さん帰ってきそうにないから食っちゃ寝する気だ。

 着替えを終えて洗面所からでてくると、伊吹さんがすでにビール一本一気飲みしている光景に溜息付きたくなった。

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