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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二節 土蜘蛛
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アヤカシタワーの依頼人2

「ピナちゃん? というと飼っているペットかな?」


「あ、うん。その、家族です、はい」


 ペットを家族扱いしているのかぁ。

 ちょっと自分では考えられない事実に関心を示しつつ、彼女と伊吹さんの会話に耳を傾ける。


「何時どこでいなくなったのかな?」


「えっと、今朝はいたの。でも朝の餌の時間にはもういなくなってたの。大きな体だから一人で遠くになんて行けないはずなんだけど……」


「ふむ、特徴は?」


「あ、その、写真あるから」


 と、用意していたのだろう、スカートのポケットから写真を取り出す。

 手渡された写真を伊吹さんと見る。瞬間二人とも固まった。

 そこにはゴツゴツとした緑色の肌を持つ立派なペットが写っていた。


 とても凛々しく、目がくりくりとして、お鼻が大きくて、四足をしっかりと地面につけて……

 しいて言えば長い尻尾と大きなお口がチャームポイントだろうか?

 頭のリボンはおそらく流亜の趣味だ。


「これって……」


「はい。クロコダイルのピナちゃんです」


 写った部屋の大きさと目の前の部屋の大きさを見比べて、ピナ、もしくはワニと呼ばれる物体の大きさは2メートル程。

 当然この部屋のどこかに隠れていて見当たらないなどといったことはありえない。


 しかも今のところ騒ぎになっていないので外に出た。という線も無いと思っていいだろう。

 そうやって仮定を一つづつ消していくと……


「拉致、か」


 伊吹さんが呟いた。わたしとしても同じ意見なので頷いておく。

 目の前で聞いていた流亜の顔が一気に暗くなった。


「あ、いや、可能性が高いというだけでそうだと決まったわけじゃないって。ほら、外に一人で出て散歩してるかもしれないしな」


 慌てて言い訳する伊吹さん。探偵としては二流以下だった。

 にしても、ワニ……か。

 普通こんなもの盗もうとはしないはず。

 と、すればどうしても欲しがっていた人?


「ワニに興味を示していた人はいたかな? もしくは物凄く嫌悪していたりとか?」


 伊吹さんの言葉に少し考え、流亜は首を横に振る。

 心当たりは無いようだ。


「住人に聞き込みだな」


 ボソリと呟く伊吹さん。でも待って、よく考えようよ伊吹さん。

 住人って六十階もの住人全てに聞き込みですか?


「よし、じゃあ早速とりかかるか」


 わたしの不安を無視して伊吹さんは席を立つ。

 わたしに着いてくるように促し外へ。流亜に別れを告げて一階へと降りていく。


 ヘトヘトになってわたしが階段を降りきる頃には、すでに二件目の住人に伊吹さんが聞き込みをしていたところだった。

 聞き込みを終えた伊吹さんは、わたしに気づいてこちらにやってくる。


「俺はここから上に聞き込みを開始する。嬢ちゃんは管理人室で防犯カメラ見せてもらってくれ」


「え、あ、はい?」


 はいと答えはしたものの、防犯カメラって見せてくれって言って見れるものなのだろうか?


「方法は任せる」


 どうやらわたしがなんとかしてカメラを見ないといけないらしい。

 能力を使ってでも見ろということ? わたしに犯罪者にでもなれというのだろうか?


 言わせて貰うがわたしの能力である人魂、人の魂を取り出す以外に相手に戻すということも出来るけど、それだけだ。

 確かにそれは有効手段と言えなくも無い。


 管理人さんの魂を一度抜いて、仮死状態にしておいてカメラを確認、その後に魂を戻せば確かに完全犯罪は可能だ。

 しかし、下手をすればそのまま魂が昇天してしまうことがある。

 そうなってしまえば殺す気は無くとも人殺し。


 しかも妖を使った殺人である以上グレネーダーが必ず動く。

 翼お兄ちゃんに安全を保障されていようと殺人事件を起こすような危険な妖使いを放っておくグレネーダーじゃないはずだ。


 とはいえ仕事を手伝うと言った以上防犯カメラはわたしの担当。やらないわけにはいかなかった。

 それにわたしは殺し殺されることを覚悟している。

 民間人をってのは流石に気が引けるが、相手が敵対するなら……


 伊吹さんに場所を聞いて、入り口近くの管理人室に向かう。

 管理人さんが話しの分かる人だと良いなと祈りながら部屋の入り口に到着、受付で用件を承っているため呼び出し用チャイムと言うものが無いので、手でコンコンと扉を叩く。


 管理人らしきおじさんが出てきたのは、扉を叩いて少ししてからだった。

 わざわざこちらに呼んだのはドアを開いてもらうため。

 断られた時にこの人の魂を抜いたとして、ドアが閉まったままでは意味が無い。

 そういうわけで第一段階はクリア。続いて許可を貰うこと。


「なにか用かいお嬢ちゃん」


 膝に手をついて目線をわたしに合わせてくるおじさん。人の良さそうな顔で、これなら話すだけで通してくれるんじゃないかなって思う。


「実はですね、ちょっと防犯カメラを見せていただきたいなぁと」


 すると、おじさんは困った顔をする。ダメ、かなやっぱり。


「う~ん。なにかワケありみたいだし見せてあげたいのは山々なんだけど、ここにはカメラなんて高いだけの無能なものはないんだよ」


「へ?」


 防犯カメラが……無能!?


「ここがアヤカシタワーなのは分かるよね?」


「あ、はい」


「要するに僕の妖があればカメラは不要なんだ。なんてったって【福耳地蔵】だからね」


 福耳地蔵? 聞いたことの無い妖だ。


「ん? 福耳地蔵は知らなかったかい?」


 と、まるでわたしの思っていることを理解しているかのように話してくる。


「その通りだよ。相手の考えていることを聞き取るのが能力なんだ。サトリみたいな能力だね」


「じゃあわたしが来た理由もわかるんですか?」


 なら話は簡単だ。と思ったのだが、おじさんは首をひねって困った顔をした。


「残念ながら僕の能力は心の声を聴くものであってその場で思っていないことは聞こえてこないんだよ」


 それがサトリ、全てを見透かす者との大きな違いだった。

 福耳地蔵は相手の心の声を聞き取ることが出来るが、相手がその時思い描く風景。愛しい人の顔。そういったものは見ることが出来ず、心の中でその時思ったこと以外の記憶などを知ることもできない。

 いうなれば高性能の嘘発見器のような能力だ。


「ええとですね……」


 これは言っていいのだろうか? と迷いはしたが、結局言うことにした。


「なるほど、細本さんとこのピナちゃんがね」


 ちょっと青ざめたような顔でう~んと唸る。

 それから目を閉じて、ちょっとなにも考えないでくれよ。と言われたわたし。

 考えるなと言われてもそれは無理な相談だった。

 ついつい今日のごはんはなにかな~とか帰ったら宿題やんなくちゃとか考えていると、苦笑しながらおじさんは口を開いた。


「見つけたよピナちゃん」


「ほぇっ!?」


 あまりにもあっけなく見つけられたことに、おもわず間抜けな声で返してしまう。


「屋上の辺りだね」


「屋上っ!?」


 確か60階だったような気がするんですけど。

 え? 登らなきゃダメ? 伊吹さんに任しちゃダメかな?

 おじさんにお礼を言って、わたしは伊吹さんの元へと向かった。


 おじさん、わたしが物騒な事考えてた間は心の声聞いてなかったようだ。いろんな意味で助かったよ。

 名前:  元木もとき たかし

 特性:  のんびり屋

 妖名:  福耳地蔵

 【欲】: 善意の施し

 能力:  【心声静聴】

       周囲が静かである場合にかぎり

       周囲の心の声を聞くことができる。

      【福耳付与】

       対象を福耳にして心声静聴能力を授ける。

      【同族感知】

       妖使い同士を認識する感覚器。

       個人によって範囲は異なる。

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