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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二節 土蜘蛛
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鵺、学校へ行く

 次の日、わたしと鈴は同時に目を覚ました。

 二人揃ってお早うと言いながら洗面所へ、タイミングを合わせたように歯磨きうがいを終えて、食事も同時にいただきますと手を合わせて食べだした。


 鈴の制服は伊吹さんが送ってくれたのか、今日の新聞とともに郵便ポストに入っていたのでそれを着てもらい、わたしも着替えて家を出る。

 今日の鈴は、前の方の髪を編んで後ろで結びつけたストレート。

 どこかのお嬢様に見えなくもない。

 悔しいことに童顔なわたしとは全く別の生体にすら見えた。


 二人揃って家を出て、わたしはいつものようにグレネーダーに向かう。

 伊吹さんは三嘉凪さんとコンビニ弁当らしいのでお弁当を持って行かなくてもいいらしい。

 鈴の制服と一緒に置かれていた紙に書いてあった。


 折角作った弁当二つ分余りが出たのだが、まぁ鈴に頑張ってもらう他あるまい。

 高港支部の入り口に着いてしばらく待っていると、いつものように白滝さんがやってきた。


「あ、お早うございます白滝さ……」


 よくよく見れば、白滝さんの後ろに隠れるようにして、フード付きの暖かそうな毛糸の服に身を包んだ女の子がいた。


「ええと、お子さん……ですか?」


 と聞いては見たものの、小学生くらいの背丈なので、隠し子ならいくらなんでも入鹿お姉ちゃんが可哀相過ぎる。


「いや、女もいないというのに子持ちというのも変な話だろう。新しい抹殺対応種処理係の係員だ。前田、彼女は出雲美果、これから紹介する志倉翼の従兄妹だ。それと……」


 訝しげに鈴に視線を移す。


「あ、わたしの友達の河沼鈴鹿さん」


「河沼? ……そうか」


 大丈夫……かな? バレたりしないよね?


「あ、じゃあわたしたち急ぐのでお弁当翼お兄ちゃんに渡してもらえますか? わたしたち行きますね」


 弁当を前田と呼ばれた女の子に押し付け、白滝さんから目線をそらし、まるで気まずいと体中で現すように足早に去る。

 後から思い返すと、自分でも怪しい態度取ってたってわかるよ。




 教室に着くと、友人になった二人が声をかけてきた。

 鈴は職員室に置いてきた。先生が紹介するそうなので、しばらくは別行動だ。


 刈華も鴇も、わたしの机に近づくなり、互いに牽制の視線を送り、誰憚らぬ様子で火花を散らしていた。

 今日もトキとブルマー婦人の守護霊は健在だ。

 本当に守護霊、じゃないよねコレ?


「席着け~」


 気のない返事と共に入ってきた先生。

「今日は新しい仲間を紹介する」と、月並みな台詞で鈴を壇上へと促した。


「河沼鈴鹿です、その、よろしく」


 人前での会話に慣れていないのか、最後は尻すぼみに声が小さくなっていっていた。


「ええと、仲良くしてください……です」


 自信なさそうな表情がよかったのだろうか?

 男子陣から口笛が聞こえた。

 突然のことに驚く鈴。男子陣が悪乗りするように囃し立てだした。


 先生が耐え切れず大声で「静かに!」と叫ぶ。途端波を打ったように静かになる。

 先生に示された席に鈴が着き、ようやく出欠確認が始まる。


 それにしても、今更だけど白滝さんの態度、ばれちゃったかも。

 それだったら三嘉凪さんたちの目的は果たしたようなものだから、わたしも鈴も刺客とかに気を配りながら学園生活を送ればいいだけなんだよね。

 ようするに、なるようにしかならないのでいつもどおりに動けってことだ。


 この分だと鈴は休憩時間中は質問攻めに合うだろうし、今日は教室からでないようにしよう。

 煙々羅の事もある。鈴とわたしが別行動をするのは避けた方がいいだろう。目の届く場所に……


「出雲っ」


「ふぁいっ!?」


 突然大声で呼ばれ、思考が途切れたばかりか、反射的に変な声をだして皆から失笑を貰ってしまった。

 結局、この日は放課後になるまで鈴は席を立つことすらできなかった。


 傍から見ていて可哀想になるくらいの質問攻め。男子の質問に答えたと思えば女子が質問を始めたりで、昼休憩も食事できないくらい。

 放課後に関しても、わたしと刈華、鴇が協力して教室から鈴を引っ張り出さなければ、明日まで座った状態だったと思う。

 ちなみに、鈴の学校に対する印象は、【楽しそうなところ】から【恐ろしいところ】に変化したのは言うまでもない。




 後を付けられていないかを確認しながら、鈴とホテルに向かう。

 女の子二人でラブホテルというのもなんか嫌だなと思いながらも、隠れ家としては確かに最適なその場所へ、わたしは挙動不審に突入するのだった。


 部屋では三嘉凪さんがベットに寝転がり、高鼾で眠っていた。

 伊吹さんは仕事だろうか? 部屋にはいないようだ。

 三嘉凪さんの上にカバンを放り投げた鈴は、即座にゲーム機のスイッチをオン。一人でゲームに集中してしまった。


 正直言うとなにもすることがないので手持ちぶたさなわたし。

 床に座って鈴のゲームを覗き見すること以外はなにもできなかった。

 伊吹さんの事務所に寄って本の一つでも持って来るべきだったと悔やまれる。


 どうしようもなくなって、結局思考に埋没する。

 ここにくればなにかが分かると思った。でも結局はなにも変わらない。

 確かに進展はあったものの、やるべきことは結局同じ、情報を探して、情報が来るのを待って……


 入鹿お姉ちゃんの死の真相は分からぬまま、彼女の死体も不明。

 せめて魂の残滓でもあればいいんだけど、成仏したのかそれとも死体の方に未だに留まっているのか……


 そもそもなんでわたしはこれほどまでに入鹿お姉ちゃんにこだわっているんだろう?

 すでに最初のきっかけは思い出せなくなっていた。

 ただ、入鹿お姉ちゃんの死体を見ないことには納得ができないとだけは分かるので、当分はこの時間待ちが続くのだろう。


 妖能力研究所の場所にいければ解決するのだろうけど、そもそも一人で乗り込む場所ではないわけだし、鈴たちと行くならやっぱり準備が必要。

 わたしがなにか一人で行動できることもなし、暇つぶしできるなにかを持ってきた方がよさそうだ。


「お、もう来てたのか」


 あまりの暇に、うなされる三嘉凪さんの上ででんぐり返しなどでごろごろしていると、ようやく伊吹さんが帰ってきた。


「あ、伊吹さん」


「丁度いい、嬢ちゃんついてきな」


 言うが早いか再び部屋から出て行く伊吹さん。

 やること無いので付いてくことにした。

 三嘉凪さんを足場にしてぴょいんと床に着地。

 うげっとか聞こえたけど……まぁ空耳ってことにしとこう。

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