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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二節 土蜘蛛
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美果、欲の発散

 食事はなんとか無事に済んだ。

 多少鈴の顔に見覚えがあったのか、首を捻るような仕草を何度かしていた翼お兄ちゃんだったけど、結局鈴が鈴であることは分からなかった様子だった。

 この分なら途中で気付くこともないだろう。だって翼お兄ちゃんだし。


 騙しているようで悪いと思いながら、わたしは再びベットに腰掛けている鈴を見る。

 すでに翼お兄ちゃんは帰ってしまっていた。

 今日はグレネーダーの医療施設にある仮眠用ベットで寝泊りするそうだ。


 家にはいつ帰っているのだろう?

 翼お兄ちゃんのことだし帰ってないんだろうなぁ。


「明日から学校かぁ……ねぇミカ。学校ってどんなことするの?」


 部屋に着くなりベットに腰を降ろした鈴が私に聞いてくる。

 私は勉強机に設置された椅子を引いて逆向きに座り、鈴と対面した。


「あ、そっか。施設育ちだから学校行ったことないんだっけ?」


「うん。三嘉凪に聞いたけど、あいつの言葉全く信用できないし。一応確認するけどさ、転入の挨拶ってお腹出して腹芸で爆笑を取れたらクラスに溶け込めるっていうのは絶対嘘だよね?」


 ある意味正解だと思う。

 そんな奇抜な挨拶で爆笑を誘える芸達者なら絶対に溶け込めるだろう。

 もちろん一般人がそんなことをやろうものならキチガイさんとして一生日陰者なこと受けあいだ。


「間違いなく嘘だよ……」


「やっぱり? じゃあ屋上呼び出しは殴り合おうぜの意味っていうのも? 肩がぶつかったら戦闘開始の合図っていうのも?」


 いや、漫画とか昔はそんなのもあったけどさ……三嘉凪さん、鈴になにをさせたいんだろう?

 こんな知識で学校なんかに行ったら気に入らない奴片っ端から血まみれにしそうだよ?

 停学確定だよね?


 これはもう、三嘉凪さんお仕置きだなぁ。

 わたしの欲に付き合ってもらっちゃおう。

 百話くらい一気にいっちゃおっか。


「やっぱり三嘉凪は信用できないなぁ。その点ミカは結構話せるから信頼するよ」


「ほんと? あ、それじゃわたしの欲発散にも付き合ってくれる? 最近は翼お兄ちゃん用事があるって付き合ってくれなくて。お母さんもお母さんで見飽きたって言うか……」


「そういえば人魂の欲ってなんなの? 聞いてなかったよね」


「ん、じゃあお話聞いてください。最初だしあんまし恐くないのから話すね。第一話『風呂場から覗くモノ』」


 鈴の返事も待たずに明かりを消し、欲解消用に買ってあるライトを灯して話し出す。


「その男の人は六畳一間のマンションに住んでいました。丁度大学もない休日のこと、ベットの上で昼寝をしようと横になり、ふと、頭の上から声がしました。『せんせい……』男は一瞬空耳かと思い、視線をキッチンに向け……見つけてしまいました。左の壁に掛けられた手。薄い靄のようなそれは風呂場から顔を出し、黒い空洞の目で男を見ていたのです。『せんせい……』まるで男にかけられているような声。気のせいかと目を擦ろうとして……男は体が動かないことに気付いたのです。風呂場から覗くモノは次第に身体を覗かせて、やがて三つ編みの女生徒のような風貌がゆっくりと近づいてきます。男は身の危険を感じました。頭の中でこのままでは殺されると警鐘がなります。必死に逃げようと、もがき叫び、ようやく『せんせいいない……』と痺れた舌で声を漏らしました。すると少女らしきものはドアへと向かい、すぅ……っと消えていったのでした……」


 臨場感たっぷりに話し終わり鈴の顔を見る。

 なんとなく青い顔に満足感を覚え、わたしは怪談を一区切りする。

 ああ、欲が満たされるこの感じ……ゾクゾクするよ。エヘヘ。鈴、いい顔してるね。

 ついつい自分が黒い笑みを作りそうになってしまうので、自制するのが大変だった。でも、鈴の恐れ具合はなかなか……イイ。凄くイイ。


「ええと、今のなに?」


「怪談だよ。わたしの欲は怪談話を人に聞かせること。聞くだけだしいいでしょ? だめかな?」


 あ、迷ってる迷ってる。

 物凄く頭ひねってうんうん唸ってる。

 今程度の話ならいいかなとかもっと怖いの来そうだなとか思ってる。


「ま、まぁ居候の身なわけだし、私で役に立つならこのくらい……」


 どうやら幽霊の類は余り好きではないらしい。

 微妙に体が震えてるのが恐がり屋だと如実に現していた。

 ふふ、これは素敵な声が聞けそうなよ・か・ん♪


「うし、それじゃあ第二話『這い上がってくる赤ちゃん』」


「うえっ!? まだ続くの!?」


 当然、わたしとしては最近ご無沙汰だったのでこの機会に一気に温存していた百話程話しておきたいくらいだ。

 ……いや、鈴にはこれからも聞いてほしいし、50話くらいで止めとこう。


 うん、できるだけソフトなのを多めにしとこうかな。

 『戸棚から覗くアレ』とかさすがに怖いすぎて二度と聞いてくれなくなりそうだし。


 ……結局鈴は38話の『落ちる女に笑われた』でギブアップしてしまったので最後まで話すことは出来なかった。

 うーん。ちょっと消化不良。

 できればもうちょっと鈴の絶叫とか聞きたかったなぁ。

風呂場から覗くモノ、這い上がってくる赤ちゃん……実体験です♪

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