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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二節 土蜘蛛
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潜伏者の集い後編

 三嘉凪さんの話では、鈴の捕獲又は抹消の指令破棄を三嘉凪さんが上層部に進言して、権限を使い却下させたことがきっかけらしい。

 権限というのは、なんとこの三嘉凪さん、グレネーダー総司令官の弟だという。


 総司令官は今はどこにいるか分からないそうだけど、上層部の責任者とは旧知の間柄。

 そのコネを最大限に利用した結果。


 妖能力研究所、通称ラボから派遣されていた翼お兄ちゃんがいた部隊の前指揮官に怨まれ、翼お兄ちゃんの新人研修で事故に見せかけ殺されそうになったらしい。

 翼お兄ちゃんのテケテケ、振りむいた相手の首を自動で切り落としちゃうから……


 それを助けたのが入鹿お姉ちゃん。

 三嘉凪さんを助けたせいで妖能力研究所から追われる羽目になり、妖能力研究所の人間が多く入り込んでいたグレネーダーからも追われることになった。

 と、まぁ要するに、暗殺を見られたための口封じとして殺されたということだ。


「それじゃあ、入鹿お姉ちゃんはグレネーダーを裏切ったわけじゃないんだね?」


「そうだな。どちらかといえば、裏切られた。だろうな」


 やっぱり、入鹿お姉ちゃんは悪くなかった。

 だけど、もう一つのことは未だに分からない。

 入鹿お姉ちゃんの魂がどこにいるのかという問題だ。


 昇天したとしても残りかすのようなものは必ず残る。

 それが死亡現場になかったということは、未だに遺体についていた。

 つまり、今現在入鹿お姉ちゃんの肉体がある場所が分からない。

 だけど、これについては三嘉凪さんも鈴も知らなかった。


「おそらくだがな。妖能力研究所にあるやもしれん」


 とは三嘉凪さんの言で、妖能力研究所に茶吉尼天の研究材料として収容された可能性があると言った。

 妖能力研究所は鈴が居た場所で、そこで行われた研究と言う名の拷問は、想像を絶するものだった。


 元々、鈴には妖能力はなかったのだ。

 だが、研究者たちは彼女に妖能力を移植した。

 他人の妖使いから能力を剥ぎ取り移植。

 どういうふうにするのかは分からなかったけれど、剥ぎ取られた妖使いは死んでしまうそうだから、その苦痛は想像に難くない。


 移植された方も薬の効いているうちはよいらしいが、切れると激痛に襲われ、四六時中元能力者たちの死ぬ瞬間の絶望とか記憶とか、いろいろなものを見せられるらしい。


 鈴自体はもう慣れたとか言ってるけど、三嘉凪さん曰く、時々うなされている事があるらしい。

 逃亡中だから薬がないので仕方ないと言えば仕方ないけれど、想像できない辛い思いを鈴がしていることは確からしい。


 そんな被害を平然と出しながら捕まったり、全貌が明らかにならないのは、警察やグレネーダー。

 果ては国の中枢に深く入り込み、秘密に近づいた者を影ながら、または堂々と抹消していくからである。


 表の顔は国立の大学病院のような場所。

 数多くの妖使いが利用する、妖のための医療機関でありながら、普通の人の病気にも対応。

 かくいうわたしも風邪引いたときは何度か利用した。

 いたって普通の病院だったように思う。


 だけど、その裏の顔は全く違うらしい。

 妖使いの死体から能力だけを剥ぎ取ったり、普通の人間や妖使いに移植したり。人を人と思わないモルモット実験のような惨状を、鈴は体験してきたのだ。

 入鹿お姉ちゃんもそれに同情したのだろう。


「と、まぁこんなところだな。今のところの状況は」


「人材不足だしね。今はグレネーダーに対抗できる組織作りの最中……なんだよね?」


「ああ、その通りだ鈴君。そして……ミカ君。どうかな? この秘密を知った以上、君もラボに狙われるだろう。それに、君が会いたい入鹿君も恐らくラボにある。我々とともに来ないか?」


 言葉自体は意味がない。ただ、彼らはわたしを誘っているだけ。

 ソレは分かるし、聞いてしまった以上確かにその道以外の選択肢はないだろう。

 あの煙々羅以外にもどこかからわたしを探っている誰かがいないとも限らない。


「でも、いきなり消えたりしたら皆不審がるよ」


 いつもどおりに過ごすとしても、彼らとともにこの部屋に留まるとしても……どちらもわたしにとっては危険なこと。


「ふむ、要するに不審がられなければいいのだな? 時間をくれ、少々考えてみる」


 時間が欲しいのはこっちだった。

 別の選択肢の模索とか、いろいろと考えたいことがある。だけど彼らとともに行くかどうかは今すぐに決めなければならない。

 はっきり言って一緒に頑張ろうという気持ちよりも戸惑いのほうが大きかった。


「しばらくは今の状態を維持すべきだろうが、一人にはなるな。伊吹君の話では煙々羅に襲われたそうだし、一応鈴君をつけるか」


「え? 私?」


「毎日部屋に篭るのも身体に悪かろう。髪型と服装を変えればそれなりにいけるんじゃないか? 危険ではあるがなにか対応するならば同じ歳くらいの君が一番いい。まぁ、伊吹君が幻術使って学生として潜入と言う手もあるわけだが……」


 言われて初めて気付いたようにキョトンとした鈴は、わたしに向いて、まるで同意して欲しいかのように見つめてくる。


「ま、まぁ化粧とかしたら別人に見えるかも? わたしもやり方は知ってるから出来なくはないかな? 服は……わたしのじゃ小さいよね?」


 遠回しな賛成だった。

 伊吹さんが三嘉凪さんに食って掛かっているのを見ながら、わたしは鈴に言った。

 わたしを危険から助けてくれるというなら断る必要はないし、入鹿お姉ちゃんの義理とはいえ妹さんなら入鹿お姉ちゃんの話が出来るかもしれない。


 歳が近いのでいい話し相手が出来るようなものだろう。

 鈴の安全は完全無視だ。皆さん気付いてないのかな? 

 わたしは追われてるかもしれない。

 だけど、鈴は確実に追われているのだ。

 見つかってタダじゃすまないのはわたしよりも鈴の方だ。

 あれ? よく考えると逆にわたしが鈴の護衛役を引き受けただけのような……


「学校かぁ。姫を学生として潜入させるのか。上手くすればお嬢ちゃんの友人としてグレネーダーに潜入できるかもしれないな」


「いやいや、グレネーダーに行ったところで大した意味はないよ伊吹君。それよりもむしろ、鈴君に食いついてきた奴を各個撃破が狙いだ。そのうち生け捕りにも出来るだろう」


 なるほど、つまり鈴を囮にして近づいてきた妖使いを片っ端から捕まえる。あるいは殺す。そうして……どうするの?

 それだと妖能力研究所には辿り着けない。

 場所は分かっているのにそこに攻め込まないのは戦力が足りないからなのに、わざわざ自分たちの場所を知らせる意味は?


「あの、その場合だと鈴の方が危険だし、ラボ? に見つかったらここも殲滅させられませんか? 戦力が足りないから避難しているんでしょう?」


 しかし、これに三嘉凪さんは異を唱えた。


「違うな。これは宣戦布告なのだよミカ君。そして君にこちら側に来て貰うための秘策でもある」


 秘策?


「うむ。これならおそらく君の周囲へ被害が及ぶのを防ぐことが出来ると思うんだがね」


 はぁ……? よくわからないけどそんなことをしてわざわざ厄介な奴と思われる必要はない気がする。


「でも、わたしは翼お兄ちゃんから身の安全を保証されてるよ?」


「だがラボからすれば、我々と接触を持った者を生かしておくほうが危険だ。部下の願いをいちいち聞いて危険に怯えるか、抹消してしまうか。連中がどちらを選ぶか、簡単に分かるだろう?」


 そのために鈴を学生として送り込む。ラボが罠に掛かるのを待つために。そして……


「そして、我々がラボあるいはグレネーダーの敵対組織だと世に知らしめる。協力者は自ずと集まってくるわけだ」


 これが一番の狙いらしい。


「ま、できるだけ派手に暴れ、かつ捕縛、本当に抹消されないことが条件だがな」


「そこが一番のネックなんじゃ……」


「ま、高港支部のグレネーダーの面々は大体分かる。白滝にさえ気をつけりゃ案外なんとかなるもんさ」


「白滝さんにだけ、ですか?」


「うむ。奴の妖【釣瓶火】は時間を巻き戻す。やるなら思考できない程の一瞬で確実に殺すこと。出来ないようなら絶対に戦うな」


 そういえば翼お兄ちゃんがそんなことを言っていた気する。


「とはいえ、ラボも表立って君を抹消はしないだろう。君の友人に手を出せば翼君も黙ってはいないだろうしね。やるなら事故に見せた暗殺か彼自身が殺すよう仕向けることだ。だからこそ、鵺の妖を持つ鈴と一緒にいることは大切なのだよ」


 言われるとなんとなく間違っていないように思える。

 どうしてそこで鈴が必要になるのかは別として。

 なんか、三嘉凪さんに丸めこまれた気がする。


「話は纏まったな。んじゃあ俺は転入届でも作成しますかね。偽名は、河沼鈴鹿だ。今適当に考えた」


 話は済んだと伊吹さんは早々に部屋を出ていく。が、直ぐに戻ってきた。


「そういや事務所襲われたんだっけか、戻るのもなんだか間抜けな話だな」


「でも書類偽造するのは事務所の機械がいるんだろ」


「偽造言うな。全く、汚れ役はいつも俺にさせるくせに、なんならお前がやるか三嘉凪」


「やっていいのか? 私の汚い字でよければいくらでもしてやるぞ」


 ニヤニヤと微笑む三嘉凪さんに、伊吹さんは舌打ちして、今度こそ本当に部屋から出て行った。


「さて、ミカ君。鈴君を連れてってくれ。明日二人で学校に行けば転入は完了しているはずだ。彼が幻術をうまく使ってなんとかしてくれるだろうからね」


 他人任せな三嘉凪さんは、鈴の面倒までわたしに任すと、ベットに寝転がって高鼾を始める。

 たった一瞬だけのはずなのに、鈴が蹴っても叩いても、全く反応しなかった。


「はぁ。どうする?」


「家に行くしかないよね、これ……」


 二人見合わせながら、溜息を付くわたしたち。どう見ても厄介払いと押し付けだった。

 なにか言ってやりたいが深い眠りについてしまったのではなにも言えない。


 イジメ……と言われれば思えなくもない。

 けど、微妙すぎて逆に腹が立つ。

 と、いうわけで、ささやかな反抗にと鈴と二人で協力し、三嘉凪さんを蹴転がしてベットの下に収納してあげた。

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