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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第一節 化狸
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群(むれ)を外れたツバメの選択

 昼休憩、どうにもこの学校には給食の概念がないようで、購買に行くか弁当を作ってくるかしなければいけなかったらしい。

 中学だからと油断した。

 しまったなぁ。

 伊吹さんと翼お兄ちゃんの弁当だけで自分の弁当作るの忘れてたよ。


「どったの美果ちゃん?」


 財布の中身と相談していると、刈華が近寄ってきた。


「あ、うん、購買行こうかどうかって迷ってる」


「あ、それだったら私が……」


「ほ~ほっほっほっほっ!」


 なに? この怪しさ爆発の高笑い……


「ごきげんよう出雲さ~ん♪ それでしたら私のディナーにご招待いたしますわっ」


 鴇まで近寄ってきた。

 この人制服も合ってない。

 いや、似合うかどうか以前にサイズの方がね、おへそまるだしだし。

 スタイルいいからいいんだけどさ……

 思わず自分の寸胴体型と見比べる。お腹を摘まむと贅沢なお肉が……うっ、ちょっと太ったかな?


「あのねぇ、横から掻っ攫うの止めてくれる鴇」


「私は無垢な出雲さんを悪漢の魔の手からお守りしているだけですわ」


 あ、悪漢なんだ? まさか、百合な人?

 わたしはついつい刈華を見てしまう。

 それに気付いた刈華は慌てて否定した。


「違う違う! 私は百合薔薇な気は全くないわよ。そんな学園伝説の上下先輩じゃあるまいし、単純にこの鴇とは腐れ縁でさ、私が友達作ろうとすると妨害して遠ざけようとするのよ」


 今度はじぃっと鴇を見る。


「ダメですわ出雲さん。このような不貞の輩を信用しては」


 うぅむ、どっちに付けばいいのだろう?

 折角声を掛けてくれたので刈華をフォローしてあげたいのだが、もしも鴇の言い分が正しい場合、翼お兄ちゃんにあげるべきわたしの操が危機になる。

 でもま、どうせ食事を貰えるんだったら、


「うん、三人で一緒に食べよ」


 結局どっちつかずを取るわたし。

 優柔不断だなぁ。翼お兄ちゃんみたい。

 三人とも机は離れているのでくっつけるには少々骨。

 仕方ないので外で食べることにした。


 下足場から自分の靴を持ってきて、廊下の窓から裏山へ。

 ちょっと斜面だけれど人工芝を植えてあるらしく座り心地は満点。

 校舎が見渡せる程度に上がって遊歩道の一歩手前に座りこむ。


「うわぁ、結構いいねここ」


 可愛らしい弁当箱を太股において座った刈華が間近に見える屋上のフェンスを見ながら感嘆を漏らす。

 でも、全校生徒から丸見えなんだよね。


「座り方に気をつけないといけませんわね」


 確かに、ところどころ男子がわたしたちを下から覗き込むように見つめてくるんだよ。

 ここまで登ってくるの失敗だったかな。


 鴇の弁当箱は結構大きかった。

 重箱のような大きさが二段。中身も結構沢山入っている。

 対する刈華は個人用なので内容物を三人で分けるのはかなりキツい。

 鴇の重箱がメインな食事になりそうだ。


「お友達の皆さんと分けようと思いまして」


「つってもあんたの言動が嫌ですでにクラスメイトの殆どに縁切られてるけどねぇ」


 うっと呻く鴇。結構寂しかったんだね。

 というか、まだ入学から殆ど経ってないよね?

 可哀想過ぎる。きっと刈華とバトってたのが原因だろう。わたしにも責任あるだろうし、せめてわたしだけでも友達でいるよ鴇。一人じゃないからね。


「刈華と鴇さんって知り合いなの?」


「んー。まぁさっきも言ったけど腐れ縁よね」


「別に仲良くはありませんわよ。ライバルですもの」


 と、弁当から玉子焼きを掴み取って言う。

 パクリと一口で食べてしまい、同じ箸で掴んだもう一つの玉子焼きをわたしの前に持ってくる。


「どうぞ、差し上げますわ」


「あ、ありがと」


 とは言ってみたものの、箸を渡してくれる気配はない。

 つまり……口を開けて待っていろと?


「鴇ぃ、どう見てもあんたの方が百合っぽいわよ」


 わたしの思いを察した刈華がからかう。


「箸が一つしかないのですから仕方ないではありませんか」


 いや、だからその箸を渡してくれれば……


「ほら、口を開いてくださいな」


「あ、じゃあ私も~」


 などと言いながら刈華も自分の弁当からウインナーを取り出す。

 伝統のタコさんウインナーだ。

 散々迷った。迷いに迷って迷った挙句、結局あ~んってしてる自分がいた。




 放課後も放課後で、二人ともがわたしの元にやってきた。


「美果ちゃん、一緒に帰らない?」


「甘いですわね百合娘。出雲さんは私とご一緒されるのです」


 なんだろう? まるでどちらかと帰らなければいけないみたいなこの雰囲気?

 二人とも友達わたししかいないんだね。うぅ、なんで涙がでそうになるんだろう? 強く、強く生きるんだよ二人とも。


「あ、あの~。ごめんなさい、帰りはちょっと寄り道しないといけなくて」


 言い争う二人に気付かれないようにそーっと入り口に向かう。

 二人がえ? っと振り向いた瞬間、「じゃあまた明日~」とダッシュで逃げることに成功した。


 さすがに伊吹さんの事務所に連れて行くわけには行かないし、彼女たちに付き合っていると伊吹さんの事務所に行く時間がなくなる。

 友達付き合いはしたいとは思うけど、お姉ちゃんの情報の方が優先度は高い。


 校庭を駆け抜けながら、わたしは心の中で二人に謝る。

 わたしはただただなにも知らないまま、平和な日常は過ごせない。

 一度気になってしまった好奇心には抗えないから、もう、後に引くことなんて出来ない。


 これは性分だからこのまま一生わたしはこうやって生きていくんだろう。

 それに、伊吹さんが同族だから。

 学校にいるより……居心地がいい。


 事務所に着くと、伊吹さんは外出中だった。

 昨日もそうだったんだけど、無用心に鍵が掛かっていない。

 外で待ちぼうけという結果にならないだけマシではあるけれど、どうにも安全面に欠けることは確かだ。


 やっぱり汚く散らかってたので適当に片付けて、暇になったら鍵付きの棚から読みかけの小説を取り出す。

 第一の殺人で幼馴染が殺され、妹と主人公しか居なくなった先の読める小説。

 なんとなく悔しいのでどんでん返しを信じて最後まで読もうと思う。

 さてさて、一体この結末は……


「お、今日も早いねぇ~」


「うそぉっ!?」


「ぬおっ!?」


 読み始めて数十分、伊吹さんが帰ってきた刹那、タイミングよくわたしは叫んでいた。


「どうした? いきなり大声上げて?」


 心配になったのだろう。伊吹さんが近寄ってくる。


「だ、だって、妹さん死んじゃったっ」


 ハテナマークを浮かべ伊吹さんはわたしの見ていた推理小説を見る。

 メインの三人のうち二人が死んでしまってはもはや犯人は主人公以外にいないではないか。まだ半分もページ数残ってるのにどうする気だこの小説。


「ああ、その犯人は幼馴染だ。おっとっ!」


 伊吹さんよりもたらされた回答。

 推理小説を読む時にとって、一番やってはいけないタブーだよ伊吹さん。

 今さら口に手を当てても遅いです。


「幼馴染って最初に死んでるじゃないですか」


「ああ。死んだフリだ。死んだフリ。ほれ、最初に無駄に主人公に出会ってた女が一人居たろ? アレが殺されてる。んでもって主人公も死ぬぞソレ」


 さりげなく嫌なオチを聞かされてしまった。


「ところでお嬢ちゃん、一つ聞いてもいいか?」


「はい? なんですか?」


「二人とは知り合いなのか?」


 一瞬聞かれた意味が分からなかった。

 伊吹さんが懐からあまり似てない似顔絵を出してようやく理解する。

 セーラー服書かれてなかったら誰か分からなかったよ。


 おそらく聞き込みで似顔絵描いてきたんだろう。

 つまりはそのくらい進展があったということだ。

 さて、どう答えよう?


 まず伊吹さんが欲している答えがどんなものかによってわたしの答えるべきものが変わってくる。

 単純に聞いているだけか、関わり合いになりたくなくなったのか。それとも……彼らの仲間か。


 もしも1なら秘密と答えれば済む。

 2だとグレネーダーの翼お兄ちゃんの役に立つために場所が知りたいから。

 3だと事実を話したほうがいいだろう。


 どうする? 間違った答えを選べば、最悪わたしが抹消される。

 グレネーダーにか、探している相手に。

 最近は迷うことが多いなわたし。

 沢山迷ってしまって、いつも結局は一番ダメな回答を選んでいるような気がする。

 だから、わたしは……

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