探偵とセーラー服
今回、途中から美果ではなく別人の視点で描かれています。
「なんだ、帰ってたのか」
伊吹さんが事務所に帰ってきたのは、わたしがデスクにもたれて荒い息を吐いてるところだった。
いや、焦った。まさかアレ全部必要なものだったなんて。
たかが葉っぱだと思ったけど、意外な使い道があったようだ。
ただ、ゴミ袋を両手に持って二度目の四往復はさすがに堪えた。
しかも今回は全力疾走の上、元の場所へと配っていかないといけなかったから労力が掃除するより激しく消耗した。
「なにやってたんだ?」
わたしの状態に不審がる伊吹さん。なにをしてたかって? 決まってる。
「片付けです……」
ゴミ袋から木の葉たちを救出したわたしは、全てを元通りの場所へと収納したのだ。
伊吹さんが帰ってくるより一瞬早く終わったのは奇跡と言ってもいいだろう。
なんといってもただ一箇所に溜めこんであるわけでなく、額縁の裏とか灰皿の底とかデスクの引き出しとか本の間とか、一番きつかったのは本棚の裏に大量に埋蔵されていた葉っぱを元に戻す時だった。
あれは軽く死ねました。
それでもなんとかやり終えたのだから、わたし、誰かに賞賛されても良いと思うんだ。うぅ。誰か褒めて……
「猫は?」
「ああ、今さっき届けてきたよ」
と、報酬らしい封筒を見せてくれる。
「よかったじゃないですか、それで食費ができましたね」
「そう思うかい?」
デスクに着いた伊吹さん。封筒の中身をデスク上に転がした。
出てきたのは百円玉がひぃふぅみぃ……三百円?
「近所の子供の依頼でね。一日分の食費になればいいほうさ」
三百円ではコンビニ弁当も買えませんが?
アレか。カップラーメンを三つか。あんましお腹の足しにはならないよ。
「へ~、優しいんですね伊吹さん」
「ふ、レディには優しいのさ俺は」
わたしには30万とか吹っかけてたくせに。
「ようするにロリコンさんですか」
「断じて違うっ!」
力説するような大きな声だった。
「さて、そろそろ時間もいい頃か……」
なんていいながらわたしをちらりと見る伊吹さん。
お、襲われるっ!?
や、やっぱりロリ……いえ、変態紳士だったのね!
よほど顔に出ていたのだろう、だから違う! といいながら流し台を差す伊吹さん。ようするに夕食作れということらしい。
一応依頼しちゃった側だしなぁ。
なんでお金の代わりに食事を作らされてるんだろ?
そもそもタダだったはずじゃ?
騙されてるよね? 絶対騙されてるよねわたし。
結局食材買ってきて自分で作って、ソレを伊吹さんと食べたわたしは、家に帰って寝ることに。お母さんは食事を食べなかったことについて全く怒ることをしなかった。
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「あら伊吹。随分と困った顔ね。どうしたの?」
ベットに寝そべりコントローラをいじくっていた私は、やってきた自称探偵紳士の伊吹に視線を向けずに声を掛けた。
「お嬢……あんまゲームし過ぎると目が悪くなるぞ」
「問題ないわ。私の目が悪くなるわけないじゃない」
伊吹の忠告を右から左に聞き流し、私はゲームを続ける。
昔流行ったらしい格闘ゲームなのだが、私の持っているゲームはこれ一つなので毎日毎日これだけをプレイしている。
「毎日飽きないなお嬢はそのセーラー服もずっと着たままか。不潔だぞ」
「やること他にないもの。お姉様に関することは三嘉凪が調べてるらしいし、私は下手に動くと暗殺部隊に補足されるらしいからねー。あと、この服はちゃんと洗濯してるから。寝る時はお姉さまのパジャマ着てるから。汚くないわ」
正直、ここにいたところで妖反応は駄々洩れなのだ。私達の隠れ家が気付かれていないはずはないのだが、今のところは全く刺客がやってこない。
三嘉凪が何かしているのか、それとも単に泳がされているだけなのか。
後者だとすれば忌々しいにも程があるが、今の私にはお姉様の仇打ちを行う力はない。
無駄に打って出て殺されるならば、伏して待つのがいいと三嘉凪が言っていた。確かに、私が死んでしまえばお姉様の仇は誰にも打てなくなるので、私は三嘉凪の言葉に従いここでじっと待っている。
「で? 話は戻るけど、何しけた顔してるの?」
「顔を見てないのによくわかるな……ああ、もしかして尻尾の蛇の目で見てるのか」
「便利でしょ。後ろで何が起こってるかちゃんと見れるから死角がなくなるの」
なるほど。と伊吹はベットにどかりと座り、懐からタバコを取りだす。
ライターで火を付けると、プハーと一服。
「出雲美果。知ってるか?」
「出雲美果? んー?」
「調べてみたんだが、グレネーダーの抹消部隊に従兄がいるらしい。三嘉凪良太と川辺鈴を捜索するよう依頼を受けた」
「へー……」
右から左に聞き流しながらコンピューター相手にKO勝ちを決める。
コンピューターには勝てるのに、なんで三嘉凪には敵わないんだろうなこれ? 不思議だ。
……ん? あれ? 三嘉凪良太と川辺鈴を捜索?
「私を捜索っ!?」
急に大きな声で叫んだせいで、伊吹がタバコを取り落とす。
慌てて掴み取るが、丁度燃えてた場所だったらしく、「あっぢぃっ」とか言いながら手を離す。
運良くタバコの吸い殻は吸い殻入れに入ったが、伊吹の手は軽い火傷を負っていた。
アレが根性焼きという奴か。
「伊吹、どういうこと? なんでその美果? とかいうのが私を探している訳?」
「いちち……そ、それがわからんから俺は困ってだなぁ……昨日三嘉凪に連絡入れようとしたら電話に出ねぇし。仕方なくこっちに来たんだよ」
「そう……ふむ。出雲美果……ね。どんな子だった?」
「性格はいい子だと思う。掃除も食事もなかなか優秀だったな。後は……ああ、妖使いだ。【人魂】のな」
人魂……?
その能力を思い浮かべた途端、私の中で出雲美果と繋がった。
ああそっか。あの子か。あの子が……私を調べているのね。
「そう……ふふ。なんだか面白くなりそうね」
果たして彼女は味方かな? それとも敵?
もしも彼女の目的が私を探すではなく、あのことを調べようとしているのならば……ああ、本当に、面白くなりそうだ。
遠くない未来に出会うだろう少女を思い浮かべ、私は静かにほくそ笑む。
そして、新たにストーリーモードでゲームを始めるのだった。
「意味あり気に笑ったと思ったらまだやるのかよっ!?」
伊吹がツッコミ入れてくるけど、仕方ないじゃない。このくらいしかすることないんだもの。




