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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第一節 化狸
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迷い、棚上げ

 家に帰りついたわたしは、部屋に着くなり貰った名刺を取り出した。

 木製の勉強机に肘を突き、椅子に座って名刺を見る。

 私立探偵……伊吹健二。

 妖使いでありながらグレネーダー以外の仕事をしている人。


 彼の不自然な移動は恐らく木の葉と速度に関係のある妖使いだからなのだと思う。

 名刺には名前や職業のほかに、電話番号とファックス番号も書かれていた。

 しばらく見つめながら考える。住所ないよこれ。


 これはなにかの縁だろうか? この人は探偵。

 つまりお金を貰う事で探し人を探したりしてくれる人。

 頼んでみようか?


 ふと思いついた考えに、頭を振って打ち消す。

 危険なのだ。今から自分が調べようとしていることは。

 もし感付かれれば秘密裏に殺される可能性もあるくらい。


 そうよね。他人を巻き込んじゃダメよ美果。

 自分に言い聞かせて立ち上がる。名刺は机の一番上の引き出しにしまっておいた。

 入鹿お姉ちゃんが口に出していた言葉を真似るように拳を握る。


「頑張るよ入鹿お姉ちゃん。だって、美果は強い子だからね」


 気合を入れたところでお母さんから食事の合図。

 気分をそがれたせいでちょっとむくれ気味に返事して、わたしは食事を食べに下に降りる。


 わたしは翼お兄ちゃんを除くと、お母さん以外に家族は居ない。

 翼お兄ちゃんは時々家に寄ってくる。

 向こうも向こうでどっかのマンションに居を構えているんだけど、両親は既に他界。


 そのせいでお金もなくて、高校生なのに学校も中退していた。

 ついでに自宅にも滅多に帰らず、わたしの家とグレネーダー支部を住まいにしている。

 マンション、解約しちゃえばいいのに。


 今はグレネーダーに入ったお陰でお金は入ってくるみたいだけど、まだ新人。初任給は23万円だった。

 ちなみにわたしと遊びに行ってゲームセンターのUFOキャッチャーだけで使い切ってしまったりしたのだけれど、まぁいい思い出だ。


 お母さんは娘のわたしから見ても美人とは言いがたい。

 線は細すぎて、どこかにぶつけたらポキッといっちゃいそうだし、毎回の水場仕事で手は荒れ放題。


 いつもは長い髪が料理に入らないように手ぬぐいを頭に巻いて作業している。

 本日もエプロン姿、目が隈だらけの疲れきったような顔でわたしを出迎えた。


 今日は豆腐ハンバーグがメインで豆腐とアゲのお味噌汁。

 テレビをつけて二人で見ながら、会話のない食事を始める。

 お母さんはとても無口だ。


 言いたいことは全然言えないから、周囲の人からまるで空気のように扱われてる。

 嫌な町内会の班長の仕事も全部お母さんに回されて、お母さんは自己主張できない人だから仕事も滞り気味でよく怒られている。

 仕事の上司から、町内会の人たちから、そして隣のおばさんからも。


 一度も言い返したりしない。常に謝ってばかりで、他人が怒るとわたしにさえ頭を下げる。

 だから……お酒好きの乱暴なお父さんと別れたのだって、わたしが勧めに勧めて翼お兄ちゃんにまで応援を頼んでようやくのことだった。


 嫌いではない。嫌いなわけはなかった。

 でも、わたしはお母さんを好きでもない。

 ただ、わたしが付いてないとどんどん坩堝に填まっていきそうだったから一緒に住むことにした。

 わたし一人だったらさっさと翼お兄ちゃんの家に通い妻……っていうかもう同棲してるし。


 お母さんは相変わらずご飯に目線を合わせたまま黙々と食事を取っている。

 決してわたしの顔を見たことはない。生まれて一度も見ていないんじゃないかなって思うくらいに顔を合わせようとしないのだ。


「ごちそうさま」


 手早く食事を済ませたわたしは、食器を流しに持っていってお風呂を洗いに行く。

 食器の方はお母さんが洗ってくれるし、お風呂についてもお湯を汲んでくれる。わたしの仕事はお風呂を洗っておくだけだ。


 お風呂を洗い終えると、わたしは自分の部屋に戻る。

 人形の一つを抱きしめながら、またも思考の海に埋没する。

 一人で調べるのには限界があった。


 翼お兄ちゃんに付き添って資料室で調べたり、白滝さんに付き添って支部長に挨拶にいったりもしたけど、それでもわたしが満足のいく情報は得られなかった。

 やっぱり、頼んじゃおうかな。探偵さん。


 胡散臭くはあるけれど、危険を感じたらこちらも殺す気で掛かるだけ。

 すでに殺人は覚悟はしたつもりだ。

 こっちはすでに命の遣り取りを覚悟する状況なのだから。


 引き出しを開いて名刺を取り出す。

 じぃっと見つめてまた迷う。

 どうしよう? 頼もうか、頼まず自分で調べるか……


 行動を起こさないことには始まらない。

 でも、その行動が起こせない。

 よし、明日なにもなかったら電話しよう。

 そう、心に決めて、今日は大人しく寝ることにした。


 でも……と思う。

 明後日からこちらの中学校に入学することになっている。

 やっぱり新しい学校に入るからには友達作りたいし、グレネーダーに消されないかとびくびくしたくもない。

 できれば明後日までに納得のいく答えが知りたかった。

 まぁ、無理だってのは分かってるんだけどね。

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