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妖少女  作者: 龍華ぷろじぇくと
第一節 化狸
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出雲美果は好奇心で行動する

 太陽は真上に輝き、春の日差しを高らかに宣言していた。

 グレネーダー高港支部からの帰り道、朗らかな風に吹かれながら、私はため息を吐く。


 折角の陽気だというのに、気分はちょっとブルーだったりする。

 だって、進展全くないし。

 どれだけ調べても関連の有りそうなものが全く出てこないんだよね。


 届けた弁当は翼お兄ちゃんが空箱にして家に持ってきてくれるだろう。

 それは別にどうでもよかった。翼お兄ちゃんの弁当はついでのようなものだから。


 今はお姉ちゃんの足跡を辿ることが重要だ。

 言いたかった。いろいろと助けてくれたお礼が。

 だけど、お姉ちゃんはもう居ない。


 わたしが知っていたお姉ちゃんの素性は殆どなくて、一度は彼女の住処を訪ねたし、グレネーダーの当時の人たちにそれとなく話も聞いた。

 といっても翼お兄ちゃんと白滝さんだけなんだけどね。

 もう一人のメガネの人は……どこに居るかすらわからないから会ってない。一応副指揮官らしいのに、何やってるんだろうね?


 それでもわたしが知らなかったことが幾つか分かった。

 お姉ちゃんの名前は斑鳩入鹿。

 茶吉尼天の妖使いで、妖専用特別対策殲滅課抹殺対応種処理係に入社。


 今の指揮官である白滝さんを副隊長と呼び、ある種憧れというか恋心というかを抱いていたそうだ。

 おっちょこちょい。というよりは四六時中不運に付きまとわれていて、わたしの前で車にぶつかったり信号機にぶつかったりしていたけれど、グレネーダーのムードメーカーになっていたみたい。


 明るい性格だったのがよかったんだろうね。

 ドジってもすぐ挽回してるみたいだし。

 みんなもすぐに入鹿お姉ちゃんだから仕方ないか。

 みたいなあきらめムードで受け入れていたみたい。


 むしろ、前に居た支部長さんはそんな入鹿お姉ちゃんのポカを楽しみにしていた節すらあったようだ。

 その支部長さんも今は行方不明なんだけどね。


 折鹿という妹さんがいて、はるか昔に事故で亡くしたらしい。

 あと、えーっと。なんだっけ? ……ああ。

 死ぬ少し前に指揮官に格上げされた白滝さんとデートを成功させたんだって。押せ押せでそこまでいけるなんて、ちょっと憧れる。

 でも……結局はその白滝さんの手によって、抹消された……


 グレネーダーをどう裏切ったのかは教えて貰えなかったけれど、翼お兄ちゃん曰く、入鹿お姉ちゃんは幸福そうに死んでいったらしい。

 それが本当なら、何の未練も無く成仏していることだろう。

 本当に、それが真実だとしたら……


 でも、なんでかな? わたしには、入鹿お姉ちゃんがまだ現世に留まっているように思えてならない。

 何かしらの未練がある。そう、思うんだ。

 わたしの人魂としての感が告げるんだよ。だから、それがなくなるまで、わたしは諦める気はない。


 歩いていたわたしは、ふと、電柱の横で佇むソレを見つけて足を止めた。

 街路地の一角に、不自然に佇んでいる小学生くらいの半透明な存在。

 目玉は無く、両手で背中のランドセルをしょいこみ、その場にたたずんでいた。

 ぼーっと立つように、浮世を見つめる魂の残滓。


「ここは……多いな」


 側に置かれた花束が哀愁を誘う。

 きっとなにも分からないままに死んだのだろう。

 まだ自分が生きているんだと、早く学校に行かないと、とそれは人に聞こえない声で叫ぶ。


 誰にもわからない、わたしにしか理解できない人成らざるモノの嘆き。

 わたしは触手を操りそっとソレに触れ、真実を教えた。

 ソレは最初は納得できなくて、でも結局理解するしかなくて……わたしに別れを言って消えていった。


 わたしの名は出雲美果。

 わたしも妖使いとしての力を持っていた。

 それは人の核ともいうべき魂を操る力。【人魂】の妖使い。


 欲は怪談話。

 魂を扱う妖のためか、人に怪談話をして恐がらせることが欲だった。

 正確に言うなら怪談話というよりも人に恐怖を誘うこと。がわたしの欲望なのかもしれない。

 まぁ、そんなことはどうでもいいよね。わたしも興味ないし。


 あ、でもね、他にも墓場に行って幽霊さんたちと会話するのは好きだよ。

 これって欲になるのかな? なんだか墓場って落ちつくんだよ。

 浮遊霊化しているお爺さんとか結構話しやすいし。


 能力は人には見えない触手を伸ばして魂を掴むことが出来るのと、先ほどのように魂と直接会話できること。

 この力を使って、入鹿お姉ちゃんの魂と会話しようと試みたこともあった。だけど……


 翼お兄ちゃんに案内された入鹿お姉ちゃんの死亡現場には、なんの残滓も残っていなかった。

 わたしが入鹿お姉ちゃんと過ごした時間は本当に短かったけど、わたしにとってはそれだけで大切な友達だと思えた。

 あの人、本当にインパクトだけは強いんだもん。


 だから……知りたい。

 あの入鹿お姉ちゃんがグレネーダーを裏切った理由を。

 裏切らなければならなかった真実を。

 たとえ自分の身が危険になろうとも、好奇心がわたしを突き動かすことだろう。


 ……あ。

 決意を胸に拳を握り、ハタと気付く。

 翼お兄ちゃんに渡した弁当、箸つけるの忘れてた。

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