置き手紙
突然、如意自在が喉から血を流して倒れた。
その場の全員が、攻撃を受けかけた刈華すらも唖然とする中、隊長だけが愕然とした表情で、穿たれた地面を見つめていた。
「まさか……奴が!?」
血相を変えた隊長がいきなり走りだす。
って? え? ちょ、隊長!?
あの……小雪の回復を……
という間もなく隊長は風のように去って行ってしまった。
如意自在や韋駄天については完全放置である。
っと、韋駄天!
そうだよ、まだ韋駄天が残って……
私は慌てて韋駄天の動向を探る。
視線が彼を捉えた時、丁度韋駄天が崩れ落ちるところだった。
その背後に、一人の少女が現れる。
見覚えのないその少女は、セーラー服を着たお下げの少女。
不気味な紫色の髪。冷めた目付き。そして……獣のように肥大化した右腕。その爪からは鮮血が滴っていた。
その少女は私に気付くと、ニタリと笑う。
ゾッとした。
いつの間に現れたのか分からなかったけど、気付けば今まで気付かなかったことが冗談としか思えないくらい、強い妖反応を感覚器に主張してくる。
それも、少女がいる位置に、複数の妖反応。
見ただけで、感じただけで理解した。
アレは……化け物だ。
戦慄する私から刈華に視線を向けた少女は、驚愕の面持ちで見つめ返す刈華としばし相対する。
が、すぐに踵を返して走り去る。
「ま、待ってッ、……鈴鹿!」
弾かれたように刈華が手を伸ばす。
けれど鈴鹿と呼ばれた少女は振り向くことなく消え去ってしまった。
後に残された刈華は今さら走りだそうとして、結局足を縺れさせて転倒する。
にしても……鈴鹿って、確か刈華の友人の一人じゃなかったっけ?
……え? つまり刈華の危機を察知して助けに来たってこと?
あれが……学校に来ていた? よく気付かなかったな私。あ、いや、でも記憶はあるかも。
一年教室に数日だけ異様な数の妖使いが集まってたのは感じた事確かにあった!
二日くらいで消えたから忘れてたけど。日々の真奈香アタックを回避するのでそんなどうでもいいこと覚えてる暇なかったんだよ。
「小雪っ、しっかりしてっ」
私が刈華に気を取られていた間に、小雪に駆け寄ってきた雪花先輩が切羽詰まった顔で呼びかける。
彼女のこういった顔は滅多に見れそうにないので何気に希少だ。
でも、どうしよう。小雪を助けられそうなのは隊長くらいしか知らないんだけど……
隊長に置いてかれたから私どうしようもないし。
翼……は回復できないし、前田さんも無理だ。刈華は凍らせることで延命はできるか。
雪花先輩の能力は意味ないし……真奈香は……あ。
「真奈ちゃん!」
「な、なに有伽ちゃん!?」
今まで憎悪対象だった如意自在が死んだことで自失呆然だった真奈香だったが、私の声に反応して、慌ててこちらに駆け寄ってくる。
「ごめん。詳しく話す暇はないんだ。小雪を病院に担ぎ込んで。真奈香の全力で!」
「私の全力……あ。そっか。うん。いいよ!」
私の意図した意味を理解したのか、真奈香が小雪を抱え上げて走り出す。
すぐに空中へと足を踏み出し真奈香が空を駆け抜けていく。
障害物があればいろいろやっかいだけど、強化された肉体と空を駆ける能力があれば、きっと最短距離で辿りつける。
小雪は真奈香に任せたので、私は事後処理に携わることにする。
その頃には翼と前田さんが我に返って私達に近寄ってきた。
「高梨、あの二人、死んだと見ていいんだよな?」
「たぶんね。だから、確証は無いけど刈華たちに対する任意同行とかは先延ばしになると思う。また新しい誰かがくるまでは安全かな」
私達は如意自在と韋駄天の生死を確かめるべく翼は如意自在に、韋駄天に私と前田さんが寄っていく。
前田さんが韋駄天に触れて脈拍……というか振動を計る。
しかし、すぐに私に顔を向け。首を横に振った。
やはり死んでるみたいだ。
まさか同業者の死に携わることになるなんて……っていうか……韋駄天、死因はなんだ?
背中に爪痕はあるけれど、かなり浅い。
確かに痛いだろうけど、これだけで死ぬとは思えない。
一体、どうやって殺されたのだろうか? きっと、死因を知ることは私には一生掛かっても出来ないだろう。
…………?
韋駄天の死体の下に、何かが挟まっていた。
韋駄天をちょっとばかし動かしてみると、便箋に入った手紙を見つけた。
その手紙には、刈華へ。と書かれている。
「刈華。これ」
私はそれを拾い上げ、刈華に手渡す。
中身に興味はあったけど、さすがに刈華宛ての手紙を読む気はない。
私から手紙を受け取った刈華は、やや怪訝な顔で手紙を開く。
そこに書かれた内容は、私にはわからなかったが、驚愕の事実だったのは確からしい。
手紙を読んだ刈華は急に涙ぐみ、その場に泣き崩れた。
そのまま大声あげて泣き出してしまった。
気になる。刈華がここまで豹変するとか、一体何が書かれていたんだろう?




