狙撃
……え?
私は思わず目を疑った。
公園の芝生、いや、叢から一気に飛び出してきたそいつは、刈華を押しのけ、自らの身体を身代わりにしたのである。
脇腹にナイフを突き入れられたのは、樹翠……小雪だった。
え? 小雪? なんで?
あれ、どうしてあの娘がこんなとこに?
「こ、ゆき……?」
雪花先輩もこれは予想外だったらしく、大きく目を見開いて驚いていた。
韋駄天が恐る恐るナイフを引き抜くと、小雪が刈華の上に倒れ込む。
「小雪っ!?」
私は咄嗟に真奈香の拘束を振り解く。真奈香も予想外の出来事に力が緩んでいたようで、難なく私は脱出を果たす。
そのままわき目も振らずに小雪に駆け寄った。
「あ、え? ちが、俺ぁ……」
「あらら? ちょっと、なんで部外者が出てくるかな? あれ? これってもしかして始末書?」
「姐さん嘘だよな、俺、始末書じゃねぇだろ!? アンタの方が先輩だもんな! 責任問題だよな!?」
「そうね……ていうか、これって監督責任!? 私の出世が!? ちょっとなんで一般人やっちゃうかな! かな!」
如意自在も予想外の展開にちょっとパニくっているようだ。
唾を飛ばして韋駄天に反論するが、頭を抱えて戸惑っている。
殺す殺す言ってるわりには一般人に怪我を負わせる気はなかったってことかこいつら。
やはり、抹消対象と一般人を区別しているようだ。
同じ人間なのに……いや、それは私も同じか。
小雪に駆け寄った私は、血を流し始めた小雪の身体を抱き上げる。
私が上半身を抱えたことに気付いた小雪は、力なく微笑んだ。
「あんた、何してんの!」
「いやー……あはは。有伽のスト―キングで見てるだけのつもり……だったんだけどね。お姉ちゃんの友達が死んじゃうって思ったら……つい」
あんた……
ええい。今は一時を争う時だ。隊長の元へ連れて行かないと。
私が小雪を抱え上げて隊長の元へ向おうとした時だった。
「あ、ちょいまち赤髪さん」
なぜか如意自在に呼びとめられる。
「そいつ、そっちのマイペース娘の妹か?」
「それが何? 一般人なんだ、早く怪我治さないとっ!」
「いやいや、犯罪予備軍じゃん。じゃあそいつもやっちゃったほうが良くない? うん、そうしよう。犯罪者の仲間なら始末書必要無いしぃ」
こいつっ!
私は思わず如意自在を睨みつける。
「あっれー? そいつも関係者なんでしょー? だったら……助けたりしたら、反逆罪になりそうねぇ」
ナイフを構え、ニタリとほほ笑む如意自在。
既に奥の手も放った後の私には本当に何も出来やしないけど、こいつぶん殴りたい。
ぐっと拳を握りつつ、なんとか少しずつでもと後ずさりを行う。
「この娘は一般人よ。間違いなくね。それでも殺すっていうのなら、あんた、妖能力で一般人殺した……犯罪者だよね?」
せめてとばかりに如意自在に嫌味ったらしく言ってやる。
「……言うじゃん。なら、特別あんたも抹殺対象にしてやろうかぁッ! 犯罪者になっちまいなさい!」
半ば来るかな? と思っていただけに、私は即座に真後ろに飛んだ。
一瞬前に私が居た場所を適確に貫く二つの腕。
手にしたナイフが空を切るが、そこで終わらない。
伸びた腕はさらに私を狙って飛んでくる。
さすがに私の身体能力じゃ逃げ切れないけれど……
私は口から舌を吐きだし、近づいてきた腕をからめ捕る。
片方を無力化したあと、その腕を防壁にもう一つの腕の進行を妨げる。
「ひぃあっ。汚いっ!? ちょ、私の腕を舌で絡め取るとか、変態ッ!」
慌てて両腕を引き上げる如意自在。
「あんた……邪魔したわね? 私が狙ったのはアンタの後ろに居る雪女なんだけど?」
私が刈華を助けたことにして無理矢理殺す対象にしようとする気らしい。
バカめ。そうそう乗ってたまるかい。
「残念、正当防衛でした。たとえそっちを狙ったとしても射線上にいたボクに突き立つ可能性があったしね。自分に掛かる火の粉を消しただけ」
屁理屈のようにも聞こえるけど、相手もそのつもりでこちらが認めた瞬間悪認定する腹つもりだ。
でも、どうしよう。これ以上私が攻撃くらうと、危険なんだよね。
おもに、如意自在が。
そっとそいつに視線を向けてみると、わなわなと肩を振わせ、何かをしきりに呟いている。
たぶん、有伽ちゃんを、有伽ちゃんを攻撃した。とかそんな感じだろう。
ええ、うん。当然、真奈香さんですよ。
私が攻撃受けたら確実にそいつ潰すために動くだろうから。
今は翼が必死になだめようとしてるけど、こりゃちょっと不味いかな。
真奈香が参戦すれば確実に敵対関係。私と真奈香が反逆者になりかねない。
「まぁ、いいわ。じゃあじゃあこんなのいかがでしょう♪」
そんな真奈香の様子に全く気付かない如意自在は、再び腕を伸ばして私に襲い掛かる。
が、私が舌を伸ばそうとすると迂回するように背後へ腕が伸びていく。
どうやら私を放置して目的の刈華を狙うらしい。
もしかしたら背後から奇襲してくるつもりかもだけど。
別に進路妨害してもいいんだけど。さすがにそれをしてしまうと言い訳もできなくなる。
こいつをなんとかしないと小雪を隊長に治して貰うことも難しそうだ。
どうした……ら?
私を迂回して伸びた如意自在の両腕が、刈華に襲い掛かる瞬間だった。
空を切る音が一瞬聞こえた。
次の瞬間、如意自在の喉に穴が開く。少し手前の地面に何かがめり込んだ。
「こぷっ?」
え? というニュアンスの声を洩らした如意自在。
しかしその言葉は声帯を失ったため血が流れ出るだけに留まった。
そして、何が起きたかわからないまま、如意自在が膝をつき、前のめりに倒れる。
即死……だった。
名前: 舞之木 刈華
特性: ブルマ大好き・ブルマー夫人は神
妖名: 雪女
【欲】: 登山≪雪山≫
能力: 【雪童子】
周囲に雪が積もった状態のみ使用可。
雪でできた人型無生物を生成できる。
【吹雪】
周囲に雪を積もらせる。
周囲の温度が低いほど強力になる。
【凍れる吐息】
相手を凍らせるブレスを吐くことができる。
【寒波無効化】
寒さを感じなくなる。
また、寒さによるダメージを受けない。
【熱弱点】
暑さに弱くなる。冬場は元気だが夏は確実に夏バテする。
【死の接吻】
口付けをした相手に息を吹き込むことで体内から凍らせる。
【同族感知】
妖使い同士を認識する感覚器。
個人によって範囲は異なる。




